序章の終わり

 これで私が物語を描き出す準備は全て整った。

 当面の役者たる『おじさま』ことトワメル・ティグレーンという『聞き手』について私が必要だと思う情報はあなた方にお伝えした。

 その実、彼はもっと多くの秘密を抱えている。

 そう、様々な形で彼は物語の中に現れる。


 その『聞き手』たるトワメルが話を聞く『語り部』たちも少しずつ出揃う。

 一人は魔王あるいは賢者リーアム・ポロニウス。

 一人はその妻『紡ぎの君』。

 一人はフリーアンこと我が父ベルイーニ・フリストベル。

 一人は我が姉ファルローゼ・フリストベル。

 そして、赤龍折れ尾ことオレオ様。

 追って、冥府の王ヨミについても少しずつ実像と虚像とが浮かび上がる。


 私自身について私が語ることはない。

 我が姉、エルミーユについても同様だ。

 私自身と彼女について語られるとき、この物語は静かに幕を閉じる。

 そしてディアドラ姉様がどういう存在なのかもやがて浮き彫りにされる。

 アルテアを襲う災厄と世界の終焉についても、塔を巡る攻防についても、あるいは魔王戦争についても・・・。

 それら全てを網羅する『螺旋の運命』という形で物語は描き出される。


 だが、忘れてはならないことがある。

 これは『私』という主体的な存在が紡ぎ出した物語に過ぎない。

 常に『私』という主観がとらえた出来事に過ぎない。

 物語は事実ではない。まして歴史でもない。

 おとぎ話なのだ。あくまでも職業的な語り部の紡ぎ出した。

 『私』は人だ。

 人並み外れたこともあるけれど、私はあくまで人だ。

 そうありたいと願い、そうあるために語り部となった。

 そして『私』が語りたいと心から願うのは私の家族たちだ。

 『私』は人であるが故に嘘もつくし、都合良く事実を改竄するかも知れない。

 そしておとぎ話と語り部たちの間を都合良く行き来する。

 『私』をそういうズルいところのある女だと思って話半分に聞いて欲しい。


 まずはリーアム・ポロニウスについてだ。

 既に予告した通り、祖父が《闇の徘徊者》と呼ばれていたその時代から物語を始めたい・・・。

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