7話 バディ
火姫は魔物について時々流れるニュースの内容を思い出していた。夕方の情報番組である。
「本日14時ごろ、東京都葛飾区に突如現れた魔物の一種、ゴブリンにより3名が死亡し、18名が重症を負いました。この件に関して自衛隊は、より強力な銃器の配備を急がせることで、被害拡大を防ぐ、との発表を行いました。被害に遭ったのは……」
被害者達の名前を読み終えたアナウンサーが有識者に話を振った。
「徐々に重大化する魔物の被害ですが、我々はどうすればよいのでしょうか。本日は魔物研究家の坂田さんをお呼びしております。どう思われますか、坂田さん?」
「やはり、まずは逃げることです。これが一番大事でしょう。魔物を倒すのは、一般人不可能です。撃退は自衛隊や〈勇者達〉の仕事ですね。最近の魔物相手に、我々に出来ることは殆どありません」
「殴られただけで人が軽く5メートルは吹き飛ばされるような相手ですからね。最近はスマホの魔物警報アプリなども出回っているようですが」
「はい。魔物警報アプリは、政府が配信しているアプリがあります。決して、それ以外のアプリを利用しないでください。写真や動画で情報提供をするとお金が貰えるアプリがあるようですが、非常に危険です。魔物には近づかないでください」
「次に最近巷を賑わせている〈勇者達〉アイドルについてですが……
そう。何も力を持たない人々は、魔物が出たときには逃げるしかない。それほどまでに魔物は強い。そして自分には力があるらしい。
「やります。魔物退治」
根拠はないが、自分が戦わない選択をすることで人が傷つくことは、にとって嫌なことだった。
「そうか、感謝する。正直なところ人手不足だったんだ。よろしく頼む」
(確かに人手不足だろうな……武器に選ばれる確率も低いわけだし)
稲一は火姫に握手を求めた。火姫はそれに応じた。火姫、高校も卒業せずに超高給業種、今や野球選手並の人気を持つヒロイン職業、〈勇者〉に就職決定である。
「よろしくお願いします」
「ああ。では早速職場と同僚の紹介をしよう。着いてきてくれ」
「はい」
「私も行くー!」
火姫と稲一、詠夜の後ろに、亜美も着いてきた。
◇
「ここが〈勇者達〉のメンバーと連絡を取ることが出来る部屋だ」
稲一は火姫と亜美、そして詠夜を部屋に入れると機械を操作し始めた。すると映写機が動き始め、部屋に沢山の小人が投影された。
「ペットショップの犬猫カプセルホテルみたい……」
床の上に縦5×横10マスで〈勇者〉一人ずつの立体映像が投影され、歩いている人やお菓子を食べている人、寝ている人などもいた。男女比はほぼ半々……少し女性が多い用に見える。因みに火姫は犬猫カプセルホテルなど見たことがない。適当に言っただけであった。そして、これを見て一番テンションが上がったのは亜美だった。
「すっごーい! 最新鋭のホログラム投影器だ!」
「いくらしたんだろう……」
「やっぱりこれって凄かったのね……」
「……あっ弓の人だ!? 髪の色が違ったので気づきませんでした! さっきはありがとうございました!」
「いえいえ。むしろよく気づいたね。私は枡野詠夜。高校2年生」
「私は羽箒火姫です! 火姫とか、適当に呼んでください! 私は高校1年だから、詠夜先輩って呼びますね!」
「詠夜でいい。学年はともかく〈勇者〉同士は対等なんだ。少なくとも私はそう思っている」
詠夜を観察して火姫は思った。背筋はピンと伸びていて、睫毛が長い。
「クールビューティなお姉様って実在したんだ……」
「止めてよ。よく言われててキツいから」
「あっ、つい心の声が。じゃあ……詠夜、よろしく!」
「よろしくね」
詠夜との自己紹介を終えた火姫に稲一が話す。
「現実世界での自己紹介も終わったところで、今度はこっちの勇者さん達にも挨拶してもらおうか。下の名前と年齢、武器のタイプだけ言ってくれればいい。じゃあ行くぞ……どうぞ」
「えっ、あー、はい。新しく〈コミュニティ〉? に入ることになりました、火姫です! 15歳で、武器のタイプは棒……多分棒? です! よろしくお願いします」
それに答えるようにホログラム達が一斉に喋り始めた。
「よろしくー」「可愛いー」「JKだ」「いやJC説ある」「今高一って言ってたじゃん」「デートしない?」「そこ神奈川だから道民は黙ってろ!」「てへぺろ」「あんたちゃうわ!」「よろしくー」「新たなる覚醒者に祝福を!」「厨二乙」
「わっ!? 全員と通話してたんだ!?」
なんたるデータ集中! 高価なパソコンと回線である。火姫はパソコンすごいとしか思わなかったが。
「さて、今日の用事は火姫君の紹介だけではない。ニュースをちゃんと見ていれば知っていると思うが、今日発生した魔物は、ワイバーンだ」
