砂糖はいかが。
赤坂 パトリシア
スーザン
「ラプサンスーチョンの良い茶葉が手に入ったの」
と、マデラインは言った。
「お砂糖は何匙?」
1792年秋。私たちは、マデラインの叔父の家に招かれた。叔父の家、とはいえ、それは実際にはそもそも「マデラインの家」であったし、マデラインが謎の失踪の後、なぜかマンチェスターのカソリック修道院でみつかった、ということも私たち古い友人たちは知っていた。知っていて、口を閉ざしている。グウェンドレン以外は。
グウェンドレンは、マデラインの最も親しい友人だった。あんなことがあって、可哀想なマデラインが半年ほど私たちの前からすっかり姿を消すまでは。
あんなことが起きる前の彼女たちはしばしばお互いの家を訪問しあい、本を貸しあい、夜通し語り合っていた。「双子のようね」と、私たちは笑った。がっしりとした体躯で灰色の目をしたグウェンドレンと、ほっそりとした栗色の目のマデラインは、見た目は全然違ったけれど。
だから、今でもグウェンドレンはマデラインを放っておけない。でもそれはわかる。
淑女らしく洗練されたマデラインは私の憧れだ。あんなことがあった今でも。どんな爵位を持つレイディにだってひけをとらない。
なのに、グウェンドレンは険しい顔をして、灰色の目をじっとマデラインに向けている。
「マディ、まさかとは思うけれど、聞くわ。この砂糖はインドで作られたものね?」
「ウェンディ、砂糖がどこから来るかなんて、考えながら紅茶を飲むものじゃないわ」
ほら、マデラインは優雅に微笑む。昔のままだ。華奢な陶磁器のカップに紅茶をなみなみと注ぐと、すっと私の前に置く。ラプサンスーチョン独特の薫香がふんわりと漂う。燻製のような、ちょっと癖のある匂い。植民地からではなく中国から取り寄せなければならないラプサンはとても高価な茶葉だ。
マデラインは、再びラプサンを買えるようになったのだ。これでいい。マデラインにはこうした綺麗なものがとても似合う。
「私は、お砂糖は、いいわ。こんな香りの良い紅茶にお砂糖はいらないもの」
昔、マデラインが言っていたことを思い出して、そう言うと、女友達が同様に頷く。
「そう……」
マデラインは、ほんの少し口角をあげると自分のカップに砂糖を入れた。
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