第3話 夢中の行程
目が覚めると――いや、覚めたんじゃないな。夢のなかで気がつくと、だ――ロバみたいな動物に乗っていた。鞍(くら)はあるものの鐙(あぶみ)がなくて、ブラブラさせてる足のせいで不安定だ。あぶなくバランスを崩して落ちかけた。
バランスを崩したときに、ぐっ、と胸が締め付けられた。胸に巻きついた腕に力が込められたんだ。
背中の上のほうには頭が押し付けられているらしくて、そうすると、腰の上あたりにぷにょぷにょと押し付けられているのは、胸か?
あたりはジャングルのようだ。昼間らしいのだが、陽の光は木々の大きな葉っぱが幾重にも重なっていてほとんどさえぎられていて、薄暗い。
背の低い植物も地面にぎっしりと生えていて、辛うじて土が見える、獣か人が植物を掻き分けた道のようなすじがあり、そこを進んでいるらしい。後ろに乗ってるのは、この胸のボリュームからして、ユメか。
肩越しに背中のほうを見下ろしてみると、ブロンドの巻き毛が見えた。オレの背中にあごを突き刺すようにして彼女が上を向く。青い目がこっちを睨んでいた。
「マコト?! 戻ったの?」
どういう意味だ? ずっと待ってたんだろうってのはわかる。でも、オレがいなかったのなら帰ってきたのは一目瞭然のはずだから『戻ったの?』なんて訊かないだろうから、そうじゃないんだろう。
「あ、ああ」
多分、肯定しておいて間違いなさそうな状況に思えた。
「遅いわよ。もう旅立って半日よ!」
夢の方が先に進んでる。時間の流れが異なってるってことなのか。
「こっちは九十分くらいしか経ってないぞ。なにかあったのか? どういうことなんだ?」
「あなたが急に応答しなくなって、勝手にセリフをしゃべりはじめたの。それで、二人で旅立ったのよ。会話が成り立たない相手と、夢の中とはいえ、旅をするなんて苦痛よ、苦痛」
かなり怒ってるようだ。
なるほど、オレが起きてる間はこの時代の勇者様だか陛下様だかがかわりに話を進めてくれるわけだ。
半日もの間、話しかけても返事もせずに勝手なセリフをしゃべりつづけるNPCとふたりっきりで旅をするというのは、想像できないくらい苦痛だったろうな。
「すまない」
とりあえず謝っておこう。
どうやら謝ったのは正解だったらしく、ユメは怒りを爆発させるかわりに興奮ぎみの笑顔で新しい話題に話を移した。
「ねぇ! 新事実よ! この夢の中で、あなたとわたし、どういう関係だと思う?」
関係って。
昨日までの夢に繰り返し出てきた場面で、黒髪の彼女は、四人の美女といちゃいちゃしてるとこにやってきても、嫉妬してるふうじゃなかったし。呆れてるって感じで。普通の恋人では、それはありえないんじゃないかな。恋人っていうのがどんなのだかよく知らないが、たぶん。
ビジネスライクな関係かな。ユメの夢では秘書だったんだし。
「ボスと秘書?」
「それはわたしの夢でしょ。ここではね、なんと兄妹よ、兄妹」
オレがはずしたのを喜んでいるのか、妙に楽しそうに答えを明かす。
「おまえがいもうと?」
「そうよ」
彼女はにっこり笑い、笑って言ったことに自分でおどろいたように急にムッとした顔を作って、
「だからって、わたし、あなたのこと『おにいさま』なんて呼んだり思ったりしないし、あくまでこの夢の中では、ってことなんですからね!」
と、つづけた。今度は何を怒ってるんだ?
「ああ、オレも妹なんて、どういうもんだかわからないしな。おまえは兄弟がいるのか?」
「一人っ子よ。それより、あなたの調べごとはどうなったの? ここはどこ? あなた、日本から行けそう?」
自分から話をそっちに振っておいて『それより』ってなんだよ。という言葉は飲み込んでおいたほうがいいな、怒ってる相手には。
「多分、カラクムル遺跡だ。メキシコ。サマータイムの時差で、ちょうどあのときが零時だし。で、オヤジのおかげでなんとかオレも行けそうだ。今、旅行会社」
この手際のよさは(まあ、タカシのおかげなんだが)誇ってもいいだろう。だが、ほめてくれるようなユメじゃない。
「旅行会社で寝てるの?」
そこにつっこむのかよ。寝ないと夢で会えないじゃないか。望んであんなとこで寝たわけじゃないし。でも、どうして寝たかを説明するとなると風見先輩の話をしなきゃならない。
「ああ。そうそう、財団が生中継で声明発表、みたいなのやってたぜ」
話をそらしてしまった。わざわざ風見先輩のことを話すことはあるまい、と思った。なぜかな?
「ふーん」
ユメは興味なさそうに目をそらしてオレの背中におでこを押し付けてきた。いっしょに胸も押し付けられる。ソフトテニスボールみたいなぷにょぷにょしたふくらみがふたつ、ビキニみたいな衣装の薄っぺらい布切れ一枚越しで、オレの素っ裸の背中に押し付けられるっていうのは、あんまり落ち着いていられる状況じゃないな。サイズはテニスボールじゃなくてハンドボールがふたつ、ってくらいだし。
「わたしもかならずいっしょに行くから」
急にシリアスな口調でユメが言った。
「え?」
意外な言葉だったので、思わず訊き返していた。
「メキシコでしょ? 空港で会いましょう。どこへつくの?」
今度はテンション高めの、これまでのユメだ。それにしてもコロコロ変わるなあ。
さっきの旅行会社で見た空き席を思い出す。ビザの問題がなければ、一番早いのは明日の出発だった。この夢から覚めたら、それに乗るように手続きができるはずだ。
「ヒューストンに明日の午後二時前について、カンクンへの便が四時前に出てカンクンに五時ごろつくっていう乗り換えだった」
と、思う。記憶どおりならな。
「わかった。ヒューストンで、明日の午後二時ね」
ジャングルの中を、馬だかなんだかわからない生き物にタンデムで跨ってする会話じゃないな。時代も場所もふさわしくない内容だ。まあ、夢の中だからなんでもありか。
これで、この夢が本当に夢で、ユメなんか実在しなくて、勇者様も無関係だったら、オレはただのバカだな。もっともらしい夢を見て、それを信じて学校をフケてメキシコまで行こうとしているんだから。その場合でも、オヤジはへんな夢を見る男の話ってことで独占取材で勘弁してくれるかな。
「それにしても、誰か説明してくれないかなあ。今、わたしたち、どこへ向かっていて、具体的に何しようとしてるのか。普通、こういうのって、ベラベラしゃべる説明役、みたいなのが出てこない? 道化みたいなのとか、しゃべるほかに特に能がない妖精だとか」
ユメにとっては、かなり精神的に苦痛な旅だったらしい。オレまでNPC状態だったっていうんだからな。確かに、誰かに詳しく説明してもらいたい状況ではあるな。
「何か居るんなら、とっくに出てきてるだろう。出てこないってことは、つまり、何もいないんだろ」
背中のユメからは返事が無い。
しかし不機嫌なオーラが漂ってくる。
しかたないな。ここは形式だけでもつきあってやるか。
「お~い。誰か居ないか~? 居たら今すぐ出てきて説明しろ~」
オレも、そしておそらくユメも期待していなかったのだろうが、オレのこのセリフに対して反応があった。
オレの背中に押し付けられたユメの胸の谷間あたりから、なにかがボワン! と飛び出してきて、オレの目の前あたりの空中ではじけて、ピンクの煙があがった。
ハンドボール大の頭の二頭身で丸顔な緑色の――竜、としか言いようがないようなものが小さな羽根をパタパタしながら浮かんでこっちを見ていた。
「参上いたしました、陛下。ポポロムめでございます」
しゃべりやがった、こいつ。
「あんたねぇ! いまごろのこのこ出てきて、どういうつもりよ! そもそもあんたみたいなのは、呼ばれもしないのに最初(ハナ)っからついてきて、訊かれようが訊かれまいがべらべらどうでもいいことをしゃべり続けるものなんじゃなくて?!」
おどろいて言葉が出ないオレのかわりに、オレの右肩の下あたりから身を乗り出したユメが毒づく。
「さあ。そういうモノかどうかは存じませぬが、わたくしめが自重しておりましたのは、陛下のおおせに従いましたまででございまして。陛下から再び呼ばれるまで出てくるな、とのおおせをいただいていた次第でございます、はい」
その二頭身の竜は、ユメの剣幕にはまったくひるまない。早口でまくしたてるように答え、最後にゆっくり「はい」と付け足して、さも、自分はゆっくりとわかりやすくしゃべっているかのような態度を取った。
小さな羽根をパタパタと羽ばたき続けて、ふわふわと浮かびながら、こっちの進行速度にあわせて後退している。器用なやつだ。
「控えてた、って、あんた今どこから出てきたのよ」
「それはもう、妹姫様の胸の留め具に輝いております竜の涙からに決まっております」
つまり、ユメの胸をしめつけてる極小ビキニのフロントホック的位置に留め具があって、その装飾についてるビー球大の宝石から出てきたらしい。
夢だからなんでもアリか? これって六千年前の話だと思ってたんだが、現実じゃないのかな、やっぱり。こういう生き物って、いないだろ、普通。
「で? おまえ、自分がナニだって主張するつもりなんだ?」
いや、存在を面と向かって否定するつもりはないんだが、なんか攻撃的な口調になってしまった。
「それはもう、陛下のペットのドラゴンでございますです」
それでもこいつはひるまない。軽く受け流して当然のように答える。
「ちょっとまってよ。あんた、なんで会話が成り立ってんの? この夢の中のキャラなら会話は成り立たないはずだわ」
ユメの言うとおりだ。オレが起きている間も、夢の中のオレはNPCだったっていうんだから。
「それは、わたくしめも夢を見ているからでございます。陛下の時代ですやすやと眠っておりまして」
あ、そうか。寝てるならいいのか。夢がつながっているってわけだな、オレとユメみたいに。
いや、待て! よくないぞ!
