命尽きて、なおも殺せぬ神話を知れ

 危険と宝物ひそむ迷宮があり、冒険者はそれに挑む……ハック&スラッシュのダンジョンアタックは、ファンタジーRPG小説では基本中の基本シチュエーションと言えましょう。
 それはつまり、地力が如実に現れる、ということです。「またダンジョンか」と敬遠していては、もったいない!

 ではこの作品はどうか? まず、空気感。土埃が肌につく手触りを覚えるような、ざらつく乾いた空気。鼻孔をくすぐるカビと汚物の悪臭。そんなものさえ想起される、翻訳ものっぽい文体――好きな方なら、これだけでビビッと来るのではないでしょうか。
 次に、軽妙なキャラクターたち。彼らが物語の場に躍り出るや、二言三言しゃべるだけで、もう目の前に彼らが立っているような躍動感を覚えます。結構、洋画にいそうなキャラクターが多いような気がしますね。個人的に、老婆であるビュッケ師匠と、老人とは特に言及されてないはずのタマリさんの関係について聞いてみたかった気が……いえ、いいです、はい。
 その上で繰り広げられる物語は、華麗なるダークファンタジー!

「魔法は〈神話〉の悪しき解釈の顕現である。」

そんな感じでさらりと語られていますが、ちょこちょこ出てくる文言から垣間見える背景世界は、神話の時代からやってくる原初的な恐怖と狂気の脅威に満ち溢れ、闇に惹かれるあなたの魂を必ずや掴んでくれることでしょう。
「ああ、この世界で生きてる人たちは、いちいち懇切丁寧に解説しないもんね……」作中の彼らのそうした〝言葉遣い〟、チラリズムは、非常にリアリティがあり、想像をそそられます。「畏れを待て」など、ほんの一言から、この世界の神話、宗教、精神世界、つまりは異文化が透けて見える構成は見事。
 こうした暗い浪漫と詩情あふるる世界観の構築は、中々出来るものじゃありません。これを見るだけでも、読む価値が、ドンとある!

 この世界にも、キャラクターにも、「血が通って」おり、物語は「血が流されずには終わらない」。そんなお話です。そして、その血はまた、次の時代へと続いていくのでしょう。
 その血は殺し殺されたものの証ですが、同時に、決して殺されぬものもあります。それが何かは、是非エピローグまで読んで、あなたの眼でお確かめください。

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