けして俯瞰にならないレンズ

18~19世紀、大陸で絶対王政とカトリックの優位が揺らぎ、中世から続いた「神ってる国々」の地位が落ちてくる時期。この時期を少し知る者ならばこの小説の深い面白さをより楽しめる。そうでなくても「なぜこの会話がこの人には響くのか」知りたくなった人はイギリス近代史の本を読んでみましょう。この短篇の底知れない怖さがわかる。イギリスが植民地にしていたアフリカ、西インド諸島の奴隷制には怒りを抱く正義感あふれる女性も、やがて自分が『砂糖なしで』なら飲む紅茶の産地・中国がいかにイギリスに食い物にされてゆくか知らない。『お砂糖はいかが?』その一言の受け止め方は、女性たちの立場や信条によって異なる響きを持つ。そしてインド産なら、という考えがまた浅すぎるという事は、マハトマ・ガンジーの存在を知る21世紀の我々なら容易に知る。どこまでも純粋に真っ直ぐな女性たちのささやかなお茶の会話は、今日に続く歴史に浮かぶ、一粒の砂糖の結晶なのだ。すっきりと切り詰めた文章に怖さをにじませる作者の技術はさすが。

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