第3話 副スキル乗せて主スキル発動
ダンジョンフロアタイルとかいう、石畳を模した数センチ四方のタイルの上に、着々と配置されていくフィギュアたち。
呼子先輩お手製の、騎士や忍者やモンスターのミニチュアが敵味方に分けて集められる。
敵陣営の中でひときわ異彩を放つのは、他のフィギュアと大きさの違うドラゴン。こいつだけぬいぐるみだ。
「まさか低レベルシナリオでしょっぱなドラゴンに出くわすとは思わなかったから、今日はこいつね。おいトントロ、お前の右腕キャラに使えるフィギュアはないから、適当なポーンでいい?」
「僕はハンドレ用に、人形の腕をもいで持ってきたものがあるから、これでコマを代用するよ」
「うわっ、キモッ。事件の臭いがする」
「地下室は思いのほか広く、概ね戦闘に問題はない程度の奥行きと高さのある場所だと思ってください。行動は制限されません。しかしこちらのドラゴンは奥の扉から顔を出すだけで移動は出来ず、動ける敵としては
「あのー、俺はこの、ローブを着た魔法使いみたいなフィギュアでいいんですか?」
「そうそう、龍洞それ使って。安心しな、お姉さんが早速あんたに、たーんと見せ場作ってあげるからね」
にやりと笑う呼子先輩の顔。いつの間にか衣服は学校制服のものではなく、なかったはずの胸の谷間を強調したくノ一のそれへと、変化していた。
GM:では第一ラウンドに突入します。各自、準備行動はありますか?
ターセン:あたしはあるよ。スキル『小馬鹿』を使用、べろべろばー! ほら見てな、ゲイル。判定ってのはこうやるんだ。
1~6の目が出るサイコロをふたつ握って、呼子先輩は卓に転がした。出目は2と6で、足して8。
GM:こちらも対抗判定。達成値は……ターセンの数字には届きませんね。くノ一謹製、相手を挑発する『小馬鹿』のスキルが発動し、こちらはマイナスの修正を受けます。
ターセン:こうやってサイコロ振って、能力値と足して、達成値を出して、相手の数値と比べるの。比べ合いに勝てば、スキルごとの効果が発揮されるってわけ。スキルに関係ない、能力値だけの判定が必要なこともあるけどね。わかった?
ゲイル:スキルの内容とか、憶えるの大変そうですね……面白そうでもあるんだけど。
ターセン:少しでも面白そうと思えるなら、やっぱあんた素質あるよ。安心しなって、判定のたびにあたしらが教えてあげるし、ゲイルのデータは初心者でも扱いやすく組んだから。
ハンドレ:僕が組んだデータだよ。しかも結構強いしね?
GM:さて、準備行動はこちらは特にありませんし、改めてラウンド中のメイン行動開始ですね。
ターセン:もちろんうちらだね! ターセンとゲイルが一番早く動けるようにデータ組んだんだから。
ハンドレ:僕がね?
ラメダイスキラキラアピールをしている、イケメントントロ先輩を無視して、呼子先輩はざくざくと行動を進めていった。ボケ&スルー=円滑なゲーム進行。
ターセン:ゲイル、あんたはあたしに……くノ一のターセンに、風の加護を与える魔法をかけるんだよ。この二人は風のコンビってことで、連携が成立するようにデータ作ってあるから。
ハンドレ:僕がね?
ターセン:今回はあんたが魔法をかける相手はあたしだから、達成値は気にしなくていいよ。あたしは魔法に抵抗しないし。つまり、ピンゾロさえ出さなきゃ魔法の詠唱は失敗しないってこと。やってみな。
ゲイル:えっと……この『風狼陣』っていう魔法? やってみます。
サイコロを振ると、出た目は1と2。危うかったけれど判定は成功した。
異世界でダンジョンに潜り、奇抜な仲間とともにドラゴンの前に立つ、俺の分身ギャックス・ゲイル。緊張でたどたどしく唱えた呪文は、透き通る風の狼を呼び出して、猫耳くノ一の周囲に追従させる。
ターセン:よっしゃこれで整った! あたしの番だね。まずは
呼子先輩が、戦闘用のマップに載ったミニチュア忍者を持ち上げて、マス目に合わせて移動させる。
同時に妄想の異世界の方では、胸を揺らして音もなく、敵の元へと忍び寄る猫耳くノ一。
ターセン:副スキル『風斬雀』を載せつつ、主スキル『分身殺』でザコにまとめて攻撃。ついでに『必中魂』も使って相手の回避を封じるよ!
