第4話 嵐のようにオラオラと


「あたしゃー、神来かみくルン。お前誰?」

「一年の……龍洞りゅうどう赤見あかみです」

「敬語やめろ、同じ一年だ。ってーかこの人らもな、敬語使うよりガシガシにいじってやったほうが喜ぶかんな、覚えとけよ龍洞。トントロ先輩、データと状況くれ」

「くるるん来た! これで勝つる!」

「いちいちボケなくていいから。呼子先輩、やっちゃって」

「これでもくらえ」

「げえっ」


 唐突に現れた一年ギャルと、俺の隣りにいる二年大女の、流れるような動きでトントロ先輩が手刀を食らってキャラデータを提示する。セッション中に死ぬんじゃないかこのイケメン。

 『くるるん』と呼ばれた一年女子、神来ルンは赤いメガネを取り出して装着し、戦況とデータを一望する。えっメガネ女子なのか意外。


「マジで? なんで呼子先輩『必中魂』もう切ってんの? これ超大事なんじゃねえか??」

「くるるんが来る前に、凄絶な戦闘があったんよねぇー」

「その時起こせっつーの! またその場の面白さ優先で行動したろ、先輩ども? なんで魔法使い一人が後衛に置き去りで炎の息ブレス食らってんだ! GM、あたしゃーまだ行動してないから、まだこのゲイルってやつの横にいるよな?」

「勿論ですよ、ルンくん。かばうんですよね?」

「おおとも、かばうぜオラァ!」


 シャーペンが必要スキルポイントをキャラクターシートから減少させ、俺のPCギャックス・ゲイルの前に置かれた騎士の盾で、炎の息ブレスが止まったと説明を受ける。

 並んだミニチュアとGMの語り、飛び交う皆のキャラクター発言が俺の脳内を支配し、いつの間にか意識はまたもや、異世界のダンジョン内に舞い戻る。


GM:ということで『擁護盾』のスキルが発動して、ゲイルが受けるはずの炎の息ブレスのダメージは、スタンド4が全て受けました。

スタンド4:危なかったな、防御力の低いおめーが受けてたら消し炭だぞ。


 炎を身体で食い止めたのは、2メートルはある全身鎧の大男だ。

 顔も見えず声はくぐもって、なんかこう、リビングアーマーっぽい。これ本当に生きてるのか。生身が見えないぞ。


ゲイル:なっ、あ、ええ? ありがとう?? いやこれ、さっきの神……来……?

スタンド4:神来ルンだ。神来でもルンでもくるるんでも、好きに呼べよ。ああでも、キャラ名はスタンド4だかんな?

ゲイル:神来のキャラってこんななのか! デカブツなの? プレイヤーと随分イメージ違くない??

スタンド4:それ言うならおめー、トントロ先輩なんか右腕だけだぞ?

ゲイル:いやそうだけど!

ハンドレ:ヘイ!


 グーパーしながら楽しそうに空中を舞って踊るセント・ライト・ハンドレ。あれそもそもどういう仕組みで喋ってるんだ。


スタンド4:いいからほら、やんぞこら! GM、ザコどもの攻撃も済ませな。

GM:とは言っても、人造生命ホムンクルスは位置的にターセンしか狙えないので、戦果が望めないんですよねえ……。

ターセン:与えたバステに加えて、あたしは回避も高いしね!

GM:そうだ、飛んで火に入る右腕がいましたね。ハンドレを攻撃しておきましょう。

ハンドレ:グヘッイ!

スタンド4:んじゃあ最後に、スタンド4もやり返しとくかあ? オラァ!


 ズンズンと歩み寄って両手剣を持ち上げて、扉から首だけ出した火竜の顔面に振り下ろす、全身鎧の重戦士・スタンド4。

 竜の息吹を受けてもひるまずに、ボスらしき敵の頭を一息に叩くその姿は、見ていてゾクゾクする男らしさがあった。


スタンド4:んじゃ、第二ラウンドだな。範囲攻撃が出来るターセンはそのままザコの殲滅、GMのクリティカル回避とかで撃ち漏らしがあったら、ハンドレがやっちまってくれ。ゲイルは待機して、状況を見て竜かザコのどっちか殺せ。

ターセン:ほいほい。頼りになるねえ、くるるんは。

スタンド4:何言ってんだ! パイセンにはかなわねーっつーの!


