5. 一緒に包んで
ママは手を洗うと、早速台所に向かって、ボウルを取り出し、ひき肉を全部入れた。
「全部使うの? 多くない? 私一人……」
「則宏と織浩にはレトルトカレー食べさせたけど、パパとママはまだ食べてないよ。待ってたんだから。だからさ、これでちょうどいい量だよきっと」
キャベツをみじん切りにする。ママは包丁使うのが下手くそで、あんまり小さく切れない。
何をするのも手際が悪いんだよね。言葉遣いもどこか子どもっぽくて、どんくさい。
「ママ、キャベツ大きいよ」
「ええ、大丈夫だよきっと」
切った大量のキャベツをドドッとボウルにぶち込む。
「あれ、そのまま?」
ママは「ん?」とボウルの前で固まる。
「ねえママ、キャベツって茹でて絞るんじゃないの」
「あれ……その方がいいんだっけ?」
「そうだった気がするけど」
「大丈夫だよきっと。だってさ、キャベツから出汁が出るからさ」
タネを手で混ぜる。
「よし。皮を……」
私が「えっ」と言うと、ママはまたしても「ん?」
「ママ、これまだ塩振ってなくない?」
「あ、そっか」
塩を振って混ぜ、よくこねる。やっと皮で包むところまでこぎつけた。これは私もママと一緒に。
「ねえママ、タネ多すぎるよ。それじゃ破けちゃうよ」
「ええ、大丈夫だよきっと」
スプーンでタネをすくって皮に乗せる。指を水にちょっと浸して、皮のまわりに塗って、閉じる。折ってひだをつけるのは片側だけ。
「……ねえママ、今日何で電話してから公園にくるのあんなに早かったの?」
「近くまで捜しに行ってたからだよ」
「ママ、私の事捜してたの?」
「当たり前じゃん」
その後しばらくは黙って、スプーンでタネをすくってひたすら餃子を包んでいた。
「ねえ……雲雀」
ママが小さい声で私に言った。普段はこんな小さい声だと、則宏や織浩がうるさいから聴こえないけど、今はママと二人きりだ。
「さっき、宮ちゃんが言ってた、雲雀の名前の話なんだけどさ……」
宮ちゃんっていうのは、宮基鎮。まもっちゃんのこと。パパとママはそう呼んでいる。
「雲雀、そのこと気にしてたんだよね?」
「うん」
「ごめんね……」
「……何が?」
ママはちょっと間をおいてから話し出した。
「あのさ、雲雀は一歳だったからもう覚えてないと思うけどさ……本当は雲雀と則宏の間にもう一人子どもがいたんだよ」
「え?」
「でも産まれなかった。流産しちゃったんだよ」
全然、何も覚えてない。衝撃でちょっと言葉が出ない。
「ママもパパも、本当に悲しくてさ。もう子供は作らないって決めたの」
「え、じゃあ則宏と織浩は?」
まさか、実はママが産んだ本当の子どもじゃないとか? ……いやいや、二人の時は流石に、ママのお腹が大きくなってたの私も覚えてるから、それはないな。
「雲雀が素敵な子だったからさ……パパもママも雲雀を育てて、やっぱりまた子どもほしくなったんだよ」
「ふーん」
「だからさ、雲雀が雲雀じゃなかったら、則宏も織浩も産まれなかったの」
「……ふーん……」
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