「ドラゴンが!? 寝てるっていうのか?」
ありえないだろ!
「はぁい。ドラゴンと申しますものは、眠るのが仕事のようなものでございまして、四六時中眠っているものでございますから」
あ、いや。そういう意味の質問ではなかったんだが。
現実世界の現代のどこかで、ドラゴンが実在してて寝てるのか? っていう・・・・・・ま、いいのか? いても。寝てるんなら、害も無いわけだし。
とりあえず、こいつの存在は肯定しておこう。たしか、疑問に答えてくれる、ってことで出てきたんだよな。じゃあ、さっそく訊いてみようじゃないか。
「これは夢なのか? それともタイムスリップか何かなのか?」
夢にしては、ウマもどきに乗ってる感覚もあるし、ジャングルの暑さも感じてる。ユメの胸の触感もまるで本物みたいな感触だ。だが、現実っぽくないっていうのも確かだ。
「あなたがたにとっては夢、そして過去でございます」
質問に答えてくれるらしい。夢で、過去か。
「なんで過去で勝手に動けてるんだよ。歴史が変わっちまうじゃないか」
「未来の夢とこの出来事はつながっているのでございます。あなたがたが成すことが、そのまま過去の事実に影響を与えるものなのでございます」
ポポロムと名乗った竜は、自慢げに目を細めた。別にこいつが威張る場面ではないと思うんだが。
「で? オレたちはどこへ向かってて、何をするんだ?」
これが本題だ。ユメもさっき知りたがってたのはこれだしな。
「地底都市の神殿にある、悪意の『栓』の間へ向かっておいでです。この世に溜まった悪意を魔界へ『抜く』ために」
「『栓』? 剣じゃないのか?」
微妙に話が違ってるな。
しかしポポロムはこの時代に生きていて、現代で寝てるっていうんだから、この時代の生き証人なわけだ。言ってることに間違いはないだろう。
財団が間違っているんだ。
「あなたって、この旅を経験済みなのよね? 夢見てる現代のポポロムさん?」
ユメが、いやに丁寧な言葉でポポロムに話しかけた。オレの肩の横から顔をのぞかせてポポロムを見るために、かなり背中に身体を押し付けてくるので、ユメの胸のふたつのでかいハンドボール大ソフトテニスボールはオレの脇のあたりまではみ出して素肌同士が当たっている。
顔が熱くなるじゃないか。ええと、ユメの質問の内容は・・・・・・そうか、つまりポポロムはこの時代にこの旅に同行したわけで、その記憶を持ったまんまオレたちの時代にも生きていて夢を見て、ここでオレたちと話している。だから、旅がどうなるかすでに知っているってことか。
「さようでございますね、妹姫様。しかし、さきほど申しましたとおり、夢が過去に影響を与えますので、わたしの知っているとおりに事が運びますかどうか。そもそもわたくし、最後まで旅を見届けておりませんので」
どこかで別れたかはぐれたかってことかな。
「役に立たないわねぇ!」
さっきの丁寧言葉は、役に立ちそうだと思ったかららしいな。役に立たないと判断したら、高飛車な言い様に戻っている。
「せめて、このあと知ってるとこまで教えなさいよ。この乗り物に乗ってどこまで行くのよ。歩いたほうがマシなんじゃないの?」
「それはご心配には及びません」
ポポロムは妙に自信たっぷりに言った。
「どうしてよ?」
「そのウマは間もなくつぶれて動けなくなります」
「え?」
ユメが訊き返す。
「うわぁぁぁ!」
ポポロムの言葉が終わるやいなや、乗っていた動物がひざを折って前かがみになった。首をしならせるように大きく振って右側に倒れて、オレたちは草地に投げ出された。
「いててててて」
「んもう! こういうことを前もって教えてほしくてたずねてるのに! 役に立たない竜ねぇ!」
その馬っぽい動物(ポポロムはウマと呼んだな)は泡を吹いて白目を剥いていた。腰の水筒の水を口に注いでやり、様子を見ていると、すこし息が整ってきたようだ。
「二人乗り用じゃなかったみたいだな」
