第2話 教室が異世界に転生する
唐突すぎる展開と、猛烈にキャラの濃い先輩たちに若干引きながらも、俺は心の内でワクワクしていた。
昨夜読んだ異世界転生ラノベのおかげで、俺の脳内はファンタジー世界に染まっていたし、そもそもゲーム自体は好きなんだ。キャラを作ってギルドに行ってパーティーを組む、そんなMMORPGもかじったことはある。
それと似たようなことを今、ここで? この変な人達と? ゲーム機とかも無しで?
寄せ集めて
「九頭竜坂くん、ダンジョン用のマップを用意してください」
「ほーい部長ー」
更には卓の中心に、くすんだ塗装のタイルが複数枚並べられ、エルフやオークやゴブリンの手乗りサイズのフィギュアが置かれる。
「うわっ、すごい! こんなのもセットで売ってるんですか?」
「これはあたしのオーダーメイドだよ。紙粘土とかこねて作んの」
「ええええ?? 呼子先輩の自作……??」
「なんだよ、でかいくせに手先が器用で悪いか!」
改めて振り返ろう。
俺の隣に席に座り、「ミニチュアドロップキック」と言いながらエルフのフィギュアの足先で軽く蹴ってくる、ぱっつん黒髪長髪長身二年生、
「いいなあ龍洞くん。僕も呼子さんにかまってほしいよ」
ニコニコと柔和な顔でこちらを見つめ、呼子先輩に「お前はもうライフが少なそうだから本気でやめとく」とあしらわれているのは、銀髪オッドアイイケメンの
そして中折れ帽をかぶり直し、「自分が
「まあ、初めてでわからないことや驚くことも多いと思いますが、逐一説明しますので。安心して想像力の翼を羽ばたかせてください」
「じゃあセッション開始ね!」
「セッション?」
「ああ、TRPGはね、みんなで集まってこうしてプレイすることを、セッションっていうの。個性がぶつかり合って何か作り上げる感じ、セッションって感じするでしょ? テーブル・セッション!」
ウィンクしてくる呼子先輩にドキッとして、初めて俺は気づいた。この人、結構な美人だ。
こんな降って湧いた状況に胸踊らせながら、サイコロを握りしめてGMの話を聞く。今回俺が初めて体験するこのTRPGのシナリオは、ダンジョンに冒険者一行が放り込まれたところからスタートするらしい。
なるほどと頷いてマップ用のタイルを見つめ、説明される情景を頭の中に描いていると、教室の壁がメリメリバタンと倒れて崩れていき、天井もぐるりと回転して石壁になる。
は?
いつの間にか俺の服装も学校制服ではなく、ローブと杖に早変わりしていた。いや、「早変わりしていた」じゃないだろ。
でも、していた。
は??
「えええええ……?? なんだこれ……??」
「どうかしましたか、龍洞くん」
「わっ、部長の声が天井から響く! 部長どこですか?? 俺はどうしてこんな格好でダンジョンにいるんですか?」
「おや。龍洞くんは入り込みやすいタイプみたいですねえ。稀にいるんですよ、没入型のプレイヤーって。よく見渡してください、他PCはすぐそばにいるはずですよ」
「やあ、龍洞。あんたのキャラは服装変わる以外は、基本的に外見設定とかはあんたの見た目そのままだから。そのほうが初プレイでもわかりやすいでしょ?」
声をかけられて気づいた。俺の隣には長身の猫耳くノ一が立っている。
「呼子先輩……?」
「あたしのキャラも外見はほぼ、まんまだから。あんたがそのほうが覚えやすいだろうと思ってさ」
くノ一が笑うと胸が揺れる。
その胸の谷間からするりと取り出した巻物は、広げてみると、猫耳忍者のキャラクターシートだ。キャラ説明に、「見た目はあたし。くノ一。獣人。おっぱいバインバイン」と書いてある。
実物の呼子先輩の胸部を、ふと思い返す。
……うん、先輩。現実は厳しいものですね。でもここは想像力が支配する世界ですから、言ったもの勝ちですね。
「ていうかセッション開始したんだから、キャラ名で呼び合おう。それがTRPGにおいて大事な、
