見えない言葉(リクエスト)
《黃間友香さんからのリクエストです。
お題は、
「“ ”」です。》
俺には、変わった能力がある。
それは、人が心で思っていることが見える、聞こえる、という能力だ。
まだ、言葉も分からないほど小さかった時は言葉ではなく色で見えていた。
一番初めに見たのは、ピンク色。
母さんと父さん、二人の中に綺麗なピンク色が見えた。
子供ながらに、それを美しいと感じた。
大きくなるにつれて、それはもっと沢山の色で彩られるとともに、言葉も表れるようになった。
一番最初に見たものは母さんの言葉だった。
夕食前…。
“今日のご飯何にしようかしら…?”
「ハンバーグがいい!」
心の声を聞いた俺は迷わず答えた。
母さんは、驚き、何故か泣いていた。
「見えるの…?」
そう、震える声で言う母さんは、
“やっぱり…。どうしよう…。どうしよう。この子にはあんな思い…。”
鮮やかな紫色の迷いを心の中で、言っていた。
母さんから言われた言葉。
「見えるものを見えなくは出来ない。見えるものも大切にしなきゃだめ。でも、それよりも大切にしなくちゃいけないのは、見えないもの。
それと…、自分の心。」
その時の俺は全く意味を理解出来なかった。
そんな俺を優しく見つめて、「“大丈夫。”」と言ってくれた。
月日は過ぎる。
小学校低学年の頃はまだ良かった。
純粋でキラキラして、俺の能力がバレても、「“凄い!”」と言ってくれた。
だけど、大きくなるにつれて、みんなの心には暗い色が増えた。
一見明るい色なのに、よく見ると黒が奥に見える。
怖かった。
純粋なものがどんどん汚れていくようで…。
心の中に隠した言葉を俺は見てしまう。
上辺だけの関係。
仲が良さそうに見えても、想っているのは片方だけ。
俺に対する想いも、全部見えた。
俺に純粋に「“凄い”」と言ってくれる人はいなくなり、代わりに「お前って凄いよな。」“変な奴。”と言われる事が増えた。
どっちが本心かなんて、考えるまでもない。
人の心が、怖かった。
人の心に恐怖しながら、時は過ぎる。
小学校低学年の頃はいたはずの友達は居なくなっていた。
中学校入学式。
本当は中学、行きたくなかった。
だけど、どれだけ嫌な生活でも、母さんと父さんは家で温かく迎えてくれる。
「“おかえり。”」
毎日、毎日。
母さんと父さんに心配をかけたくない、その一心で頑張ろうと決めた。
校長先生の話の間、大抵の人は
“暇だ。”
“眠い。”
などと、言っている。
だけど一人だけ、何も言っていない女の子がいた。
“ ”
いや、正確には見えなかった。
色も真っ白。
初めてだった。
何かが変わる、そんな気がした。
同じクラスの女の子。
自己紹介の時も…。
「清水
“ ”
やっぱり、心が見えなかった。
なんで?
話しかけようと思った。
だけど、出来なかった。
思えば、自分から話しかけた記憶は遠い彼方だ。
人がいる。
心が見える。
怖い。
俺に向けられる、黒い感情が怖い。
結局、その日彼女に話しかけられなかった。
次の日、朝早くに屋上へ行った。
一人で教室のいるよりは良いと思ったからだ。
驚いた事に、そこには彼女がいた。
「あっ…。」
思わず声が出る。
「……?」
“ ”
彼女はゆっくり振り返った。
「えっと…。たしか同じクラスだよね?名前は…田中君!」
“ ”
「うっ、うん」
「アハハ。良かった合ってた。」
彼女は笑って言った。
その笑顔があまりにも眩しくて、俺は思わず聞いていた。
「君は今何を思っているの?」
彼女は驚き、少し考えてから…。
「君は今何を思っているの?」
“ ”
無邪気に笑い、そう聞いていた。
「俺は…。」
俺は…?
俺は何を思ってるんだ?
何を伝えたい?
何が知りたい?
何が言いたい?
何が言いたい…?
何が……、言いたい…………?
「俺は…。俺は君と……友達に、なりたい。」
「えっ…?友達?良いよ!!やった!中学初めての友達だ。」
“ ”
彼女の心はやっぱり真っ白で、彼女の心の声は何も聞こえなくて、彼女の笑顔は眩しかった。
“見えるものを見えなくは出来ない。見えるものも大切にしなきゃだめ。でも、それよりも大切にしなくちゃいけないのは、見えないもの。
それと…、自分の心。”
“母さん。やっと、大切にするものが見つかったよ。自分の心も見つけられた…。”
俺には変わった能力がある。
それは人が心で思っていることが見える、聞こえる、という能力だ。
小さい時、それはとても素敵な事だと思った。
色々な人の心が綺麗に彩られて、俺の見る世界は他の人とは比べ物にならないほど素晴らしいものだった。
だけど、人の心に怯えるようになってから、自分の視界が歪んでいった。
そのせいで、人の心も歪んで見えた。
そんな、歪んだ世界から俺を救ってくれたのが清水心音。
彼女の心の声は届かなかったけど、初めて俺は人の声、自分の心と向き合えた。
「へー。それがお母さんとお父さんの馴れ初め?」
「まぁな。」
「お父さんは人の心が見えるんだ…。辛くない?」
「そうだな…。父さんの事を変だと言う人は沢山いるな。でも、変だと思わない人もよく考えれば沢山いる。母さんのようにね。」
「ふーん。そっか。じゃあお父さんは今幸せ?」
「あぁ。勿論。」
俺達の娘は、昔の心音とそっくりの顔で笑った。
「ご飯出来たわよー。」
「お母さん。今日のご飯何!?」
「今日はお父さんが好きなハンバーグよ。」
この幸せな日々は続いていく。
FIN
いかがでしたか?
いや、すっごい難しいお題でした……。
でも、書いていて楽しかったです。
以下、裏設定となります。
物語を読んでいる上で伝わっていたらいいな…と思ったことです。
読みたくない方はお戻り下さい……。
裏設定
主人公の両親
母親
主人公と同じ能力をもつ。
能力は遺伝する。
しかし、確率は低い。
幼少期、主人公とほとんど同じ体験をする。
主人公と同じ様に歪んでいた時期、今の夫と出会う。
心音と同じで心の声が見えなかった、聞こえなかった。
主人公は父親の心が見れる。
主人公
大人になってから、能力をコントロールできるようになった。
普段は能力は使わない。
何で能力者に心が見えない人がいるのでしょう?
答えは……不明です!!
心が見えないのは遺伝ではなく、他の能力者には見えてたりするんです!
実際、主人公の母親には、主人公の父親の心が見えませんが、主人公には父親の心が見えています。
きっと、遺伝子レベルで能力者自身が意識下で見ないようにしているのでしょう…。
色々、考えて書いたのですが、難しかった…(これしか言ってない笑)、
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