序章7 螺旋の運命

 エルミーユの後に続いて階段を昇るとドアがあった。エルミーユはノックもせずにドアを開け、中に入っていく。

「随分かかったな、エルミー」

「義父上、無理を言わないでください。トワメル様は私たちとは違うのですから」

「だから、人間は面倒臭い」

「ほらほら、しゃんとしてください。私やお母様に恥をかかせないでくださいよ」

 二人のやりとりを扉の外で聞き、ひとしきり待った後にトワメルは入室した。

 そこは塔の中だとは思えないほど明るい部屋だった。

 広さはそれほどではない。ちょっとした応接室といった様子だった。

 ただ、見事なまでに何もない。

 ソファーが二つにテーブルが一つ。窓さえもない。

 ただ、互いの顔を見誤ることがないほどに明るかった。

「お初にお目にかかります。私は・・・」

「やめよう、ヴェルミー。久しぶりだな。ざっと1500年ぶりってとこか」

「リーアム、なぜそれを?」

 トワメルはある事実を確信した。其処にはかつてヴェルミーが対峙した魔王リーアムが当時と変わらない姿で存在していた。

 幾分の違いと言えば血色が良いことと、落ち着き払い澄ました顔をしていることぐらいのものだった。

 その姿を間近にとらえたことで自分があの晩目にしたのが単なる夢ではなく、物語に呼び覚まされた確かな記憶なのだということを思い知らされる。

「相変わらず油断ならない男だ。さすがは人の王。いや、永久王といったところか」

「なんのことだ。ヴェルミーの名は認める。私の前世だかなんだかなのだろうさ。だが私はアルテア王の勅使として・・・」

「“今は”な。だがいずれ近いうちに永久王の名を思い知ることになる」

「真面目に話をしたい。私の用件は・・・」

 相手も弁えずにトワメルが苛立ちを見せるが、リーアムの方は更にその上を行くせっかちだった。

「いいからそれを寄越せっ、面倒事はさっさと片付ける」

 そう言い終わらないうちにトワメルの手から親書の入った小箱がスルリと離れ、リーアムの手に収まる。

 手を触れずに中身を取り出したリーアムは其処に書かれた内容を確かめた上で、宙を飛ばすようにしてエルミーユに渡した。

 エルミーユは心得たとばかりにそれを受け取り、内容を確認した上で同じようにリーアムに放る。リーアムは空中で元の小箱に収めた上で、どこかに消してしまった。

「魔法か」

「そりゃ、ボクは魔法使いだもの。用件は全て了解した。あとはエルミーユが取り計らう。お前はここに直筆のサインを寄越せ」

 リーアムの手に紙が現れ、そこに文章がひとりでに綴られていく。

 そして、またしても宙を飛び、気づけばトワメルの手に収まっていた。

「いいか、名前を間違えてヴェルミーなんて書くなよ」

「そこまでバカではないっ!」

 トワメルは書面に眼を通した上で、自らの名を署名する。

 書面にはリーアムの全権代理人としてエルミーユが派遣されるので城側では粗相のないように丁重に迎えるよう云々・・・といった内容が記されていた。

 異存などある筈もなく、トワメルが署名するとエルミーユの手に自動的に受け渡された。彼女は手にした書面を親書の入っていた小箱と同様のそれを手から取り出して入れ、恭しくお辞儀をして二人の前から姿を消した。

「全権代理人ね。確かに彼女は優秀な魔法使いのようだが、彼女を派遣してどうなるというのだ」

「お前の望む通りに。だが、1500年分の利子をつけて返す。まさか自分がしたことを忘れたわけでもあるまい」

「おいおい、前世の私から受けた恩のことではないだろうな、リーアム」

「そうともさ。それにそもそもお前がボクをポロニウム侯爵に封じたのではないか。ここの徴税権に関しても本来はアルテア王家にあるのだ。それをどこでどう勘違いしたのか、王家のヤツらが勝手に放棄したのだ。お陰でこの東の塔にはポロニウムの民が納税した穀物が山積みになっている。いずれ必要になるとはいえ、量が多すぎて困っているのだ。少しばかり工面することになんの異存もない」

