面白すぎるし完成度が高すぎる。ラスト数話を一気に読み終えた今、凄いものを読んでしまったという興奮がまだ冷めない。
本格的で臨場感溢れる功夫アクションは、まるで映画を観ているよう。単なるスチームパンクともつかない、機械と植物を融合させたオリジナルな中華ファンタジーの世界観は華麗かつ鮮やかでぐいぐい引き込まれる。
そして、主人公であるジュイキンを初めとした人物達の、生に苦悩しながらも己と向き合い命をかけて闘う様の美しい苛烈さ。
更に個人的な意見を付け加えるならば、猫!!ジュイキンの愛猫ミアキンの可愛さは必見。もうとにかく必見。
猫好きにもおすすめな、本格中華アクションファンタジーである。
人を人たらしむるは何か。
思想か、情操か、魂魄か。
人の形に見える肉体があれば、人と呼び得るのか。
人から何が欠ければ、その者は人でなくなるのか。
幼いころ、魂を持たぬ存在「ニング」に襲われ、
自身もまた人ならぬ身へと堕ちたジュイキンは、
狂犬のような悪童時代と師父の下での修行を経て、
特殊組織「八朶宗」の戦闘要員として動いている。
ジュイキンはある任務の最中、致命傷を負った。
彼の命を救った天才外科医は因縁の人物であり、
その手術に使われた「樹械」の心臓の出処は
八朶宗が撲滅すべき敵と見なすテロ集団だった。
斯くして、二重三重に常人から外れたジュイキンは、
生まれながらに業を背負う8歳の青年グイェンと共に
思惑と妄執が錯綜する魔都を駆け、敵襲を迎え撃ち、
胸に埋められた心臓の正体、真に破るべき敵を知る。
中華風の背景に欧州的な近現代の影響が溶け込み、
植物と機械のハイブリッドによる科学が栄える、
という独特のパンクな世界観を絵で見てみたい。
絶妙にかわいい黒猫ミアキンをもふもふしたい。
死闘に次ぐ死闘の果てに誰が生き残るのだろう?
物語がどう進むか最後までわからず、一気読み。
残酷な展開に胸が痛くなるのは、登場人物の誰もが
ひたむきに答えを求め、何かを愛そうとするからだ。
魂とは何か、死とは何か、永遠の命は存在し得るか。
この世は不完全か、神灵はこの世を完全たらしむか。
生と死、葛藤と本能、苦悩と希望の狭間で、
ジュイキンは選び、戦い、守り、破壊する。
神が魂を下賜し、死者の復活が約束された世界。
魂を失った『ニング』は罪人とされ、人間の社会で生きることを許されない。
そんな『ニング』でありながら、同族を狩り続けるジュイキンが主人公の中華風ダークファンタジーです。
卓越した描写によって豪華絢爛かつ混沌とした世界に一気に引き込まれてしまいました。
独特の死生観に基づいた風俗の構築は圧巻の一言。
時折挟まれる煌びやかな街の様子や、そこで暮らす人々の息づかいもリアルに感じられます。
世界観は丁寧に練り込まれ、まるで自分もその作中世界を歩いているかのように生活感や空気までが伝わってきました。
戦闘描写もまた無駄がなく、立ち会いの迫力が伝わってきます。
登場人物も魅力的で、初めは抜き身の刃のような鋭さを持っていたジュイキンが天真爛漫な相棒グイェンと出会ってからの変化が微笑ましく、そしてどこか切ない。
そして異端児として生まれたグイェンはあどけないながらも、
煌びやかさの中に暗闇を抱え込んだ世界をまっすぐに捉えている様にはっとさせられます。
もう二度と会うことはないと思っていた兄との再会、ニングのテロリスト集団、そしてジュイキンの心臓。
謎は深まっていくばかりで、今後も目が離せない作品です。
何度も読んだ。
読むたびに心が震えた。
大好きな作品の1つです。
荒俣宏や大塚英志を彷彿とさせる厚みのある世界観に武侠小説のそれを重ねたところが既に大興奮です。そして軽快な会話と細かい伏線の回収を盛り込んだ娯楽としての側面も十二分。
技法的には前作のインゴルヌカと同様、完成された世界観の中で欠けたものを持つ主人公が迷いながら戦う冒険小説のスタイルです。全編を通して全てのキャラクターが繊細で感情の一貫性があり、これだけ用語がとびかう話でありながら、煩雑になっておらず、素直に楽しむことができました。個人的な好みはスー・グイェンですね。奔放で情に厚くジュイキンを何かと案じる彼は武侠小説やカンフー映画ではよくいる定番のタイプですが、良い奴だなあと思います。
シーンとしては列車の中の格闘戦がお気に入りです。強烈なスピード感は絶賛したいです。私も格闘シーンには一家言ある(フリをしてるただガタガタうるさいだけの)人間ですが、その私から見ても脱帽でした。
全局面において隙のない、揺るぎない大作にして傑作です。是非多くの人に読んでほしいですね。