「・・・・・・ごめんなさい」
へたりこんでいるユメが半泣きでウマを見ていた。
「わたしが無理に乗せてもらったの・・・・・・あなたがひとりで出発しようとしたからよ! それに、その後のあなたのセリフからすると、過去の妹姫も、無理に同行して乗せてもらったらしいのよ!」
後半は自己弁護の言葉に聞こえなくもないが、ユメはしきりに反省している様子で、単にオレが知らない情報を付け加えただけのようだ。
「ええ。そのとおりでございます。そうして二人乗りなさって、このあたりでウマがつぶれてしまいました。で、陛下は『しょうがないからこいつはここに残していこう。ここからは歩きだ』とおっしゃって」
と、ポポロムが続けた。
「歩くの~!?」
ユメはパタパタ浮かんでいるポポロムに非難の目を向けたが、へばっているウマの様子を見て、仕方なさそうに了解のため息をついた。
過去の流れがそういうことなら、歩いていくか。夢で歩いて疲れるものなのかどうかは知らないが。
先に立ち上がって歩き出そうとするオレに座り込んだままのユメが手を差し出した。引っ張り起こしてほしいらしい。手を握って起こそうとすると、頭の上あたりでパタパタしていたポポロムが声を上げる。
「おお! それそれ! このときでございます!」
またなにか起こるのか? とポポロムの方を振り返ろうとしたとき、ユメが自分でも立ち上がろうとしたのか、急に手が軽くなって、力いっぱい引き起こそうとしたオレはユメの手を過剰に引っ張ってしまった。
あわててユメの方を向き返ると、ユメは勢い余ってオレにぶつかってきた。顔が接近する。引っ張った勢いでオレの重心も反対側に移っていたので、彼女の勢いを受け止めきれず、しかも履き慣れないサンダルがすべって・・・・・・ユメを上にふたりで重なって倒れてしまった。
倒れるときにユメはオレにしがみつこうとして、オレはユメを庇おうとしたので、まるで抱き合うようなポーズになってしまった。例によって、特大ハンドボール大ソフトテニスボールは、二人に挟まれてオレの胸の上いっぱいにつぶれて拡がっている。
「そう! そこで陛下のプロポーズ!」
え? ポポロムは何を言ってるんだ? この時代のユメとは兄妹だろ?
ユメと目が合って、ユメが真っ赤になるのと同時にオレの顔も真っ赤になっているんだろうな、という自覚があった。
「なななななな! 何言ってるのよポポロム! ばっかじゃないの、あんた!」
ユメが素早く立ち上がって、ポポロムに怒鳴った。
「兄妹で、なんでプププ、プロポーズなのよ!」
怒りのあまりなのか、呂律がまわっていない。
「そうは申しましても、実際、陛下はここでころんだときにプロポーズなさったのでございますよ。そもそも兄妹だとどうしておかしいのでございますか?」
どうやら現代日本とは恋愛の習慣が違うらしい。ポポロムへの抗議はユメにまかせて、オレはゆっくり起き上がって草や土を払い落とした。
「この時代じゃ、そういうのもアリかもしれないでしょうけどねぇ、わたしたちの時代ではナシなの! っていうか、一部の人たちにはアリなのかもしれないけど、邪道扱いなのよ!」
ユメが言う一部の人っていうのは、シスコンやブラコンのことだろうか。でも、プロポーズっていうのはないだろう。
「よくわからない時代でございますねぇ。でも、妹姫様? もともと、あなた様が陛下に言い寄っておられて、このときにやっと陛下がお応えになってくださったのですよ。妹姫様は、それはもうお喜びになられて、陛下に抱きついて接吻をくりかえし――」
ポポロムは落ち着いた口調で、ユメの興奮の火に油を注ぎ続けている。空気読めないにもほどがあるなあ。
「ばばば、ばっかじゃないの!」
「で、そのとき、敵に囲まれてしまったのでございます」
ちょっとまて!
それは先に言え!
周囲のジャングルを見回すと、たしかに怪しげな葉の動きがある!
