あるきっかけで読むことになりましたが、この小説に出会えて本当に良かったと思います。
主人公が持つ思春期特有のリピドーと、ヒロインが持つ純真さ、その二つを上手くかすがいのようにつなげる妖精。この三人(?)だけでも素晴らしいのですが、周りを取り巻く人たちもいいキャラを演じて世界観を盛り上げているように感じました。
どんな話かと聞かれたら、とにかくラストまで読んでみてとしか答えようがないほど、先入観なしに読み終えた時の読後感は素晴らしいものがありました。
この作品を読むにあたり、最初は「何これ?」とつまづく方もいらっしゃるかもしれません。しかし、とにかく先を読んでみてください。そこにはきっと、今まで感じたことのない発見をすることになると思います。
作品のレベルの高さ、最高の読後感に、星三つを付けさせていただきました。楽しい時間を過ごせたことに感謝いたします。ありがとうございました。
かなり分厚く“カムフラージュ”されている本作。ある種のモノローグ的な主人公タクミの語り口は自身の嗜好、人間関係観などに割り振られており、序盤は中二病的な直感を読者に与えるよう設計されている。またヒロイン、ミキは“軽度の発育障害”と紹介されていることから、そういった類の重いテーマを背負った作品と錯覚させる要因ともなっている。これらがカムフラージュだと気付くのは、ある程度読み進めていった後、ということになる。
作者さつきまる氏が、こういった作品構造にした理由として、連載の過程で読者を良い意味でのハッタリにかけ続ける狙いがあったのだろう。そのため終盤の怒涛の展開は予想の斜め上……いや、真上を行くものとなっており、衝撃のラスト(とらえ方は人それぞれだろうが、私にはそう感じられたのだ)につながっている。私も騙された一人だ。ちッ、やられたぜ……
最後、タクミは愛を得る代償として“あるもの”を失うが、驚くほどに悲壮感を感じさせない。ドライな筆致は読後のモヤモヤを吹き飛ばすものだ。さつきまる氏が人物たちの後悔や慚愧をよしとしなかったのかもしれない。得た愛が損傷したものを埋めるほどに大きかったのか? それともラストまで付き合った読者への気くばり、だろうか? ここは氏に訊いてみたいところだ。
メッセージ性を匂わせながらも、この手の作品にありがちな書き手の主張は感じられない。私の勝手な想像だが、作者さつきまる氏はタクミにさほどの感情移入をせずに書いたのではないか? 書き手とキャラクターはしょせん血も世界も繋がらぬ赤の他人だが、実は共感すら覚えることなく淡々と書き続けたのかもしれない。結構な苦行だが、それもまた達人の技。見事な人間描写で我々を唸らせてくれる小説に仕上がっている。
しかし……それにしても、いろんな意味で偽装(カムフラージュ)が目立つ作品だ。序盤のモノローグが偽装ならば、エロは所詮、作風の味付けとして使われている程度のやはり偽装。タクミとミキ、それぞれの両親との歪な関係は凄まじい偽装。ミキの覚醒要因となる“とある生活必需品”も偽装用途(笑)のアイテムだ。それが何かは読者の皆様の目でたしかめていただきたい。突然の強風には注意!
もっとも、実はこの作品……我々人間は外面内面に何重もの偽装をしいて生きているものである、というさつきまる氏のサジェスチョンなのかもしれないが……
冒頭、「僕(タクミ)」の強烈な語りに、まずドキリとさせられます。そして、第1話の終わりまで読むころには、ミキと同じような事情を抱えた子供とリアルに接したことのある人であれば、ミキがどんな子供なのかをだいたい察することになります。「あ、重い話かな……」と少し警戒感が高まりつつも、「僕」のストレートな言葉が頭から離れません。
「原石」美少女ミキの置かれた状況が淡々と語られる一方で、その彼女を傍らで見つめるタクミは、道徳の教科書に出てくるような正義感の強い人間でもなく、建前と本音の狭間で悩む凡庸なタイプでもなく、実に自分に忠実でただひたすらにエロ思考。強烈ながら実はこれがこの年頃の男の子というものなのかもしれない、と思わずにいられないリアリティが、読み手を、時には笑わせ、時には手に汗握らせながら、ぐいぐいと作品世界へと引っ張っていきます。
ミキとタクミをつなげる役割を果たす「ぐーたぁ」は、さらに強烈な存在ですが、人外の視点から二人のことを語るくだりは、いわゆる「社会の枠組み」で物事を見がちな我々に、純粋で素朴な新しいものの見方を教えてくれるような気がします。
ミキの設定は、とても取り扱いの難しいテーマだと思うのですが、年頃の男の子の純粋にエロい視点からそれが描かれると、ありがちな「べき論」的雰囲気を一切含まない、かくも美しく初々しい物語になるのかと、感嘆するばかりです。前半に描かれる多くの小さな出来事が後半の劇的な展開の中で収束していく様も、本当に見事です。