「ええっ!?」「マジか!」「誤報ちゃうねんな」「知りえんかった」「お前らちゃんとニュース見ろよ」「家テレビねーし! 受信料だけ払ってるけどな!」「気弱すぎだろ」
各々の反応に火姫は驚いた。確かに今日まで、日本にワイバーンが出現したことはない。だからといって、永遠に出現しない訳ではないのが、一般の常識だからだ。詠夜が解説を始めた。
「火姫、キョトンとしてるね。皆が驚いているのは『いつか来る魔物が今来たから』ではないの。一般人が知らない、別の理由がある」
「別の理由って?」
「ああ! その話をする前に《セカンド・ムーン》が出現した時に起こった地球環境の変化について教えないといけない。何が起こったか覚えているか?」
稲一が火姫に問うた。
「……《魔物》が発生するようになった?」
「その通り。新たな月が生まれて、魔物が出てくるようになったのと勇者が生まれた。一般人が知っているのはそれまでだ。しかしよく考えてみて欲しい。衛星が一個増えた程度でそんな怪現象が起こるか?」
「いや程度って。月が増えるって怪現象がおきてるんだからありえなくもないんじゃ」
「あ?」
「……確かに。カガクテキにあり得なさそうですね」
確かに月が増えて変わるのは潮の満ち引きくらいだろう、と火姫は無理やり納得した。
「あっなんだ、私知ってますよ!」
「ママ?」
「だって私の今の研究って《魔素利用学》なんだもん」
「なんと!」「マジで!?」「博士以外にもいたんだ!」「そうだったんだ!」「ここにも頭おかしい人がいた!」「マジか!」
稲一を始めとした一同は亜美の発言に驚く。火姫も今まで聞いたことがなかったので驚いた。そして母親の研究をバカにされた気がして無意識に聞き返した。
「魔素利用学って頭おかしいんですか? 私のママ優しいんですけど」
一同は一瞬凍りついた。が、すぐに再起動した。
「あっごめん」「すまん」「すみません」「火姫ちゃんごめんね」
秒で謝る一同。稲一が話題を戻す。
「セカンド・ムーンの出現と同時に、新たな素粒子が観測されるようになった。それが魔素だ。魔素の利用は、現在2通りの方法が確認されている。一つは勇者の
「へー、そうなんだ! じゃあこれも魔素で動いてるんだ!」
火姫は改めてシャイニーブルームを眺めた。宝石のようにキラキラしている。
「その通りよ。そしてもう一つの利用方法……それが魔物の発生なの」
火姫は、それはそうだろう。と納得した。《STAR》と魔物。どちらも同時期に発生するようになったものだからだ。
「だが、その《シャイニーブルーム》はそのどちらでもない。人類が初めて魔素を利用できたケースだ」
「……世界初の魔素の利用方法を今この目で見てるわけなんだ。火姫ちゃんのお母さん、凄いね」
「自慢のママです。詠夜さんありがとう」
「詠夜でいいよ。これからバディになるんだし」
「……バディ?」
『ひゅー、詠夜ちゃんかっくいー』『イケメン美女ー!』『お姉さまー!』
「ちょ、皆、や、やめてよ……」
赤面する詠夜。褒められるのには慣れていないらしい。俯き始めた詠夜に稲一の助け船が入った。
「では、新人紹介も終了したので今日の連絡は終了とする。聞きたいことがあれば後でチャットで行うこと」
『ういー』『了解』『はい』『オッスオッス』『オッスお疲れ様でーす』
通話を終了した人間から、ホログラムが次々と消失していった。
「では、これから勇者の仕事の詳しい説明を行うとしよう」
稲一は全員に着席を促した。
「はい」「分かりました」「私も聞いて良いですよね?」「無論です。コーヒーでも取ってきましょう」
「私飲めませんので緑茶で」
「おう」
「(詠夜……可愛い、でも趣味が渋い)」
稲一がコーヒーと緑茶を配り終えると説明が始まった。
「始めに説明すべきは、勇者の仕事は二人一組で行うのが原則だということだ。バディというのはその二人組のことだ」
「あれ? でも詠夜せ……詠夜が私を助けてくれたときは一人だったような?」
「それは……」
「?」
詠夜は火姫を助けてワイバーンを倒したとき、一人で現場に来ていた。火姫の疑問はもっともである。稲一がそれに対し、迷いながらもこたえようとしたとき、詠夜が横槍を入れた。
「……私が答えます。稲一さん」
「だが! ……いや、君がそういうなら。しかしその前に伝えるべきことがある。羽箒火姫君。君のバディはこの升野詠夜君だ」
(追記:地球環境云々の話は後の話でやりますのでお待ちください)
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