賞金首を追って、迷宮へと潜った賞金稼ぎたち。
罠などの危険はあるが、道を熟知した案内人もおり、迷うことなどありえないはずなのに。
ゲームや小説でお馴染みのダンジョンですが。
迷うとは、本来こんなに怖いものだったのか、と思い知らされます。
ホラー小説読んでるみたいに怖い。
迷宮の魔法に対抗する手段も凄絶。
しかし、生きて脱出するためには、それしかない。
この地下墓場の物語に、甘さは一切ありません。
でも、ものすごく文章が格好いい。
読んでいて高揚します。
『そして人は神を殺した』!
『そして人は神を殺した』!
『そして人は神を殺した』!
――そして、彼らは〈神話〉になった。
一転して、鳥人の話はちょっと笑えます。
迷子。
この言葉のイメージはひどく幼稚で滑稽に見えます。
しかし実際に道案内人もおらず、地図もなく、携帯の電波も入らないような僻地に取り残されればどうでしょうか。
それは幼稚でも滑稽でもなく、ただ突然に急激に、命の危機となります。途端に心細く、恐怖が増していきます。
この小説はそんな「迷子」の物語です。賞金首を捕えに来ただけの一行が、勝手知ったるはずの「迷宮」に囚われる。
そこで次々に起こる不可解な現象。
迷宮の血塗られた過去と共に何が彼らを囚えているのかが明らかになっていく。
この「迷宮の得体の知れなさ」の表現が見事です。
何故迷宮は再び「迷宮」となってしまったのか?
「神話」を打ち破る為に人間達が行った非道、「魔法殺し」とは?
最後に待ち受ける壮絶な死闘は、貴方も無意識に拳を握りしめることでしょう。
ダークファンタジーがお好きな方に是非読んで頂きたい作品です。
危険と宝物ひそむ迷宮があり、冒険者はそれに挑む……ハック&スラッシュのダンジョンアタックは、ファンタジーRPG小説では基本中の基本シチュエーションと言えましょう。
それはつまり、地力が如実に現れる、ということです。「またダンジョンか」と敬遠していては、もったいない!
ではこの作品はどうか? まず、空気感。土埃が肌につく手触りを覚えるような、ざらつく乾いた空気。鼻孔をくすぐるカビと汚物の悪臭。そんなものさえ想起される、翻訳ものっぽい文体――好きな方なら、これだけでビビッと来るのではないでしょうか。
次に、軽妙なキャラクターたち。彼らが物語の場に躍り出るや、二言三言しゃべるだけで、もう目の前に彼らが立っているような躍動感を覚えます。結構、洋画にいそうなキャラクターが多いような気がしますね。個人的に、老婆であるビュッケ師匠と、老人とは特に言及されてないはずのタマリさんの関係について聞いてみたかった気が……いえ、いいです、はい。
その上で繰り広げられる物語は、華麗なるダークファンタジー!
「魔法は〈神話〉の悪しき解釈の顕現である。」
そんな感じでさらりと語られていますが、ちょこちょこ出てくる文言から垣間見える背景世界は、神話の時代からやってくる原初的な恐怖と狂気の脅威に満ち溢れ、闇に惹かれるあなたの魂を必ずや掴んでくれることでしょう。
「ああ、この世界で生きてる人たちは、いちいち懇切丁寧に解説しないもんね……」作中の彼らのそうした〝言葉遣い〟、チラリズムは、非常にリアリティがあり、想像をそそられます。「畏れを待て」など、ほんの一言から、この世界の神話、宗教、精神世界、つまりは異文化が透けて見える構成は見事。
こうした暗い浪漫と詩情あふるる世界観の構築は、中々出来るものじゃありません。これを見るだけでも、読む価値が、ドンとある!
この世界にも、キャラクターにも、「血が通って」おり、物語は「血が流されずには終わらない」。そんなお話です。そして、その血はまた、次の時代へと続いていくのでしょう。
その血は殺し殺されたものの証ですが、同時に、決して殺されぬものもあります。それが何かは、是非エピローグまで読んで、あなたの眼でお確かめください。