「ちょっと待て、リーアム。一体なんのことだ。ヴェルミーはリーアムと別れてそれきりだったではないか?あと古き盟約でポロニウムは王家不可侵の地だと陛下から聞いているぞ?それが勘違いだと・・・」

「悪い悪い。今のお前はまだ知らなかったのだったな。まぁ、いいから座って聞いてくれ」

 リーアムはパチリと指を鳴らして、ソファーにどっかりと腰を据える。

 同様にトワメルもソファーに座らされていた。

「紡ぎ、茶菓子と紅茶を。それとも酒の方がいいか?」

「酒にする。お前とはいずれ飲み明かしたいと思っていた」

「いいだろう。紡ぎ、酒の支度とつまみの用意を」

「さっきから紡ぎ、紡ぎと誰に向かって話しているのだ?」

「女房だよ。別室にいる。だがボクの言葉はちゃんと届いている」

「なるほど、便利なものだな」

「なんだったらお前の女房も呼んでやるよ」

 リーアムはパチリと指を鳴らす。

 外宮で読書をしていたと見えるアンが一瞬にしてそこに居た。椅子に座っていた姿勢そのままであったため尻餅をつきかけるが、リーアムの指が横に振られるのと同時にトワメルの隣にちょこんと座らせられている。

 リーアムはまたしても宙に紙を取り出してなにかを書き記し、唖然としているアンの手元に放る。アンの手の中に書面が収まっていた。

 トワメルとリーアムを見比べ、真っ青な顔色で狼狽するアンはトワメルから手渡されたペンを受け取る。そして書面に目を通してそこにサインした。

「なんと書いてあったのです?」

 トワメルはまだ驚いた様子で目をぱちくりさせているアンに小声で尋ねた。

「しばらく私が居ないがなにも心配ないと。身の安全はリーアムの名の下に保証すると」

「抜け目がないことだ。さすがは魔王」

「さて、女房殿もこちらに来られたことだ。これからのことについて語っておきたい。なにしろ時間がないのだ。あと10年そこそこでヤツが来る。そして、アルテアは存亡の危機に瀕することになる」

「なんだと!聞き捨てならない」

 怒気に顔を紅潮させるトワメルを尻目に、リーアムはアンに視線を向けていた。

「ほぉ、生真面目なアルテア王族らしいな。婦女子ながら正史を読むとは感心なことだ」

 アンの手にしている茶色の背表紙のついた分厚い本のタイトルを読み取り、リーアムは感心した風を見せる。

「トワメル様の居られない間に少しでもこの国のことを学ぼうと思ったのです。いけませんかっ!?」

「それはそれは、巻数から察するに紀元500年代というところか。一番古い正史は勿論目を通したな、ご婦人?」

「はい、ですが当時の本には信憑性が疑わしいところも・・・」

「ないよ。他の国のことならばいざ知らず、アルテアの正史については正確そのものだ。なにしろ編纂したボク自身が言うのだ。間違いがあるわけがない」

「そんな筈は・・・。だってアルテア聖王の妻は・・・」

「アン・パルディナ・アルテニア。違うか、アン王女殿下?」

「・・・・・・」

 アンはそれが事実だというように無言で大きく頷いた。トワメルが何事かと驚く。

 正史は王家秘蔵の書でトワメルたち重臣ですらその内容どころか存在については全く知らない。

「では『聖王』。あるいは『アルテア永久王』の名は?」

「・・・・・・」

 アンはトワメルの顔を見やり、悄然とした様子で顔を伏せる。

「ヴェルメイユ・パルディウス・アルテニア。即位前の名はトワメル・ヒルム・ティグレーン・アルテニア。つまり、お前の隣にいるその男が未来の夫であり、同時にお前自身の祖先だということになる。《螺旋の運命》がそう定めたのだ。そして、即位する『聖王』の後見人がリーアム・ポロニウス・サイアス侯爵。つまりボクだ。ただ、今目の前にいるボクとは少しばかり違った姿だったろうがな」

「なにを言ってるんだ、リーアム。百歩譲って私がヴェルミーであるのは認める。だが、アルテア聖王だとか、永久王だとか、ウェルテル陛下への侮辱にしても酷すぎるぞっ!?」

「お前の資質は王族としてのそれだということさ。何度生まれ変わったところでお前は王族に生まれ付く。その都度、異なった運命を辿るが、死を迎え、次の肉体に魂が宿るとき、再び王族になる。時代と場所の違いにより、お前は殿下、陛下、猊下など呼称こそ変わるが人間たちから敬われる。《螺旋の運命》に祝福されているお前はなにをどうやってもそうなるのだ」

「馬鹿な・・・」

 トワメルは握り拳を作り、そして、自身を痛めつけるようにして膝を何度も叩く。

 ぼやいたこともあったが王族に生まれ付くことを本当に定められたのだとしたら、今、アルテアの忠臣として誓いを立てる自分自身はただの道化だということになる。

 それに何度も別人として産まれては死んでいることを認めるのならば、魂は不滅だということになる。なんにしたところでトワメルの心が穏やかになる筈もなかった。

「あなた、やめて」

 アンは横から手を出してトワメルの手を握る。

「またしても、お前は馬鹿げたことだとボクを罵るだろうが、アン王女が知る事実が全てだ。ただし、今回の螺旋は少々厄介な事案を含んでいる」

 リーアムは真剣な眼差しをトワメルに向ける。

「既に大きな不確定要素が二つ生じているのだ」

「どういうことだ、リーアム?」

「その一つに関してはお前は既に目撃している。そしてもう一つが・・・」

 ノックの音と共に女性が入室する。その手には盆が置かれている。

 ただ、盆の上には何も置かれていない。

 トワメルはそのことよりもむしろ、その女性の眼に視線が向けられる。

 その女性の眼はしっかりと閉じられていた。

「この女性は?」

「まぁ、そう急くな。紡ぎ、用意が済んだら挨拶をしなさい」

「はい、あなた」

 紡ぎと呼ばれた女性は閉じた眼を苦にすることもなく、盆を手にしてトワメルとアンの前に立つ。その背後から台車が続いて入室し、その上にある料理と杯とが盆の上に並んでいく。

 紡ぎはただ盆の上から杯や皿をテーブルの上に並べていくだけだった。全てが片付くと空になった台車は消え去り、紡ぎはリーアムの手に促されて彼の隣に座った。

「ご覧の通り、眼が不自由なもので失礼をお許しください。私めはリーアムが妻、紡ぎと申します」

「不確定要素の二つ目がコイツだ。本来私は生涯独身を通し、妻は娶らない筈だった。紡ぎはアナロータの語る物語の中にしか存在しない筈の、言うならば架空の存在でしかなかった」

「童話の中に登場する魔王が恋した女性・・・」

 アンとトワメルはほぼ同時にそのことを口にして、互いの顔を見合わせた。

 リーアムは少しだけ忌々しいといった表情をする。

「あいにくボクは人間の記した書物を信用しない。故に君たちの言う童話とやらの内容については知らない。むしろ、今から100年後に吟遊詩人アナロータの語った伝承こそが正しいものだと考えている。それが螺旋の巡りで少しばかり形を変えたものがその童話とやらなのだろうさ」

 アンとトワメルは頷くしかなかった。紡ぎの君と童話には記された女性が今、目の前に座っている。リーアムが魔法で見せているのでなければその女性は確かに其処に存在していた。

「500年観察し続けたが容色が衰えることはない。少しだけ年を取り、アン王女と同じ世代の、つまりは25歳前後の女性に見える。だが、それは単に少しだけ立場が変わって名前の持つ意味が変わったことに過ぎない。それこそ、ベルイーニとミーネのようにな」

「そのことだが・・・」

 トワメルはエルミーユから聞いた話が気になっていた。それにリーアムの話の中に出てくるアナロータ・・・珍しい名ゆえに別人だとも思えないが、それがトワメルのよく知るベルイーニの末娘アニのことだとしたらと先ほどから考えていた。

 だがそうすると未来は決まっていることになってしまう。

 いや、その実決まっていないことはリーアムが不確定要素が生じていると否定している。

「ベルイーニとミーネは一体・・・」

「彼ら夫婦について話をするのは少々面倒だし、ちょっとした厄介事もあるのだ。少しずつ整理して話を進める必要がある」

「わかった・・・今はなにも聞かないことにする。あとで本人をとっちめて聞くことにしよう」

「そうしてくれ、ボクの口から語りたくない事実もある。お前に理解して貰いたいのはここに居ない今だからこそ言えるのだが、一つ目の不確定要素がベルイーニの娘で、今はボクの養女となっているエルミーユのことなのだ。彼女もまた《螺旋》に居る筈のない存在で、その正確な正体や役割についてはボクにもわかっていない。ボクと同等か、それ以上の能力を持つ魔法使い。だが、彼女はパペットでもないし、ヤツらの手先でボクに敵対する存在だとも思えない。確かにベルイーニとミーネの娘だというのならばおかしくない能力を持つ。成長が遅く、おそらくはボクや紡ぎと同様に不老不死に近いと考えられる。ただ、なにも証明する手立てはない」

「不老不死?」

「正確には不死かどうかはわからない。なにしろ、ベルイーニもミーネも不老不死だと思われていたのに、ある時を境にして物語には全く登場しなくなる。彼らの娘であるファルローゼもディアドラも、ボクの知る未来では“死んでいる”筈なのだ」

「ファルローゼ?それもベルイーニの娘なのか?」

「そうか、ファルローゼのことも知る筈がなかったな。だが、お前のことだ。あるいはいつか何処かで彼女と出会っているのかも知れない」

「なんだよ、それは」

「ボクとて全知全能というわけではない。知っているかも知れないが、ボクは人間を嫌っている。そして魔王戦争でヴェルミーとしてお前が目にした通り、ボクの力は万能でもなんでもない。だから、ボクは人間の歴史にはなるべくならば介入しない。本来ならば、ここでお前とこうして話していることさえ、《螺旋の運命》からは外れているのだ。勿論、ここでアン王女とも対面してはいない。そもそも、アン。君とは面識もないままボクはこの世を去り、君が知ることになる筈のリーアムは全くの別人だ。いや、ボク自身ではあるのだけれどね」

 トワメルとアンは途方に暮れた。リーアムの突飛な話に理解が追いつかない。

「お前はあくまでトワメル・ティグレーン卿で、エルミーユの居ない螺旋ではエルミーユの成したことのすべてはボク自身の手で行われたことになっている。お前は前世の記憶であるヴェルミーの名を思い出すこともなく、ボクと交渉することになり、その成功が縁となって、アンと挙式を挙げて王族に封じられたお前はここポロニウムに隣接する東エルトニアを所領とするアルテニア公爵に任ぜられる。そして、今から10年後のヤツらの襲来によってアルテアに危機が訪れ、王都パルミラは陥落する。ヤーデが王国騎士団の残党を率いてエルトニア城に入り、絶体絶命の窮地に立たされたお前はボクに救援を求める使者として誰よりも信頼する騎士ベルクールを寄越す。だが、ボクはヤツには決して勝てない。それは絶対的な能力差の問題だ。ボクはオレオ、髭長の助力と《フレイアの結界》の力で東の塔とエルトニア城、そしてエルトニアとポロニウムの二領を封鎖し、ヤツらの目論見をくじくことになる。そうしなければ本当に人類が滅んでしまうからだ。ただ、マスターでもないのにフレイアの力を極限まで用いた代償としてボク自身は跡形もなく消滅する。ヤツらは自分たちの存在を否定しないために北の塔を奪取して、その後西の塔に攻め込むことになる。オレオの尽力でどうにか東の塔から逃げ延びたアガトとリエラは龍族の力を結集し、私から受け継いだ魔法の力をもって西の塔防衛戦に加わることになる。そしてディアドラ、アナロータの姉妹は西の塔でそれぞれ成人する。アナロータは《螺旋の運命》に抗う方法を探すため、放浪の旅に出る。100年後の未来の世界で、彼女は世界を巡り、その詩をもって世界で起きた全ての出来事を物語として語る。一方、ディアドラは西の塔の守将ユリシーズ・サイアスと知り合い、恋に落ちる。やがて姉妹の長姉であるファルローゼも炎の聖剣を手に戦いに馳せ参ずる。ファルローゼやアガト、そしてユリシーズたち魔導師は激しい攻防戦を戦う。だが、その戦いの末に西の塔は陥落し、ファルローゼは妹の産み落とした子供を大切に抱え、同様の使命を託されたリエラと共に地獄門をくぐる。行き先はボクが2000年前の魔王戦争の果てに作り出した魔王国だ。西の塔が陥落したことで戦いの舞台は魔王国のある南大陸へと移る。そして、400年の戦いの後、ファルローゼは彼女が守り、南の塔の魔導師たちに託した子供の覚醒と時を同じくして戦死する。ファルローゼが開発に反対し、最後まで抗った最終兵器が投入され、長く見苦しい戦いに終止符が打たれる。そして、結界で時を封じられている君たちを除いて、吟遊詩人アニの見届けるままにこちら側の世界に居る人類は一人残らず死滅する」

