10話 ゴブリン隊長

「うひゃああああああああ!?!?」


 火姫は空を飛んでいた。否、火姫は空に飛ばされていた。

 撃発した火姫は、まるで砲弾のように東京湾からマイハマへ発射された。飛んでいるのだと気づいたころにはちょうど放物線の頂点あたりに到達していた。

 本来なら後は落下してスーパーヒーロー着地を決めるだけである……が。


「あああ!! 落ちる、落ちてる! 稲一さん! 戦う前に死んじゃう! 落下死する〜!」


「大丈夫だ! 着地まではバリアフィールドが張られている!着地した瞬間、運動エネルギーをキャンセルし、地面との相対速度が0になるんだ!」


「言ってること、殆どわかりません!」


「安心して格好良く着地すればいいんだよ!」


「分かりました! うおおおおお!!」


ドンッ! 火姫はブリーフィングで予定されていた位置に着地した。


 遠目にゴブリンを眺めながら呟く。

「私が羽箒火姫だ」


「着地は見事だが、誰に向かって記者会見しているんだ……」


「……へへっ」


「へへっ、じゃあないだろう……火姫君、撃発が遅れたため詠夜君はもう第一矢のチャージを完了している。急ぐんだ」


「あっ、そうだった!」


 火姫は詠夜の元へ走った。その途中で詠夜が狙っている敵を観察した。

 大きなゴブリンだ。 革の鎧を付けていて、その3mにも迫りそうな体躯に見合った大きな棍棒を持っている。しかもトゲ付きだ。左腕には腕章をしており、何かの文字が書いてある。

 事前の情報通り、周囲には普通の……すなわち小学生サイズのゴブリンが数十匹屯していた。

 詠夜はその大きなゴブリンを遠間から狙っていた。


「火姫、射つね!」

「ちょっと待って!」

「え」


 火姫はシャイニーブルームを具現化した。杖術の基本姿勢に近い両端を順手で持った構えだ。シャイニーブルームは動かすと軌跡が光るので、見つからないようになるべく動かさないように構えた。

「おーけー!」

「いくわ!」


 詠夜は気合を入れるように少し叫ぶと、構えていた『爆烈矢』を放った。


 ひゃう……スコン。命中。


「ギャッ!」


 ゴブリン隊長が詠夜の方を振り向く。


「グギャギャギ……」

 バンッッッッッ!! 敵がいることを告げようとしたその瞬間、『爆烈矢』が起爆!


「うわっ、背中が無くなってる」

「火姫、来るわよ!」

「はいさ!」


 とにかく掃除で男子と培ってきた箒捌きを応用して殴るしかないと決めた。


「うりゃあああああ!」

 突貫する火姫。バギィッ! ゴッ、ドパンッ! シャイニーブルームで殴り、突き、反対の先っぽで後ろの敵を突いていった。


 ゴブリンは突っ込んできた火姫に殺到した。弓矢を持っている凶悪な女に比べ、目の前の相手は棒しか持っていない。

 コイツを簡単に倒してから弓矢の女に殺到すればいいのだ。そうすれば突撃は他のゴブリンに任せて、自分はこの弱そうな女を犯せば良い。


「グギャ!」

 ほら、今だって正面の同胞を倒した女が体制を立て直せずにいる……


「あっ!?」


 物量任せの波状攻撃に対応しきれない火姫。突撃はいいけど深く入りすぎたというのは後の祭り。


「『貫徹し』ッ!」


 ブスブスブスブスッ!

 詠夜が矢を放っていた。火姫を狙うゴブリンの頭を貫いたその矢は、ありえない軌道で曲がり周囲のゴブリンの頭を貫いていく。


 一瞬呆気にとられるゴブリン達と火姫。


「ボサっとしないっ!」

「はっはい!」

「ギャッ!」

「ギュアアア!」



 それからは特にトラブルもなく……程なくして、周囲のゴブリンは全滅した。そのほとんどが詠夜に斃されたものではあるが。


 端末に連絡がよこされる。

『お疲れ様だ火姫君、詠夜君!今回は幸い、被害は最小限に抑えられた!』


「良かったで……あ」

『どうした?』


 火姫が見つけたもの、それは嬲り殺しにされた女性の死体だった。


「あー」

『ぬっ……これは……何度見ても慣れない』


 嬲り殺された死体の状況はそれはもう酷いものだった。五体満足ではないし、部位別に説明するとカクヨムには投稿できないレベルである。


「うっ……」


 火姫は吐き気を催した。詠夜が目を逸らす。稲一も画面から目を逸らした。







 ……火姫と詠夜が帰還した。


 亜美がナプキンを持って立っていた。


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