 かくして新規戦力、巻き毛の赤メガネギャルの戦場支配で、あれよあれよと戦いは収束に向かっていく。

 やべえ……この、相談と団結で勝ちに持っていく感じ……面白いな。TRPGの醍醐味的なところが、だんだんわかってきたぞ。

 しかも最後の活躍のお鉢は、皆のおかげで俺のところに回ってくる。


ターセン:ザコは片付いたし、竜の首もスタンド4の攻撃でヘロヘロ。ここでメイン戦力のゲイルの登場ってわけよねー。

ゲイル:俺がメイン戦力なんすか?? えっ、ターセンに風の加護を与えるのが仕事なんじゃなくて?

ターセン:ゲイルはねえ、生命力を減らす代わりにダメージの底上げが出来るって寸法なのよ。体力的に乱発は無理だけどね。1レベルでは破格のダメージを単体の敵にぶち込めるってわけさ。

スタンド4:だから守ってやったんだぜ。行けやオラ、新入り!


 頼りがいのある女性陣に言われるままに、俺は生命力を減らす。高位の魔術の触媒として必要な、自分の血肉を風に乗せて、呪文の詠唱にとりかかった。


ゲイル:えーっと……『血騰呪』を使用しつつ、主スキル『嵐爪牙』……? これを使って、ドラゴンの首に攻撃します。判定で振るサイコロは、今回はみっつ? あっ、出目が全部2だ。低い……!

ターセン:違うんだよゲイル、このゲームではピンゾロ以外のゾロ目は振り足しだ! もう一回同じだけダイス振って達成値上げていいんだぞ! これがクリティカルってやつだよ、やっぱあんた持ってるわー。

ハンドレ:僕は腕だけなので常にホーリーシンボル的なもの持ってます。

スタンド4:攻撃は命中だろGM? あたしゃーそのゲイルの攻撃に、『戦助言』でダメージ上乗せすっかんな!

GM:ハンドレのボケのスルーされっぷりすごいですね。はい、命中です。ダメージください。


 スタンド4の支援も受けて、出たダメージはこの戦闘中の最高ダメージ。本当だ俺、戦っても強いキャラなのか!

 驚きと充足感が入り交じる中、血潮にまみれた小規模な嵐で顔を切り裂かれたドラゴンは、扉の向こうへと姿を消していく。


GM:お疲れ様です、戦闘終了です。

ターセン:へっへっへ。全員見せ場ありのいいバトルだったわ!

ゲイル:これ、面白いっすね……TRPGの戦闘って……。

ターセン:だろう? これから更にハマるぞあんた。

ハンドレ:はーい、ダメージ受けた人は僕が回復するよー。スタンド4とゲイルの回復が必要かな?

スタンド4:んがあ……。

ゲイル:えっ。


 戦闘終了のファンファーレでも流れてPC同士が仲を深め合うべきところで、俺は教室の現実へと引き戻された。

 竜の息吹でもザコの集中攻撃でも倒れなかった不沈のスタンド4が。いやスタンド4じゃない、中の人に当たるギャルルンが。寝た。すぐに。メガネ外して。即。


「龍洞くん、これはTRPGプレイヤーとして君が今後絶対に真似してはいけない、悪しき例なので、決して追随しないように……してくださいね」

「ぶっ、部長……? そりゃあみんなで遊んでる最中に寝るのはどうかと思うけど、神来はこれ、どうしたの……?」

「くるるんは朝練が忙しくて疲れててさあ。戦闘の時は起きてくるんだけどね、それ以外は寝てんのよ」

「朝練とかあるんすかTRPG部!??」

「ないない。掛け持ちなのよ。くるるんは忙しくて、食うか寝るか戦闘に参加するかのコだから、まあ、仕方ないかなって」

「実際、戦闘中の指示は的確で、プラマイゼロ感あるからねー」


 呼子先輩とトントロ先輩の擁護の声。みんなで「うんうん」と首を縦に振る。今会ったばかりの俺すら頷いた。戦闘時の心強さ、パない。

 無駄に絵になるトントロ先輩のキラキラお姫様抱っこで、神来は席を離れ、教室端の定位置に戻った。

 『くるるんのねどこ』って書いてある謎のマット、よく考えたらあれ何だよ。

 俺がそこに言及する暇はなかった。何故なら我部部長が、素っ頓狂な声を上げたからだ。


「ああっ、しまった……! これ最初の戦闘の前にやっとかなきゃいけないところだった……! これだから他人のシナリオを読み込み不足で開始するのは、いけませんね……」

「何、どったの? どうせ部長ならリカバリー出来るアレでしょ?」

「九頭竜坂くんの多大な信頼には応えないといけませんね。順番が前後しますし、細かい問題もあるんですが……やりましょう。PC間の関係性を決めましょう」

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