エピローグ

 目を覚ますと僕はベッドの上にいた。


 体はだるくて動かせなくて、口の中はひどい血の味がした。ベッド脇に立っていたお手伝いさんが驚いたような顔をして、ばたばたと騒がしい足音を立てて誰かを呼びにいってしまう。しばらくしてから一人の男性が慌ただしく部屋に駆け込んできた。僕はぼんやりとその人を見上げた。


「……とうさま」


 なんで生きてるの、とは問えなかった。僕がそれ以上喋る前に、父様は僕を抱きしめて泣き始めたのだ。触れた場所から父様の体温がじくじくと伝わって、僕は、ああと息を吐いて目を閉じた。




 それから僕は奇跡的に病から回復した。咳が止まり、血痰を吐くこともなくなり、部屋に閉じ込められることもなくなった。僕は病にかかる前までの生活に戻ったのだ。


 ――だけど、いくら探せど、この屋敷のどこにも姉様と八房の姿はなかった。


 あれは現実だったのか、病魔に魘された末の悪い夢だったのか。姉様と八房はどこにいってしまったのか。


 恐ろしくて聞けないまま、この歳になってしまった。




 だけど、屋敷の裏庭の奥まった場所には、今でも確かにあの墓があるのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

伏姫 黄鱗きいろ @cradleofdragon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