人生が「ゴール」した話
2012年にわりに大きな転機があって、ほぼ毎晩外で飲む生活を送っていた。
で、職場近くのこの沖縄料理屋は午前3時くらいまでやっている。わりに飯もうまい。ということで延々通い詰めていた。俺らが通いだしての初代店長はすすきのの方に移動して、二代目の店長はもともとイタリアンから来てた人だった。なので、深夜に行っては「なんかパスタ作ってください」とか適当なことを言ってゴーヤチャンプルーパスタ作ってもらったり、沖縄料理と一ミリも関係ないエビクリームパスタ作ってもらったり、もうイタリアンすら関係ない麻婆豆腐を作ってもらったりして楽しくやっていた。この二代目店長は後に欧風居酒屋を出して、そこにも相当通い詰めることになった。
でもまあ青春の日々は永遠に続かない。つるんでいた奴らももっとまともな仕事を始めたり、家庭を持ったりして、そもそも毎晩ダラダラ飲むのに付き合ってくれる人もいなくなったし、自分自身も年を取ってしまった。いやまあ老いてなおゴリゴリに飲みに行くという人もいるだろうが、俺はなんか疲れてしまった。そうこうしているうちに、二代目店長は宮古島に飛んで、そこで店をやることになった。
一緒に飲みに行く人も、飲みに行った先に知っている人もいなくなった。
でもまあそれでいい。人生というのはそういうものだからだ。花に嵐のたとえもあるさ、さよならだけが人生だ。「楽しかったあの頃」は、今存在しないから輝いているのである。暗いところから振り返るから眩しい。それでいい。そう思っていた。
2019年。11月。ある仕事で宮古島に行った。
それで、二代目店長の店を調べてみる。宮古島の南側はリゾート地ゾーンで、北側が市街地になっている。その市街地の方に店があるらしい。俺は主に南側で仕事だが、なんとか北側に行く日をねじ込んで、その店に行ってみる。店長と久しぶりに会って、その店のメニュー(ヤギ汁とか)を堪能する。
いやー、久しぶりに会えてよかったっすわ。ヤギ汁もうまい。最高っすね。今度はあの頃つるんでたやつらと一緒にまた来たいです。そんな話をしてたら、店長が厨房に引っ込んで行って、しばらくして戻ってくる。
麻婆豆腐を持って。
この瞬間、「人生の伏線回収!!」と思った。俺の人生が映画だとしたらこれがラストシーンですよ。この麻婆豆腐めちゃくちゃ好きだったんだよな。これを読んでくれたあなたも知っているでしょう。好きだったんです。それが出てくる? そんなことがあるとは思わなかった。ここがゴールだったんだな。
そういうわけで、俺はもう人生のゴールを終えています。残り全部余生。そういうゴールが味わえる店です。コロナに負けずに深夜までやってます(それはいいのか?)。皆さんもぜひ行ってみてくださいネ。
君の知らない沖縄料理 雅島貢@107kg @GJMMTG
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
純粋脂肪批判/雅島貢@107kg
★117 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1,913話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます