赤い糸


僕には赤い糸が見える。


小さい時から見えていた。

赤い糸が、誰の小指からも出ている。

でもそれは、何故か絡まらずずっと先まで繋がっている。


小さい頃、自分の赤い糸を辿ったことがある。

もしかしたら、“運命の人”に会えるかも…と期待をして。

自分の糸を辿って、辿って。

でも僕の糸の先には何も無かった。

僕の糸は、誰の糸とも繋がってはいなかった。

その事に絶望して、僕は初恋を諦めた。



それから幾年か過ぎ、僕は大学へ入った。

自分の糸を辿ったあの時から、僕は恋をしていない。

僕の運命の人は居ないのだから。

絶対に報われない恋をするほど自分は馬鹿じゃない、そう思っていた。


だけど入った大学で、僕は一目惚れをした。

際立って美人というわけではない。

でも、人を惹きつける何かがあった。


僕と彼女が結ばれない事は分かっている。

何度も、何度も自分に言い聞かせた。

でも…僕は恋をした。



報われない。

この恋は報われないんだ。

何度自分に言い聞かせただろう。

何度諦めようとしただろう。


だけど、僕の心は奪われてしまったのだ。


だから、諦めるための最終手段を取ることにした…。

もう一度赤い糸を辿る。

それを見れば諦められるだろう。

だけど、僕は頭の片隅で期待をしていた。

赤い糸が彼女とつながっていることを。


自分の糸を辿って、辿って。

その先にはなにがあるのだろう。


どうか、彼女とつながっていますように。


だけど、何も無かった。

僕の糸の先には何も無かった。



「何やってるの??」


後ろから聞こえたのは僕が好きな人の声。


なんでもないよ


そう答えようと後ろを振り向くと、いきなり眩い光に包まれた。

あまりの眩しさに目をつぶる。


目を開けて僕は驚いた。

目の前に見えたのは、僕の好きな人。

そして、僕らの小指と小指を繋ぐ一本の赤い糸だった。


僕らを結ぶ赤い糸は、お互いの心に吸い込まれるように消えていった。



「どうかした?」


訝しげに聞く彼女に答える。


「なんでもないよ。」


少し戸惑いながら、僕は君に言う。


「貴方が好きです。付き合ってください!」


どうか、僕の恋が報われますように。





朝、僕は目覚める。

どうやら、あの時の夢を見ていたようだ。


あの時君はなんて答えたんだっけ?


そう思いながら体を起こす。


小さい頃僕には赤い糸が見えた。

その赤い糸は僕を好きな人と結ばせて消えていった。


だけど、僕は少し疑っている。

あれは本当に“運命の赤い糸”だったのか?

運命は始めから決められた道筋のことだ。

確かに赤い糸は僕に勇気をくれた。


だけど僕の目の前で結ばれた赤い糸が、ただの運命に操作されているとは思えない、思いたくない。


もっと沢山のいろんなものが絡み合って、重なり合って、僕達は結ばれた。

そう思っていたい。



でも、今の僕にはもう関係のないことだ。

彼女と僕の赤い糸が結ばれた後から、僕は赤い糸が見えなくなった。


「ご飯できたよ。」


愛しい僕の妻の声がする。


もしかしたら赤い糸とは、自分達で紡いでいくものなのではないか?


そう思いながら、僕は君のもとへ行く。



愛する人と過ごす、愛すべき日々。

どうかこの幸せな日々が末永く続きますように。

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