8話 バディのいない勇者

「私と詠夜がバディに!? 強さが全然違うんじゃ」


 火姫と詠夜のバディについては稲一が引き続いて説明した。


「その理由は三つある。まず、実力差は問題ではない詠夜君は単体でも強く、サポートも的確だ。だからこそ初心者に付ける。初心者勇者の君は。勇者が初めての戦いで死亡する例は後を絶たない。むしろ実力差があるからこそ、組ませているんだ。次に住居と年齢が近いので組ませやすい。最後の理由は、詠夜君にはバディがいないからだ」


「な、なるほど……? 合理的ですね?」


「なにも考えていない訳じゃないさ。お役所仕事だからと言って」


「よろしく! 詠夜!」


 納得した火姫は詠夜の方を向く。詠夜は少しの躊躇いを見せながら、口を開いた。



「私のバディがいない理由。それは……私のバディを、私が死なせてしまったから」

「えっ……」


 いきなり明かされる衝撃の事実。

 火姫が持つ詠夜のイメージといえば、有無を言わさない建物越しの狙撃。刺さった後爆発、怪物に問答無用の破壊をもたらす最強の弓矢。そして先程の優しくとっつきやすい態度である。戦闘力で言えば申し分ないし、仲間を見捨てるような人にも見えない。そのような詠夜が親しい関係のはずのバディを死なせる……?


「そんな、な、何か事情があるんだよね……ですよね?」


 火姫は信じられず、つい稲一にも尋ねた。

「私のせいなの。私が、見捨ててしまったから……」


 どんどん詠夜の表情が暗くなり、顔が俯いていく。手は小刻みに震えていた。このままでは詠夜にはとても辛いのでは、と火姫は思った。


「詠夜? 落ち着いて」

 火姫には友達を死なせた経験など無いが、何かのミスで死ぬほど慌ててしまって混乱したことがある。その時に亜美が採った解決手段を無意識に実行した。


 ハグである。


「(あら~、火姫ったらすっかり大人に)」


「(やはり、しっかりした娘さんですね。私もこんな子を育てられるように精進せねばと思います)」


「(それはそれはどうも! 天才科学者ですから! 見習ってください)」

亜美のように、もっと子供に対して正直になってみるか……と稲一は思った。


「コソコソ話をされると恥ずかしいんですが」


「あ、あわわわあ、ほ、火姫!?」


「ゆでダコみたいだぞ、詠夜君」


「だだだだだってぇ」


「火姫、詠夜ちゃん落ち着いたみたいだし離していいと思うわ」


「え〜! 詠夜、まだ震えてるよ?」


 既に詠夜の震えは悲しい震えとは違うのだが、気が付いていない火姫。詠夜は口をパクパクさせて緊張しているが、その顔は火姫には見えない。ハグをしているので。


「……まあそのままでも話の続きは出来るか……では私が話そう」

 稲一は頭を抑えながら火姫へ続きを話し始めた。

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