「なっ」

 リーアムの語る未来にトワメルとアンは絶句した。随所に登場する人物たちにトワメルは多少なりとも心当たりがある。だが、話が本当のことだとしたならば、あとたかだか100年だか400年だかで人類が滅亡することになってしまう。

「南大陸でもほとんどの者たちが戦死する。そして、覚醒した子供はリエラと、生き残った僅かな者たちを従えて地獄門を潜り、こちらの世界に帰還する。そしてリエラと別れた子供は旅路の果てに東の塔に辿り着き、《フレイアの結界》を解く。そして、その生涯を東の塔を護ることに捧げることになる。つまり、その子供とはボクのことだ。結界の解放により、エルトニア城に居たお前達夫婦やヤーデ、ジャンヌ。そして東の塔に居たベルクールはこの世界に復活を遂げる。そして、お前は生まれ変わった形になるボク自身と再会することになる。アルテア王国再興のため、お前は戴冠して聖王ヴェルメイユとなる。その後見役にお前がボクを指名する。ヤーデは初代宰相に、ベルクールはジャンヌと結ばれて夫婦となり、アルテア騎士団の創設者となる。あとのことは多分、アンが知る通りになる筈さ。ボクとお前は盟約を取り交わして互いに不可侵と非常事態における協力を誓う。もちろん、それは次の螺旋のための布石としてね。ボクはポロニウム侯に封じられ、かわりに東の塔ばかりかアルテアを見守る守護者となることを約束する。また正史の編纂者としてお前達の治績を記録していくことになるのだ。ボクの記録した正史はパルミラ城の本棚に少しずつ並べられていく、実はその記録こそが螺旋がどのように変化するかを観察し、前の螺旋との相違を確認するために必要な措置なのさ」

 アンとトワメルは互いを見交わした。

 少しずつではあるが、理解が追いついてくる。

 つまり、魔王リーアムでさえ手に余る強敵が遠からず出現してアルテアは危機に陥る。そして、王都パルミラが陥落する。エルトニア城に居た二人はリーアムに保護を求め、リーアムが作り出した結界に護られて滅亡する世界を生き延びて王家の始祖となる・・・。

「性急に役割を教えてしまうことが良いことだとも思えないのだけれども、少なくとも今のボクが知る限りのことは教えておくべきだと思ったのだ。ただ、今回の螺旋が果たしてそのように推移するかは全くの謎さ。だから知っていたところでなんら意味はないのかも知れない。ただ、覚悟と備えは出来るだろうし、多少なりとも螺旋を変える力を持つのかも知れない」

「つまりだ、リーアム。螺旋というのは回り続ける世界の歴史のことで、それは変化する可能性も秘めている。今までのところはその前とほぼ同じ歴史が繰り返されているけれども、紡ぎさんとエルミーユが不確定要素として存在しているのでどうなるかはお前にもわからないということか?だが・・・」

 思案にふけるトワメルとリーアムをよそにそれまでずっと黙って話を聞いていた紡ぎが明るい調子で切り出す。

「考えてみても仕方ありませんわ、まずは食事に致しましょう。さぁ、すっかり冷めてしまわないうちに召し上がって」


                                    続く

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