ディストピアに文字を、名前を、音楽を。そして、ふさわしい結末を。

地上の世界は滅亡したという。

食糧が生産できなくなり、人口が減少して衰退した。
そんな末期の世界で科学的に産み出されたのが山羊女。
彼女の特殊な消化器官を次世代に後継させられるなら、
食糧問題に解決の希望が見える。遺伝子実験は続けられた。

地下の世界は原始へと回帰したかのようだ。

山羊女は地下世界で唯一の存在であり、宮殿に住んでいる。
宮殿の外には男だけがいて、居住区はランク分けされている。
強さを証明した優秀な男は山羊女との儀式を行う権利を持つ。
地下世界の男は儀式の意味もわからぬまま、山羊女を渇望する。

幼かった少年は、育て親であるおじさんから文字を学んだ。
おじさんに連れられて図書館へ赴き、本を通して地上を知り、
やがて友情を結んだ茶色い髪の少年とともに音楽を発見し、
ガキどもにも文字を教え、次第に文明的な生活を手にしていく。

名前、という概念さえ忘却された世界観に惹き付けられた。
暴力的な混沌状態から連鎖反応的にカリスマ的存在が生まれ、
影響し合いながら、彼らの生きる社会を急速に変容させていく。
変容の向かう先は発展か、獲得か、それとも、本当の滅亡か。

激しいクライマックスを読み終え、静かな寂しさが胸に残った。

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