ハンドレ:えっ? ポッと出のザコに『必中魂』も使っちゃうの? シナリオ一回しか使えないスキルだよターセン?
ターセン:ゲイルの魔法で強くしてもらった力を発揮する、見せ場じゃん? やってかないとね!
ハンドレ:おおー。さすがのかっこよさ! やってこう!
GM:ターセンの攻撃は『必中魂』で全て命中。ひとかたまりに集まっていた6匹の
ゲイル:ふおお……! ターセン強い。
ターセン:あんたの魔法のおかげでね。更に風の加護の付随効果、『風斬雀』のバッドステータス付与も乗っけといてねGM。
GM:わかっております。バステ足止め好きの九頭竜坂くんに、後押し支援要員が加わって、水を得た魚……いや風を得た猫ですねこれは。
ハンドレ:ザコが『小馬鹿』も『風斬雀』も受けて、バッドステータスで弱ってるなら、せっかくだから僕も行くかな。
言うが早いか、握った右拳が神聖な力に包まれて空を飛んで移動。ヒエッ。
手足が多かったり少なかったりして失敗作のように見える
ゲイル:ハンドレって一応神官なんすよね? 見た目がヤバイだけで、漠然と回復役なのかなって思ってたんだけど、戦うの??
ハンドレ:こう見えて単体攻撃力はターセンより高い場合もあるんだ。相手が死せる生き物の場合だけだけどね。
ゲイル:自分も死せる生き物みたいなものなのに……。
GM:先手が打てるうちに敵の戦力を減らしておくのは悪くない選択かと思います。さて、
ゲイル:えっ。
ターセン:待ってGM!? そいつ動かないんじゃなかったの?
GM:移動はしないと言っただけです。遠距離攻撃は行います。もっともこのブレスも、戦闘中一発しか撃てませんが……。
ターセン:って言ってもバステも何も受けてないドラゴンのブレスが、貧弱魔法使いに飛んでったら、死ぬんじゃない? アハハハハ!
ゲイル:これ笑いごとなの!?? 俺、TRPG初プレイにして早速死ぬんすか??
ハンドレ:安心しなってすぐに回復するから。おーっと僕は行動済みだからこのラウンド回復できないや☆
???:かばう。
絶体絶命かに思えた状況で、見習い魔法使いギャックス・ゲイルは目を閉じたけども、逆に現実の龍洞赤見は目を見開いた。
背後に立つ女子に心強くも、「かばう」と突然声をかけられたからだ。
中折れ帽子を持ち上げて、大仰なしぐさで部長が女子を迎え入れる。
「お目覚めですか、ルンくん。お待ちしておりました」
「お待ちしておりましたじゃ、ねーっつのおめーら! 勝手に戦闘おっぱじめてんじゃねえよ! 起こせって言ってんだろ! オラァ!」
「一番いいところでお呼びしようと思いましてね」
「こいつ何、知らねー顔。一年生? よくわかんねーけどピンチなんだろ? かばってやるよ」
この女の子は、ゲーム開始時に俺がその存在に気づいた、灼けた肌のギャルだ。
大股開きでトントロ先輩の隣に座り、制服ミニスカの中が見えるのも気にしていないのは、スパッツを履いているせいだろう。だけど目に毒なのは変わりないよ。隠そうよ。
茶髪の髪は癖が強くてくるんくるんと巻き上がり、寝癖のひどい起き抜け女子のように見えるっていうか、さっきまで寝てたこいつ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます