7. 一緒に食べよう。



 餃子ができ上がって、私はパパを起こしてきた。まったくもう。娘がいなくなってる間にぐーすか寝ちゃって。


「あー、いい匂いだね。ママと雲雀で作ったの?」

「うん。ママは下手だったけどね」

 パパは笑いながら席に着いた。ママがちょっとどんくさいの、よく知ってるからね。ママはフライパンの前でフライ返しを使ってガリガリやっている。結構乱暴に。

「ママ! もっと丁寧にやってよ。破けちゃうから。私がやる」


「え、でももう全部フライパンから剥がしちゃったよ」

「大丈夫だったの?」


「うん。……半分くらいはね」



 ママがお椀を出してお味噌汁を注ぐ間、私はお茶碗にご飯をよそう。炊飯器を開けるとポワッと温かい湯気とご飯の匂い。


 ママの炊くご飯はいつも少しモニャッとしてる。「柔らかすぎるご飯は食べられるけど、固すぎるご飯は食べられないから」っていう理由で、水を多めに入れるからだ。ちょうどいい量に測って入れられる自信がないみたい。目盛りついてるのにさ。


 まあ、この少しモニャッとした柔らかいご飯、嫌いじゃないけどね。



 テーブルの上に、ご飯、お味噌汁、餃子の取り皿が並ぶ。真ん中には餃子が全員分盛られた大皿。もう十二時をまわってて、則宏も織浩も寝てるから、明かりがついてるのはテーブルの上だけで、他は暗い。なんだかスポットライトが当たってるみたいで、ご飯がが美味しそうに見える。


 三人で手を合わせて「頂きます」パパは醤油さしを取って、大皿に盛られた餃子に直接醤油をかけようとした。それを


「あ、ダメーっ!」


 ママが慌てて身を乗り出して取り上げた。慌てすぎて自分の足をテーブルの脚にひっかけて、ガチャンと音を立てながらこけそうになるママ。いつもこんな感じで、やっぱりちょっとどんくさい。娘の私が言うのもなんだけど、なんか可愛いな、ママ。


「せっかくパリパリの皮が、クチャッてなっちゃう! 焼き餃子っていうのは、ちゃんと小皿にお醤油だして、一個ずつそれにつけて食べるのが美味しいんだよ!」


「ごめん」とパパ。ママは私に醤油さしを渡してくれた。

「はい、雲雀」

「うん。ありがと」


 醤油とラー油、お酢を多めに入れたタレに餃子を一つとってつける。ママが作った、皮二枚で挟んだおっきい餃子だ。結局いくつかはタネが多すぎて一枚じゃ包めなかったからね。


 一口かじった瞬間、中から汁があふれ出た。慌ててそれをジュルルっとすする。キャベツから出た汁だなきっと。キャベツは大きくて、歯ごたえムギュッて感じで半端ない。……美味しい。いい出汁出てる。豚ひき肉との相性は抜群だね。


 これが、ママが作る餃子。


 ママも私と同じようにして餃子を一口かじる。やっぱり汁があふれ出して、テーブルに少しこぼしてしまった。ほーんとに、どんくさいね、ママは。


「ふわ。ふぉいひーえ。ひふぁいぶいりにふぷっふぁひょうばばふぁあ」

 口に物が入ってるのに喋るから、何言ってるのかよく分からない。これもいつものママ。黙って食べられないんだよ。どんくさい上に、ちょっと子どもっぽい。


「ママ、今何て言ったの?」

 私が聞くとママじゃなくてパパが答えた。

「美味しいねって。久しぶりに作った餃子だから、って」

「正解?」

 ママに聞くとうなずいた。ママはもぐもぐしながら、お味噌汁のお椀をとってズズーッと飲んで「ふーっ」と一息ついた。

「うん。お味噌汁も美味しい」


 ママが食べてるのって、いつも何だか美味しそうに見えるんだよね。私もお味噌汁をすすった。

 うちのは煮干しと昆布の合わせ出汁。おばあちゃんは顆粒出汁で作ってて、ママはそれで育ったんだけど、ママは自分で作るときはこうやって丁寧に出汁を取る。私が小さい頃からずっとそう。昔ママの友達に教えてもらったんだって。


 美味しい。ちょっとしょっぱいけどね。でも美味しい。



 かじると汁があふれ出す餃子、それをジュルっとすすりながらかじって、少し柔らかいご飯をかきこんで、お味噌汁を飲む。気付いた時には、きれいさっぱり食べきっていた。


「美味しかった。雲雀が帰ってきて、ママを手伝ってくれたおかげだよ」

 ママが私に笑いかける。パパも「うん」と一言言うと、私が淹れてあげたお茶をぐいっと飲み干した。

「本当に美味しかったね。雲雀が帰ってきてくれて、三人で食べられたからね」


 私も。

「ママが、私のこと捜しに来てくれたから。それにさ……ママが私に、雲雀って名前つけてくれて、えっと……だからさ、ママと一緒に餃子作るの、すごく楽しかった」

 全然上手くまとめられないや。でも、私のことを見つめるママの瞳は、ちょっと潤んで光ってる。


 私も、ママもパパも、お腹いっぱい。



 後片付けはパパに任せて、ママと一緒に歯を磨いて、「おやすみ」を言って布団に入る。私とママパパだけでご飯食べるのって、すごく久しぶりだった。美味しかったな。ママと二人でご飯作るのは、初めてだったかも。






 雲雀は、みんなに幸せを呼ぶ名前。





 --- 私が願った通りに、みんなに幸せを呼んでくれる子になってくれて、ありがとね。 ---







 今日はいいこと聞いちゃった。また……ママと二人だけでご飯作りたいな。



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仲直りの餃子は、皮が二枚でキャベツがでかい ロドリーゴ @MARIE_KIDS_WORKS

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