登場人物は親子三代、たった一つの家族。
親の代があり、自分の代があり、子供の代がある。
この間にどれだけ彼らの周りは変化したのだろう。
爺ちゃんの住んでいた村は今ではダムの底に沈んでしまっている。
だが、そこには確かに村があり、人々の営みがあった。
それはもう過去のものとなっているが、現在との間をつなぐものがある。
それが爺ちゃんの昔ばなしと、息子の興味の対象となる化石だ。
親子三代で出かけるであろう化石探しの旅は、彼らの視覚に在りし日の村をビジョンとして眼前に展開するに違いない。
そして爺ちゃんの語る村の様子は、彼の話しぶりによって生き生きと再現され、そこにある鍋の匂いが当時の匂いと一緒になって現在の彼らの鼻腔をくすぐる。
絶対的な時間の隔たりを三代の家族と化石の匂いで結んだ、ちょっとノスタルジックな作品です。
3世代の真ん中の著者の心の動きが、そこに在るかのように伝わってくる。
情景描写、心理描写が秀逸で、落ち着いて読める作品。
事実と創作が入り交じった作品ということで
お父様の故郷が福井県のかつての穴馬であることと
著者が学校司書なのが事実なのだろうかと推察して読み進める。
シリーズになっている短編集。5編まで出ている。
(2は「あなたの街の物語」受賞作品。3だけホラーのため未読でごめんなさい)
父と言うものは、頑固親父でなくてはならなかった。
一家の長として、厳しいこども時代を生き抜いた者として。
私の父はすでに他界してしまったが、最後に会話した時に
ちょうど来ていた故郷の同窓会の葉書への返事を心配していた。
良くなって行けばいいね、って伝えたのが最後になった。
もう今住んでいる土地の方が何年も長く暮らしていているのにね。
人のふる里への望郷というのは膨れ上がるのかもしれない。
多かれ少なかれ、積み重なる思いを持っていく人に
この作品群は、やさしく寄り添ってくれる。
おいしいものが五感を通して、目の前に差し出されるようだ。
この旅は、果たして実現したのであろうか。