この運転手は、恐怖の時代に生まれ変わった私やあなたの姿かもしれない

積み荷の正体は明かされません。しかし、読んでいる途中でうすうすと気付きます。トラックの行き先がどこなのか、徐々にイメージが固まっていきます。予感を否定したいという願いのようなものを感じながら、しかし、あっという間にトラックは目的地に着き、読者は戦慄の終着点へとたどり着きます。

作者様は、紹介文で「これ以上怖い話を書ける自信がない」と書いていらっしゃいますが、「運転手」が生きる恐怖時代のことを知識として知っている者にとっては、まさに、この世で最も恐ろしい話のひとつです。

作中の恐怖時代が到来するきっかけは、法治国家には無縁の革命などではなく、法治国家で機能していた選挙制度にあったこと。恐怖の世界に放り込まれたら、大半の人間は「運転手」のようにならざるを得ないだろうということ。その二つが思い浮かび、この短い作品を読んだ後も、しばらく震えが止まりませんでした。

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