「俺は、見習い魔法使いのギャックス・ゲイルです」
「トントロ、お前もキャラ紹介しな」
「僕は神の使徒だよ。銀髪オッドアイの見目麗しい妖精族――」
光りに包まれ、天から舞い降りるようにして現れるイメージキャラクター。トントロ先輩も見た目の印象とだいぶ被ってるな。
「――その右腕を聖なる儀式のためにドンっと切り落とすんだ☆」
突然ぶった切られる腕。血しぶきが視界を埋める。
「痛い痛い痛い! 急にイメージが痛いっす先輩!」
「かくして儀式をくぐり抜けて右腕だけのアンデッドと化した聖なる導き手、セント・ライト・ハンドレっていうのが僕のキャラさ」
「あたしこれ持ってダンジョン潜るの嫌ー」
「安心してくれターセン。セント・ライト・ハンドレは飛行能力を
「うわあ何だこいつ」
「……おっと失敗しましたね。ルンくんを起こす前にキャラ紹介をしてしまった」
GMこと我部部長の言葉で俺は、ぐいっと一瞬、現実世界に引き戻った。
よく見れば壁も天井も崩れていない、ダンジョン内部でもなんでもなく、くノ一も空飛ぶ右腕もいない教室内で。部長の視線を追って振り返ると、もう一人いた。
寝てる。ギャルだ。
「ま、いいでしょう。どうせ出番はすぐに来ますので、気を取り直して」
咳払いをして帽子をかぶり直し、とうとうとGMが語り始める。
この
GM:状況を説明いたしましょう。あなたたち冒険者は、『妖しの羊飼い』とかつて呼ばれていた魔道士が封印された、廃城の地下室に降り立ったところです。
ゲイル:……『妖しの羊飼い』?
ハンドレ:どうしたの、なにか気になる? ゲイル?
ゲイル:あ、いや……。昨日読んでたネット小説と名前が被って、気になっただけです。
ハンドレ:ネット小説って言うと、異世界転生? トラック? ガツンとトラック行っちゃった感じのやつ?
ターセン:ハーンードーレー。もうセッション始まったんだから、その辺の雑談は後にしな。
ハンドレ:はいはーい。そうだね、ゲーム開始してすぐに水を差すのもアレだから……また後で話そっか、ね?
ゲイル:あ、いや、大した話じゃないんで別にいいすよ。
にしても、俺の脳内に描かれている妄想とはいえ、猫耳くノ一と空飛ぶ右腕に挟まれて会話してるのって、非常に現実感ないな。
しかも話の内容は、昨日俺が読んだネット小説の話だし。現実と妄想の境目が危うい。
ターセン:んじゃ、気を取り直して。ここに来るまでのあたしらの経緯とか動機はどうなってんのマスター? 誰かの依頼? それとも自主的な宝探しとか?
GM:村人からの依頼によるモンスター退治ですね。細かい話は一旦後回しで、まずは派手に回しちゃっていいんですかね、このシナリオは……。
ハンドレ:GM読込中ー♪ 踊って繋いでいよう。
ターセン:この右腕キモイ。
ゲイル:あの、質問……いいですか。
ターセン:おっ、どんどんして! 気になったことはなんでも聞くといいよ。見込みあるねえこの子は。
ゲイル:じゃあ、遠慮なく。えーっと、GMでも自分のシナリオについて、わかんないことってあるんですかね……?
ターセン:あー、今回は部長の自作シナリオじゃないから、勝手がわからないこともあるのかもねー。さっきシナリオ見つけて読んだばっかりだし。
ハンドレ:とはいえ、ルールブックに載っていないことでも現場の判断でとりあえず裁定して進行するのがGMだから、大変な役割なんだよ♪ GMが悩んでるときは、僕らはこうして間を持たせることしか出来ないのさ、ヘイ!
ターセン:ノリノリだな右腕。
GM:まあ、あまりお待たせするのも良くないですね。ルンくんの件もあるし、早いところつかみに入りましょう。というわけで、戦闘です。
ゲイル:えっ、早速戦闘なんすか??
GM:はい。炎の鼻息を
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