第四章:UMA探偵と彼らの名前-3
「マイルドな環境保護団体とかいって、えらく物騒な主張じゃあないか。少年漫画の悪役みたく、地球のためとか言って大虐殺を計画しそうだね」
「少なくとも、手段の方はマイルドと言えるだろうよ。『小さな方舟』の方がその目的のためにやっていたのは、せいぜいが各国に産児制限を求めるくらいのことだからねぇ。だけど、グリーンフォースの方はもう少し過激さ。人間がこんなにも増え過ぎてしまったのは、自然のままであれば飢え、寒さ、病気などで死んだであろう人間を生かしてきたからであり、人口を適切に保つためにはそれをやめなくてはならない――とまあ、こう主張した。そしてその理念に反する様な人間を殺してきた」
有馬は顔をしかめる。
「また随分と分かりやすい悪党だ」
しかしどうにも、今の話と東雲あらため社のイメージが結びつかない。イアン・リーとかいう名前らしい例の隊長はまだしも、彼女はそんな冷酷な思想に染まっている人間のようには見えなかったが。
「ああ、誤解の無いように言っておくけど、さっき言った、連中の理念に反する人間っていうのは、“自然のままであれば死んだであろう人間”そのものとは違う。そういう人間を生かしておくための政策なり技術なりを生み出してる人間のことさね。分かりやすく例えるなら、病人ではなく医者を殺し、病人はそのまま死ぬならそれが自然の摂理、自力で生き延びられたならそれもまた自然の摂理って感じかねぇ。ま、人口を減らすために政府が選別した“優秀な”人間だけを生かし、他を虐殺するとかよりはまだフェアと言うこともできるんじゃないかね」
「どっちにしろ弱者は死ねという思想じゃあないか。そんなのをフェアとは呼びたくないものだね」
「おいおい、UMA探偵。お前が日々向き合っている野生の世界というのは、弱肉強食というものじゃないのかい?」
おどけたような口調で、そんなことを聞いてくる。
「ある状況下では弱い個体が別の状況下では強いなんてことはいくらでもあって、状況変化に対応するためにあえて現状では弱い個体も排除しないというのも自然界では有り得る選択だろうさ。だけどそれ以前に、野生の世界がどうであるかと、人間社会のルールやモラルをどうすべきかは分けて考えるべき問題だというのが私の見解だよ」
「ふーん」
しげしげとこちらを眺める視線が気持ち悪い。
「何かおかしなことを言ったかな?」
「いいや? 何もおかしなことは言っていないさ。ただ、おかしな世界に身を置いてるUMA探偵が、あまりにもおかしくない、普通の人間みたいな、もう一つ付け加えるならありきたりでつまらないことを言うもんだから、ちょっと意外だっただけさ」
「……話を戻すけどね、さっきの理屈だと、グリーンフォースの方が主で、『小さな方舟』は従にすぎないということになる。だったら何で主の方を潰して従を残したというのかな。どうにも納得がいかないね」
「そこで出てくるのが、この女さ」
例の金髪美女の写真が有馬の眼前で左右に振られる。
「レイチェル・T・ウィルバーフォース。ハワードの養女だ。グリーンフォースの表向きの壊滅と時をほぼ同じくして、『小さな方舟』の代表がハワードからこの女に代替わりしている」
UMA探偵と世界の螺旋 人鳥暖炉 @Penguin_danro
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