行間から溢れる時の流れ

登場人物は親子三代、たった一つの家族。
親の代があり、自分の代があり、子供の代がある。
この間にどれだけ彼らの周りは変化したのだろう。

爺ちゃんの住んでいた村は今ではダムの底に沈んでしまっている。
だが、そこには確かに村があり、人々の営みがあった。
それはもう過去のものとなっているが、現在との間をつなぐものがある。
それが爺ちゃんの昔ばなしと、息子の興味の対象となる化石だ。

親子三代で出かけるであろう化石探しの旅は、彼らの視覚に在りし日の村をビジョンとして眼前に展開するに違いない。
そして爺ちゃんの語る村の様子は、彼の話しぶりによって生き生きと再現され、そこにある鍋の匂いが当時の匂いと一緒になって現在の彼らの鼻腔をくすぐる。

絶対的な時間の隔たりを三代の家族と化石の匂いで結んだ、ちょっとノスタルジックな作品です。

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