冒頭を読んで「こんな小説かな」と思うと、それはあっさり裏切られます。しかも何度も。トンデモない方向から弾が飛んでくるので、あれよあれよと言う間に作者の術中にハマるでしょう。
どんでん返しの連続……てのとはちょっと違ってて。そう、タランティーノの「パルプフィクション」みたいな感じ。ストーリーもキャラも斜め上にニョキニョキ進むので、着地点はまったく見えません。
ピーキーに振り切ったエキセントリックな悪人ばかり登場するし主人公には厳しい運命が待っているしで、冷静に分析するとけっこう酷い話なんですが、最終話まで読み切ってみると妙に読後感がいい。それは主人公ふたりがイノセントに造形されているためでしょう。
ラストに向けてきれいに話を畳みに入りますが、個人的には前半の「作者の手の上で翻弄される」感覚にやられました。
この物語を読んで、男性なら特に……思春期の頃の危なかっしい時期を思い出しつつ、嬉し恥ずかしで楽しめるのではないでしょうか。
主人公のタクミのリビドーの持て余しっぷりに、ここまでではないにしろ、何となく身に覚えのあるような行動や思考がやたら出てきます。何が“ここまで”なのかは是非実際に読んで確かめていただきたい。いや、というか、ここまでじゃないよね?って聞いて回りたい。
あと途中でヒロインが賢くなりすぎて厨二病系魔法少女みたいなアレになるんですけど(適当)特にその辺りのルビ振りのセンスが秀逸です。
もっかい読んできます。
この作品において、先を予測して読み進めること。
それは無意味だと言い切っておきたい。
どう脳ミソを絞りきったところで、このようなストーリーを生み出すことは、私には不可能です。
こんな作品を書き上げた作者さんにまず敬意を表したいです。
作品は大きく三つのパートで構成されていて、それぞれの人物視点になって進んでいくのですが、その軸となる部分がはっきりとしていてブレておらず、物語のテイストが変わっても、その本質である「ヒロイン ミキの純粋な想い」の位置付けがはっきりとしているので、驚くほど素直にストーリーの変化を受け入れることができます。
ぜひ、この物語のもつ圧倒的なパワーの潮流に飲み込まれてほしい。
読了しました。
まずは完結お疲れ様です。とんでもない物語を生み出していただきありがとうございます。
通勤の途中に読み始めて、ゆっくりと読み進めていたのですが「これ、バスん中で読んじゃダメなやつ」と今ならはっきり言えます。
このレビューを書いてる数分前に四話あたりから一気読みさせてもらいましたが……こんなにも色んな感情にさせられた作品がかつてあっただろうか、とその余韻に浸っています。
ジャンルはSFらしいですが、ラブコメ、ファンタジー、ドラマ、どんなジャンルにも当てはまるような。最後まで不思議な感覚でした。
主人公のタクミくんは私の中では理想の中学生男子でした。
最後まで自分に正直でブレない。どんな状況下でもブレないところが素敵でした。
ヒロインのミキちゃんは最高なキャラクターだと思います。色んな可能性を秘めている。パーツが足りないところがいい。そこがいい。
そんな彼女との付き合い方をどうするか悩みつつも、欲望に忠実なタクミくんの描写などは笑い転げながら読んでいました。
そして、一番インパクト大なキャラと言えば、妖精の「ぐーたぁ」ですね!
すごかった……何がすごいかと言われたらなんて説明したらいいか……とにかくすごかったです(語彙力崩壊)。
読み進めるうちにだんだん見えてくる物語の模様が色濃く、その構成力に圧倒されました。
キャラクターが立っているのも勿論ですが、それまで笑いながら読んでいたのに、じんわりと切ない、許せないことやどうしようもない感情などが渦巻いてしまう。本当に不思議な読後感。
彼らの未来を勝手に頭の中で描いてしまいたくなる。そんな作品でした。
別作品にもお邪魔したいと考えてます。
読むという行為は、無意識に予測、想像、願望を持つ自意識が働いているはずですが、そのきわめてプライベートな部分に挑戦してるがごとくな展開がすさまじいです。
物語が斜め上に行くのではなく、探すと斜め下からきりもみでひねりあがって、あり得ない方向に行くかと思うと、いつのまにか自分が上に、落ちていってるかのような。
一見、とりつきやすそうな設定や表現を見せつつ、狙って、安心している読者を翻弄し、あさって斜め横ひねりにまとめあげていく文章がありえない感じです。
ミキはパーツ不足の原石美少女ということですが、もしかしたら、
さつきまるさんがパーツ不足?の原石美少女?(笑)作家なのではないでしょうか?