真鍋マグは結局、すごいヒーローではなくて「反重力種」の力という戦場に立つ最低限の資格を手に入れることが出来ただけのただの若者だった。
「飛獣」という攻撃してくる理由もわからない理不尽そのものに対して対空警邏の若者たちが各々の決断をして行動するまでの描写が本当に丁寧かつ繊細で胸を打つ。
やがてくる絶望を前にしてただの若者でしかなかったマグが物語の終わりまで苦しみ、抗い続ける姿を見て、なんだか誇らしい気持ちになりました。
この物語を読み終えて最後にマグにかけてやりたくなった言葉は
「お前のような目には遭いたくないけどお前のような生き方のできる人間になりたい」です。
『何かになれるかもしれないと思った。』
それはきっと、現実にありふれた希望なのだと思います。
これは、諦めることで折り合いをつけたつもりでいた少年が、ありふれた希望を掴みもう一度世界を見つめ直す……そんな、どこにでもいるかもしれない一人の、どこかにあっただろう成長譚です。
柊アリアとの出会い。
浦賀ササメとの出会い。
高千穂カナンとの出会い。
犬飼チヒロとの出会い。
山上タイガとの出会い。
筋肉との出会い。
多くの出会いが主人公・真鍋マグに希望を与え、その在り方を一つずつ再構成していく様は、読んでいてなんとも心地の良いものでした。
けれど、物語は紡がれていきます。
この成長譚には、ただ一つの歪みがありました。
与えられた希望が飛獣漂う死地に在る。忘れてはいけないその事実は、やがて青空を割る罅の如く、物語に影を落とします。
今、彼を取り巻く世界は、ささやかな成長譚を踏み躙らんばかりの変化を迎えています。
大丈夫かな。立ち上がれるのかな。むっちゃ不安。
どうか、彼の行く先に答えのありますように。
受験に失敗して行くさきをなくした主人公が空をとぶ能力に目ざめ、対空警邏に入隊して東京をおびやかす飛獣とたたかう物語です。
命がけで人々をまもる対空警邏の英雄アリアさんとは対照的に、対空警邏を逃げ場としてえらんだ主人公のマグさんは、「どうして戦うのか」という問いを繰りかえしながら、仲間たちと言葉をかわし、敵と戦い、そして仲間の死を経験して成長していく姿がえがかれていました。
空をとぶ飛獣との戦いという派手なアクションと、誰もが血のかよった人間で、なにかをかかえてたたかっている登場人物の織りなす人間ドラマが魅力的です。
仲間たちとの絆がつむがれていくなかで、飛獣と戦いは苛烈なものになりつつあるようです。まだ物語は始まったばかりです。これからあかされていく謎や、マグさんの成長がたのしみです。
物語が完結したらレビューをあらためさせていただきます。
まずなにより印象的なのが、怪物の登場によって空を失った人類というその設定だろう。
世界のあり方を強く示し、なにが危機でなにが恐ろしいのかを実感として知ることが出来るのが強みだろう。
そしてその空の侵略生物と戦うのが、同じく空を飛ぶことが出来るようになった進化した人類『反重力種』であり、主人公、真鍋マグがその力に目覚めたところから物語は始まる。
人類のために戦う、しかしその中でも戦う理由に違いはある。
そんな人間模様と、棄てられた地上のビル群を眼下に戦う絵的な美しさ。
そしてそれが極まったのが『さよなら東京』のラスト。
これは、まさにそこにある戦いの物語である。
ツイッターの珪素という方の呟きから知って読了。
世界観、設定、キャラクターの内面描写、戦闘など、あらゆる点で完成度が高い。「物語」を作ろうとしているという印象だ。
まだ未完なのではっきりとは言えないが、このまま商業化してもなんら問題ない出来だろう。
読んでいると「このあとキャラクターがこうなるな」と予想ではなく予測のレベルで分かる。そして実際そうなる。僕はここを評価したい。
作者はこの「物語」に何が求められているかをしっかり理解しているのだ。だから読者の期待に応えられるのだ。
何より素晴らしいのは、先の展開が予測出来るレベルのものなのに鼻につく点がないところだ。展開の都合でキャラクターを動かしていないところだ。とてもよくまとまっているのだ。
正直、このレベルの作品が書けるならプロになっても何らおかしくないだろう。と、素人ながら思う。
これだけ褒めちぎってなんだが、僕個人の好みとしてはこの作品は好きじゃない。嫌いでもないが、単行本を買うほどではないだろう。まだ完結していない段階で何を言っている、という話だが。
そんな僕だが、この作者は報われるべきだと信じるので堂々と応援させてもらう。
皆さんも是非一度読んでみてほしい。
地面に落ちない限りほぼ不死身の身体に致命的な火力を搭載した異世界の怪物『飛獣』を相手取り、街と人命を守る為『反重力種』と呼ばれる飛行能力を得た新人類によって構成された部隊ーー『対空警邏』の面々が死闘を繰り広げる物語。
全体の世界観や筆致からは冷たく硬質な雰囲気が滲む。
乾き切ったような世界の中で、主人公である真鍋マグの独白は明確な色彩を持っている。
それは受験に失敗した何も持たない若者である彼が得ていく物、失っていく物に対する感情の色である。
蒼穹を飛ぶ白い飛獣、黒い隊服と武器を纏う対空警邏。モノクロームを想わせるコントラストに、稀に交わる赤。
視覚的に、あるいは心情的に、白いキャンバスに点描を打っていく様を連想する。
