親への眼差し、自己の惑い、子の輝き。

3世代の真ん中の著者の心の動きが、そこに在るかのように伝わってくる。
情景描写、心理描写が秀逸で、落ち着いて読める作品。

事実と創作が入り交じった作品ということで
お父様の故郷が福井県のかつての穴馬であることと
著者が学校司書なのが事実なのだろうかと推察して読み進める。
シリーズになっている短編集。5編まで出ている。
(2は「あなたの街の物語」受賞作品。3だけホラーのため未読でごめんなさい)

父と言うものは、頑固親父でなくてはならなかった。
一家の長として、厳しいこども時代を生き抜いた者として。

私の父はすでに他界してしまったが、最後に会話した時に
ちょうど来ていた故郷の同窓会の葉書への返事を心配していた。
良くなって行けばいいね、って伝えたのが最後になった。
もう今住んでいる土地の方が何年も長く暮らしていているのにね。

人のふる里への望郷というのは膨れ上がるのかもしれない。
多かれ少なかれ、積み重なる思いを持っていく人に
この作品群は、やさしく寄り添ってくれる。
おいしいものが五感を通して、目の前に差し出されるようだ。
この旅は、果たして実現したのであろうか。

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