6. 一緒に焼いて


 フライパンに油をひいて熱する。ママが手をかざして温度を確認するんだけど

「うーん……まあ、火つけてから結構時間経ってるからね。もう大丈夫だよきっと」

 結局よく分からないんだ。でも一応温まっていたみたい。餃子を置くと


 ジュウッ!


 と音がして、軽く油がはねた。ママはびっくりして「うわっ!」と手をひっこめる。

「ちょっとママ、早く並べないと」

「分かってる分かってる」


 ビクビクしながら並べ終ると、ママはいきなり蓋をかぶせてしまった。

「ダメだよ! アジモトの冷凍餃子じゃないんだから、水入れないと」

「ああそっか。えっと、どれくらいかな……」

「早く!」

「分かってる分かってる」

 ママは慌てて計量カップを取り出して、適当に水を入れると、フライパンにかけた。


 ジュウーーーーッ!


 と大きな音。

「うおおおおっ!」

 ママは慌ててカップをひっこめた。

「ほら、蓋蓋!」

「分かってる分かってる」

 私が差し出した蓋を受け取って、ママは軽く投げるようにフライパンにかぶせた。本当に、手際悪すぎ。これが私のママ。小さい頃からずっとこう。




 テーブルについて出来上がりを待つ。お茶を二人分淹れて、ママは私の隣に座った。


「雲雀、さっきの話の続きなんだけど」


「うん」

「則宏と織浩が産まれた時はさ、正直言って、ママもパパも舞い上がっちゃって……名前を付ける時、雲雀のことは考えてなかったんだよ。後から、そう言えば雲雀だけパパの名前もママの名前も入ってないって気付いてさ。下の二人はついてるのに、家族で一人だけ……って。本当はね、ママもパパもずっと心配してたんだよ。もし雲雀が気にしてたらどうしようって。でもさ、何て言ったらいいか分からなくて。……ごめんね」


「……うん」


「これは言い訳だけど、則宏と織浩の名前は産まれてから考えたんだよ。でもさ、雲雀の名前は私たちが結婚してすぐに、子どもができたらこの名前にしようって決めててさ。だから、お腹にいる時からずっと、雲雀雲雀って、パパもママも呼んでたんだよ。そうやってたのは雲雀だけ」


 まあ、確かに言い訳だね。ていうかさ、あんまり言い訳にもなってない気がするよ。……でもちょっと嬉しい。


「雲雀っていうのはね、寒い冬が終わって、暖かい春の訪れを告げる鳥の名前なんだよ。雲雀がまわりの人達に春を……幸せを呼んでくれるようにって願いで、ママが考えたの」

「え……そうなの?」


 この由来は初めて聞いた。人に幸せを呼んでくれるようにか……私が……。


「雲雀がいなかったら、則宏も織浩も産まれなかったんだよ?」

 ママが片手を回して私の肩を抱いた。


「私が願った通りに、みんなに幸せを呼んでくれる子になってくれて……ありがとね」


「うん……勝手に飛び出してごめんなさい」


「ううん。ママもごめんね。もっとちゃんと雲雀の話聞いてあげないといけなかったよね。卒業旅行、行っていいよ」

「えっ、ホントに?」


「でもさ、春休みにして。ママもお休みもらって一緒に行くからさ。子どもだけじゃ危ないよ」


「うん」

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