寂寞とした地下世界で生きて

くー! これは面白かった。

本作は、不思議な地下空間(地下施設)を舞台に、文字を知るおじさんと、おじさんに文字を教わる少年、少年と心を通わす茶色などが交わりあい物語が進展していく。空間の中心には、濠で囲まれた高く聳える宮殿があり、居住区の男たちから隔絶している。そこにはセルロースを分解できる「山羊女」がいる。

まず目を引くのは、小説全体を貫く淡々とした語り口だ。作品世界をとりまく寂寥とした雰囲気を伝えるにもってこいの文体で、どんどんと小説の中に引き込まれていく。

小説で多くの描写を占める、地下施設の通路の描写がまた魅力的。おじさんや少年が普段暮らす表層世界とは次元が全く異なる通路の世界。不思議で面白い仕組みが連続して、読んでいて飽きない。

寂寞とした世界観に下支えされ、キャラクターたちは活動していく。少年も、おじさんも、茶色も他の人物も、全員が何か、何かを喪失している。居住地で暮らす男たちは蒙昧とした存在として描かれ、すぐに喧嘩し、すぐに命を落とす。だが男たちは熱量を失ったわけではない。戦いの場面が何度かある。淡々とした語り口なのに、闘争する男たちの熱が伝わってくる。
中心人物たちもまた同様で、何かを失いながらも、それぞれが何らかの想いを持ち行動する。そうした各人の想いが、男たちを動かし、物語が大きく動いていく。こうした男たちが持つ熱量の様なものも、読んでいて印象に残った。

淡々として洗練された文体。不思議な地下通路と宮殿。何かを失いながらも、それでも熱を持つ男たち。これらが相まって、読者を不思議な世界に連れて行ってくれる小説だ。

ぜひ多くの人の眼に触れて欲しい、と思う。

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