知られざるワンダーランドを、王が駆ける

 現時点で最新の第二話までの感想。
 作品全体の物語はまだまだこれからで、というかフォーマット的にいくらでも続けられそう。況や最終的な着地がどうなるかは全くの未知数。それでも本作が指向するところは(あくまで自分の中で)見えてきた気がする。
 様々な「場所」を支配する「王さま」達が繰り広げる時空を越えた陣取り合戦。その「場所」とは国道であったり屋上であったりショッピングモールであったりと、つまりは現代を象徴する無機質でオルタナティヴな空間。大量消費と画一化の産物。
 しかし人がそこを利用し暮らしの寄る辺とする限り、どんなに無味乾燥とした場所であろうと意味が生まれ、風土が、文化が形成され、そして思い出の中に残っていく。その記憶を再出力するかのように、本作はその「場所」とそこを取り巻く時代風俗や小物を物語の中で偏執的なディティールで描写していく。
 そしてその集積から形づくられるのは、一風変わった冒険ファンタジーであり淡いロマンスであり過激なバトルアクションであり。とるに足らない日常のいち風景として忘れ去られていくだけかもしれない空間が、ただ想像力をはたらかせるだけでこんなにも魅力的な異世界に変わる。僕等の過ごしたあの場所は、時間は、実はとてつもなく愉しく奥深いものだったのではないか。そんな夢想が迸っている。
 身の回りの世界を愛している人の小説だと思います。