最終的にその絵がとのような仕上がりになるのかは定かで無いが、その完成を見届けたい。そのように思わせる作品だ。
遮熱襲(しゃねつかさね)、八式携行重針弓改改(はちしきけいこうじゅうしんきゅうふたつあらため)、攻性火光(こうせいかこう)など、横文字の少ない固有名詞群。
廃墟と化した都市ビル群とそこに浮かぶ化け物『飛獣』――退廃しつつもどこか美しさを感じさせる情景。
淡々と綴られる文章の中で、主人公……真鍋マグは深く悩み、そして武器を手に取る。
彼らは生体揚力という肉体とそれに接触するものを浮き上がらせる能力を持つ、『半重力種』と呼ばれる新人類。
重さを感じないはずのそれに、今は確かに感じる“重み”。
俺はこの重さを、忘れない。
……様々な所に作者の美意識やセンスを感じさせられます。
是非最後まで完走して欲しい。期待しています。
シリアスで硬派な戦闘を求める方におすすめの作品です。
本作は、異能を得た人類が正体不明の脅威に立ち向かう、構造としては王道を行くバトル物ですが、特筆すべきはその徹底した雰囲気の統一と、全体に漂う物悲しさだと思います。
同じように日常を送る人々が暮らす現代ではありながらもどこか違う皇紀2677年の東京、立ち並ぶ廃墟のビルと合間に立ち並ぶ青ランプなど、失われてしまったどこかの時代を想起させるような用語と風景描写。
破壊の限りを尽くす災害でありながら、「飛んでいる間しか存在できない」、どこか哀れな存在でもある飛獣。
そうした影の濃い世界に暮らす主人公、真鍋マグの心理描写も深く、無敵の力で圧倒するのではない、どこにでもいる少年のどこにでもいる精神が、理不尽な脅威に必死に抗う尊さがある作品です。
特に『あつまれ仲間』で描かれた多人数による空中戦描写の緻密さと敵の脅威は圧倒的で、登場人物の心境に感情移入できてしまうからこそ、いつ誰が死んでもおかしくない、戦闘の緊張感と過酷さが、真に迫る形で心に響きます。
普段小説を読みたいと言いながら読む気力があまりないとか言って結局あんまり読んでない。みたいなことをしている私ですが、この作品はすらすら読めました。
色んな意味でドキドキする展開に気付けば夢中になって、最新話まで読み進めてしまい、更新を楽しみに生きてます。
一人称視点が好きなので、マグ君視点で書いていらっしゃるのもあるかもしれません。マグ君がどこを見ていて何を考えていてだとかがよく分かって、どんどんマグ君に興味を持って読んだのもあります。
「飛び出せ青春」で俺が殺されるだけだという理由で一歩を踏み出したマグ君がとても好きです。
でも一番好きなキャラは高千穂曹長です。高千穂曹長にはあおぞら気分の『丙』での「覚悟があった」の一文だけで泣かされ、さよなら東京の『戊』でまた泣かされました。
彼女にだけ泣かされてしまい、もうこれは普段好きになるタイプの子ではないし、普段言っている「好き」とは別物だけれども「もうここまで泣かされるとは思ってなくて、もはや好きと認めるしかないのでは…」と思いました。
あまり感想を書く人間でないので語彙力を頑張ってあげておおくりしました。
以下が語彙力がない場合のものになります。
エア・ウォーカー、めっちゃくっちゃ好きです。すごくドキドキします。浦賀さんが死んでしまった時は本当に一瞬の事でえ?本当に死んでしまったの?え?そんな?救いがあったりしない?……しない?え???ってなってました。マグ君以上に頭が追い付かないで、しばらく嘘だろ…と放心してました。嘘だろ…嘘だと言ってくれよ…と思ったら続々と人が死んでいくので震えていました。現在進行形で震えています。こんなのってないよ!でも面白くって、普段人が死ぬ小説読めなくて死んだら叫びながら倒れそのまま見ない…みたいなことがよくあるんですかどうしてもどうしてもマグ君があの後どうするのかが気になって、次の話を読んでしまってもうそれから高千穂さんにずぶずぶ泣かされてしまい、マグ君の物語を読みたいと思ってしまい、今も読んでいます。あの男の子はどうするんだろう。マグ君はすごくかっこよかった。高千穂さんはとてもすごくめちゃくちゃかっこよかった。
まず、世界観の広さに心踊りました。荒唐無稽な化け物がいるにも係わらず、それにきちんと対処するための機関があり、その機関に所属する人たちがいる日常がある。その事が、文章の端々に垣間見えるのがすごく嬉しい。専門用語の一つ一つが、「区別のためにそうでなくてはいけない」という名称だったり(しかも、ものすごいハイセンス)、受験と怪物退治が当たり前のように共存していたり。こういう日常がきちんとあることを示してくれる作品に、僕は弱いです。そういう面で、主人公の両親が対空局(このネーミングもすごく良い!)なのもツボです。
その中で、主人公のマグ君が巻き込まれ、勇気を出すところが、怪物退治ではなく、もっと身近なところだというのも実によかった。彼のブレイクスルーは、「彼女を助けようとした」時点で終わっていて、「その後」は本当に運が良かっただけ、というのが凄く良い。
その後の展開も凄くよくて、現在「集まれ仲間」の甲を読んだところなのですが、これが仕事である以上確実に存在する人種がいて、かつそれが一切間違っている訳ではないという辺り、バランス感覚のよさを感じます。
マグ君が今後、どのような思考を経て、どのようなスタイルに落ち着くのか、今から楽しみです。