何者かに囲まれたようだ。
見えない敵に向かって、とりあえず構えを取った。どう戦えばいいかわからないので、身についている柔道の構えだ。
ユメも身構えた。ま、彼女のは戦うポーズじゃなくて、逃げ腰でオレの後ろに隠れようというポーズだ。
まてよ。
「おい、ポポロム。この時代の陛下さんは、ここで敵にやられちゃったわけじゃないんだよな? ってことはオレが目覚めちゃって、陛下にここを任せれば大丈夫ってことか?」
他力本願はよくないかもしれないが、ユメの身に危険が及んだらたいへんだから、最善の策を講じるべきだろう。
「この夢は過去の再現ではございません。歴史のやり直しみたいなものでございまして、あなた様のなされることが、過去の事実に影響を及ぼすのでございます。もっと、時間というものを柔軟に捉えていただきませんと・・・・・・」
ポポロムの言ってることはよくわからないな。やり直しって、過去の結果が変わったら、現代はいったいどうなってしまうんだ?
「ちょっと待ってよ、ここでひとりだけ起きないでよ。この場を切り抜けたら陛下とラブシーンが待ってるんじゃないの? わたしそんなの御免よ!」
ユメの抗議はもっともだが、いまはそんなことより、この危機を乗り越えることだろうよ。
ごちゃごちゃやってるうちに、敵が姿を現した。オレと似たような格好の男が八人だ。
手に持って構えてるのは、ありゃあ、剣って言わないのか? オヤジのやつオレにガセつかませたのかよ。マヤに剣はないんじゃなかったのか? あ、いや。オヤジが無いと言ったのは鉄器だっけ。
まてよ、剣にしちゃ色や形がヘンだな。よく見ると先は石らしい。両手で剣のように構えちゃいるが、石製槍の一種らしい。刺されたら、かなり痛そうだな。
柔道でなんとかなりそうな相手じゃないぞ。そもそも柔道で棒を持った相手と戦ったりしたことないし。
「ポポロム! 逃げ道とかないのか?」
なるだけ振り向かないように、まわりの男たちに視線を配りながら、肩の上あたりを飛んでるポポロムに問いかける。ポポロムは緊張感のないしゃべり方で返事をする。
「ええ、陛下はあの折も、こんなとこで戦っている場合じゃないとかおっしゃって。まあ、こんなふうに囲まれて襲われたら、妹姫様が足手まといで、守りきれない状況だっていうことはわたくしめにもひと目でわかりましたが、そういうふうにはっきりとおっしゃらないのが陛下の優しさというものでございまして……」
「ポ・ポ・ロ・ム!!」
殺気を込めて名を呼ぶと、さすがにしゃべりすぎと気がついたらしい。
「あ、失礼いたしました。わたくしめの視線からは、左手の木の向こうに、地底都市への入り口を示す神像が見えましたので、あのときはそう申しましたのでございまして。おお。今もちょうど見えております」
「それを早く・・・・・・!」
前にいたやつの一人が、オレに向かって突進してきた。そいつを避けて、ユメの手を取り、ポポロムが言った方向へ駆け出す。
そっちにも一人男がいる。
ユメの手首を左手でつかんでいたので、右手でなにか武器になるものでも持とうと思ったが、手にはさっきウマに水をやった水筒が握られている。どうせ捨てるならと、男に向かって投げつけたら、これが効果的だった。男の顔あたりに飛んで、男が腕でかばうと、腕に当たった水筒から水が飛び出して男の顔にぶっかかった。
男がひるんだ隙をついて横をすり抜けると、身長の二倍くらいの高さの、三頭身の神像がすぐ前にあった。
「入り口はどこだ!」
ツタに巻かれた石の神像は人が入れる穴らしいものはない。まわりにも建物もなければ地下への入り口らしい穴や扉はない。
「ふつうは鍵となる言葉を唱えて儀式を行わなければ開かないのでございますが、陛下は正当な都市の支配者を兼ねていらしゃいますので・・・・・・」
ポポロムの説明が終わるより早く、像の前の地面に直径1メートルばかりの黒い丸が急に現れ、オレとユメはそこに踏み込んでしまっていた。
「きゃあ!」
「うわっ!」
黒い丸は穴だった。地面にいきなり穴が開いたのだ。まるで、地面が薄っぺらい板かなにかで、そこに穴が開いたように、穴の中は真っ黒で穴の壁の部分がない。そんな穴が地面にあるなんて、ありえないだろう。夢だからなのか?
襲撃者たちを振り切って神像の前に駆け込んだ勢いはとまらず、ふたりで穴に落ちてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます