第8話 修羅場
地底都市だ。
あの、神官たちに追いつかれて『勇者の光波』を使った場所のままだ。
なんで? 前に見た夢から進んでない? 現実じゃ、丸一日以上経ってるのに。
四人の侍女を助け出して、彼女達がオレに駆け寄った場面のつづきらしい。
ユメは?
ユメの方を見ると、彼女は金髪だ。彼女も寝てるんだ。オレと同じで場面が進んでないことを不思議がってるようだ。あたりの様子を見回している。
おや? 四人の侍女たちも、似たようなことしてるぞ。まるで夢から目覚めたばかりのように、周囲の様子をきょろきょろ見回して、今の状況を把握しようとしているような・・・・・・。
彼女たちも寝ちゃったのか? 今度は。
オレが彼女たちを見ていると、目が合ったクラスメイトの須藤エリが口を開いた。
「鵜筒クン・・・・・・鵜筒クンよね? どういうこと? わたし自分の部屋にいたはずなのに、これは夢?」
日本にいるはずの須藤エリは、時差十四時間で多分朝だ。オレが眠ったのに合わせて寝ちゃって、このオレの『本物の夢』をいっしょに見ることになったんだ。
「あ、ああ。これがオレの夢だ」
どう説明したらいいんだろう。彼女の夢がどんなものだか聞いてない。どの程度一致してるのかわからないからなあ。
「ここはどこなの? 地下? 現代じゃないみたいだし。鵜筒くんもいつものレーサースーツじゃないわ」
レーサーなのか、彼女の夢では。脚が長い彼女は、さしずめレースクィーンってとこだろうか。須藤エリは、状況を整理するかのように口に手をあてて首をかしげながら長考に入った。
かわりに呼びかけてきたのは風見先輩だ。
「夢がつながった、つながったのね、あなたとわたしの夢。カリブじゃなかったのね? あなたが海賊じゃなくて勇者様なのが正解なら、本当のこの場所は?」
風見先輩は、つながった夢について、かなり理解しているようだ。そういえばホーリーエンパイア財団のことをよく知っているみたいだったよな、旅行店でも。情報収集して研究してたんだろうか。
「近いんですけど、ここはメキシコのカラクムル遺跡の近くの地底都市なんです」
ここで、島崎レナが風見先輩とオレの間に割り込んでくる。
「地底? あなたには空のほうがお似合いよ! でも、その姿もソソるわね。で? 本当の夢でのわたしの役は何なのかしら?」
なんて説明すればいいんだ? オレといちゃいちゃする役?
さらに羽田ミドリが追い討ちを賭けてくる。
「さっきまで、カラクルムのピラミッドの横で、わたしたち話していたのに・・・・・・彼女が言ったとおり、夢を見るためにわたしを利用したの? 彼女は何者? なぜ彼女と旅をしているの?」
羽田ミドリが言う『彼女』っていうのは、もちろんユメのことだ。彼女だけ連れて、特別扱いだってことなんだから。夢でも現実でもそういうことになっちまってる。オレが答えに困っていると、四人は口々に「なぜ?」「どうして?」の質問の大合唱になった。もう、何にどう答えたらいいかわからないぞ。
そこで横槍が入った。ああ、そうさ。それは助け舟じゃない、横槍だ。
「本物の夢は六千年前のこの地底都市近くの神殿が目的地で、彼は世界を救う英雄で王様。あんたたち四人は侍女。で、わたしは彼の妹で婚約者。わかった?」
四人に向かっててきぱきと説明したユメが、ドヤ顔で腕を組んだ。
大勢のナースを前にした婦長さんが指示を出すような感じだ。
なにを威張ってるんだか、よくわからんが、四人のオレへの攻勢は止まって、彼女の方に視線が集中した。
ユメの場合、腕を組んでるっていっても、自分のでかすぎる胸がじゃまで、しっかり組めているわけじゃない。両手首あたりで腕を交差して、やわらかそうなハンドボールをふたつその上にのっけてるようなポーズなんだが、とにかくこの中で一番背が低いくせに、上から目線だ。
あまりにも当然っぽく威張っているので、四人はあっけにとられてるってとこだろうか。
四人(オレも入れれば五人)の視線を浴びて、自分のドヤ顔に気づいたのか、ユメは『なに見てんのよ』と言いたげな表情とともに、両手を腰に当て直した。
そのポーズも依然として上から目線だぞ、おい。
「とにかく。あんたら、こんなとこに連れて来られてまで、マコトレベルの男を取り合うようなタマじゃないでしょ? しっかり現実見なさいよ! 状況把握、状況把握!」
そりゃあ、オレが彼女たちに吊り合うようなレベルじゃないことは自分が一番わかってるが、本人を前にして堂々と言うか?
なんだか反論したくなったぞ。
オレが何か言うより早く、女性陣の反論が始まった。
「なによ、あなた。彼が自分のものだとでも言いたいの? 自分が先に同行してたから既得権があるって言いたいんだとしたら、残念でした~。わたしは四月からずっと彼のクラスメートよ。夢の前からちゃんとマークしてたんですからね」 最初にユメに食い付いたのは須藤エリだった。マークの話は初耳だ。ほんとか? 彼女がオレに気がある、なんて話は聞いたことがないぞ。
「妹で婚約者って、現代日本じゃありえませんわ。で、あなたはどっちの立場を主張したいのかしら? 妹? 婚約者?」
風見先輩は怒ってるみたいだ。美人が怒ると怖いよな。
「こんなことでもなかったら、彼レベルを取り合うタマじゃないってことでいえば、あなただって十分当てはまるんじゃなくて? 普通にロリ巨乳グラビアアイドルとして業界のトップ争いやってそうじゃないの」
島崎レナの言うことはもっともだ。
認めるよ。ユメは普通にメジャー雑誌のグラビアに出てくる美少女レベルだ。美少女との二人旅が照れくさくて、今まで、その事実に触れないように触れないように避けてきてたわけだが。
ユメほどの美少女が、オレなんかとの旅で、ほかの女の登場にいちいち反応してる、っていうのは未だに信じられない。オレなんか鼻にも掛けない、っていうレベルの女の子だよ、実際。
「あなたも素直に認めたら? この、心の奥底の、前世から沸きあがってくるどうしようもない彼への思いを、あなたも感じているんでしょう?」
おいおい、そうなのか? 羽田ミドリはこの前の悲恋ものドラマのヒロインのときより感情篭ったセリフを言ってるようだった。これは芝居か? それともマジなのか?
美女四人のバトルロイヤルだった争いは、ユメの乱入で四対一のにらみ合いに移行していた。
これって、オレが何か言って場を治める場面か? 何を言っても、焼け石に水どころか、火に油だろうなあ。
お~い、ポポロムはどうした。
こういう時こそ、場の雰囲気を無視したことをベラベラしゃべって、怒鳴られ役を買ってくれるようなキャラじゃないのか?
お、オレの後頭部の上あたりでパタパタと羽音がする。ポポロムだ。ちょっと位置取りは悪いな。そこで何か言って顰蹙を買うと、オレの方に向かって視線が集中するんじゃないかな。
そういう事態になる前に、場所を変えようと思った矢先、ポポロムがしゃべりだしてしまった。
「あの~、お聞きしておりましたが、妹姫様。『侍女』というのはどなたを指しておいでですか?」
ポポロムは、心底不思議そうにユメに尋ねた。
「誰って、この四人よ。わたし、マコトと繋がった夢の中で妹姫としてのセリフで『いつまで侍女をはべらせてんの!』って彼女たちのことを呼んだわ!」
ユメは記憶力がいい。たしかそうだったんだな。
「妹姫様がそのようにおっしゃるわけはございません」
ポポロムはきっぱり否定した。四人の女性の視線がポポロムに集中している。自然と、オレの方を向いてるわけで、やはりこの位置取りは居心地悪い。四人はポポロムを始めて見るはずなんだが、その存在やしゃべるっていうことにかんして、驚いたりする様子がない。ポポロムの存在を肯定した上で、ポポロムが話す内容のほうに興味があるようだ。
ユメはというと、脇を向いてなにやらブツブツつぶやきながら必死に何か考えているようだ。
「・・・・・・そうよ、あのときはまだ、わたし英語を使ってたわ。マンハッタンのビルでの会話のつもりだったもの。実業家の彼に向かって言うにしては似つかわしくないセリフだったのは、本当の夢じゃないわたしの夢は、この本物の夢とはズレがあったからよね。わたしが彼女達のことを呼んだ言葉は英語では・・・・・・『コンパニオン』だわ」
完璧っぽい発音とイントネーションを交えてユメが回想した。
「さようでございますですね。その呼び方でしたら近うございます」
ポポロムがユメのつぶやきにコメントした。
「日本語化した外来語の『コンパニオン』と英語の『コンパニオン』はニュアンスが違ったから日本語としては『侍女』って思ってた。日本語では『侍女』としか表現できなかったから。でも、それって適切な訳じゃないってことなのね?! それはつまり彼女達が使用人や召使いじゃなくて高貴な身分だってことでしょ? そこが違うってこと? そんなの、今はあんまり重要なことじゃないわよ。マコトとの関係が問題なのよ!」
ユメは真顔でポポロムを見上げてた。
ポポロムのやつ、珍しく間をおいて答えやがった。
「はい、貴族階級の出であることはおっしゃるとおりでございますが、問題の部分についても差があるようでございまして」
ポポロムは一呼吸した。
おいおい、そういうキャラじゃないだろう。もったいぶるなよ。場を読んだりしてこなかったじゃないか、今までは。
「つまり、ここにおいでのみなさまは、陛下のお側にいてお相手やお世話をする役をなさいますのと同時に、陛下と婚姻関係をお持ちでいらっしゃいます」
場が凍りついた。
最初に動いたのは、激高したユメだった。
「つ、つ、つ、つまりわたしは五人目の妻になる婚約者だってこと?! いくら本妻でも、お妾さんがすでに四人いるなんてバカにしないでよ!」
それに対しポポロムは平然とした口調のまま答える。やはり空気を読まないやつだな。
「陛下はまだお后をお持ちではありません。妹姫様が望んでおいででしたのは、たしかにお后になられることでございましたが、さきほど陛下がなさったプロポーズはほかの方々と同じ立場のものでございまして。でも、妹姫様はたいそうお喜びでございましたよ?」
ユメは絶句してしまった。
一方、ほかの四人は呪縛から解かれたようにそれぞれ動き出した。
彼女達には暗黙のうちの順番があるのか、須藤エリが最初だ。
「な~んだ、特別なのは『妹』ってことだけなんじゃない。それどころか、一歩出遅れてるわけだし~」
ちらりとユメを見ながらだったが、ユメの耳には入っていないようで、ユメはまだ言葉を失ったままだ。
ユメのその様子を見定めてから、風見先輩がオレの頭上のポポロムを真正面に見据えて確認する。
「つまり、わたしたち『五人』は正室不在状態の彼の側室ってことですのね? かわいいドラゴンさん?」
「おお! そのご説明は非常に的確なものでございます!」
さらに追い討ちをかけるのが島崎レナ。
「そんな一夫多妻なんだったら、彼の姉妹もたくさんいるんじゃないの?」
「はい! 陛下には姉君が三人と妹君が十八人いらっしゃいます」
そうして、とどめの役が羽田ミドリということか。
「わたしを――わたしたちを、と言ったほうがいいかしら――選んだのは陛下ご自身なんでしょう? 政略や押し付けではなく、愛情があって、妻にめとられたのですよね?」
そこを突くのか。陛下はプレーボーイ確定だもんな。
「ええ! それはもう、みなさん、熱烈な求愛を受けてのご成婚でございましたとも!」
ユメの肩がピクリと動いたように見えた。
四人の女性の視線が、ふたたびユメの方に戻る。彼女がどうするのか待っているようだ。
ただひとりの婚約者かと思えば、あとの四人は先に妻になっていた。妹という立場も十八人のうちの一人。さっきのユメの大見得は全部裏目ってことになってしまったわけだ。
ユメはうつむいていて表情が見えない。
ユメの肩が震えてる。
そのまま、カツカツと足音を立ててオレのすぐ前まで歩み寄ってきて、きっ! とオレを見上げて睨んだ。
「あなたって、あなたって! あなたって!! 最っ低!!!」
ユメはオレの胸を両手で叩きながら怒鳴った。
「そ、そんなこと言われても、オレじゃないってば!」
責任は『陛下』にあるんであって、オレじゃないんだから。
ユメも怒りながらもそれを思い出してか、叩くのをやめた。
ユメの眼に、涙?
彼女の頬をひとすじ涙がこぼれたとき、それに気付いて『はっ』とした彼女は、オレから離れ、ぷいっ、とそっぽを向いた。
何か言わなくちゃ。オレが何か言わなくちゃ。
「オレには! ・・・・・・現代のオレにとってはユメだけだよ」
何を言い出すんだ? オレは。
「オレにとっては、ほかの四人は、ほとんど話したことないクラスメイトや、遠くから見たことがあるだけの先輩や、雑誌やテレビでしか見たこと無いアイドルや女優さんだ。・・・・・・夢で会ってからまだ三日目だけど、ここまで苦労していっしょにたどりついたパートナーはユメだけなんだってば」
・・・・・・言っちまった。もう、引っ込まないぞ、このセリフ。いいのか、オレ。
「なんか」
「くやしいっていうより」
「シラけちゃったわね」
「ほんと」
四人の美女は、例の順番でそう言うと、それぞれよそを向いてしまった。
引いちゃったようだな。我ながらクサいセリフが言えたもんだと思うよ。
ユメはくしゃくしゃに泣きながら・・・・・・オレの左肘にすがりついていた。
顔を上げたユメは、恨みがましいような怒ってるような喜んでるような、複雑な表情だ。ちょっとほかの四人を気にするように視線が踊って、またオレを見たときには、キッと睨んでいた。
バシン!
ユメのビンタがオレの左頬にヒットした。
「なんで殴るんだよ!」
いきなり、まさかの行動だったので、避けるヒマがなかった。
「うるさい! これでいいの!」
ユメは、つまり、ほかの四人のためにオレ――というか陛下か? ――を叱ったってことらしい。
「さて、ゴタゴタも片付いたようですし、そろそろ参りませんと」
空気を読んでいたつもりになっていたかのように、ポポロムが言った。
いいタイミングだよ、おまえはな。
待てよ、このパターンは・・・・・・。
「ポポロム、先に言っておくことがないのか?」
そうだ。ポポロムの場合『そろそろ参りませんと』どうなるのかって話の方が重要だ。
「間もなく神官が新手を連れて、またやってまいります」
やはりな!
ユメの手首をつかんで『感謝の壁』へ向かおうとして、あとの四人はどうしたらいいか、ってことが残ってるのに気付いた。
ここで言うべきセリフは、おそらく『きみたちは、どこかに隠れてやりすごして! さあ! いくぞユメ』なんだろうな。
が、四人の美女の目が『それを言っちゃうつもり?』というプレッシャーのようなメッセージを発信している。
「と、とにかく『感謝の壁』へ走れ!」
あ~、ダメダメだ。今度はユメの反応が恐い。
「・・・・・・意気地なし!」
走り出しながら、オレにだけ聞えるような声でそう言ったユメの顔は、意外にも満足げな笑顔だった。
つくづく、ユメってわからん。
あ、いや、ほかの女の子のことがわかるってわけでもないけどな。
ほかの四人も同じ方向に走ってくる。
「鵜筒クン、誰から逃げてるの?!」
須藤エリが走りながら訊いてくる。そうか、彼女たちはこの夢ははじめてだから事情がわかってないんだ。
「追ってくるのはホーリーエンパイア財団のやつらさ。オレの使命を妨害しようとしている。オレはこの先の神殿で、世界に充満した『悪意』を魔界に吐き出すために栓を抜かなきゃいけないんだ」
この説明で、なんとか伝わらないかな。
「財団って妨害する側だったの? 相談しなくてよかったわ。夢のこと話しに行こうか迷ってたの」
やっぱり風見先輩は財団のことをいろいろ調べていたんだな。ヘタをすると敵に回ってたかもしれないじゃないか。
「風見先輩、それ、しなくて正解です」
まったく、危ない話だ。
「この先はどうなってるわけ?」
島崎レナの質問に答えられる知識はオレにはない。ポポロムを見上げると、さきにポポロムが答えはじめた。
「この先の『感謝の壁』には神殿へ通じる洞窟がございまして、その途中に『試練の谷』がございます。そこを越えられるのは陛下と陛下のお連れの方のみでございまして、その先が神殿でございます」
「神官もそこへはひとりで行けないのですね」
羽田ミドリの心配はもっともだ。神官っていうからには神殿へ入れそうだもんな。
「彼は地上で崇拝されている神に仕える神官でございまして、古の地底都市においては何の権限もございません」
両側の町並みが途切れ、正面に地底都市の果ての岸壁が迫った。岸壁に神殿の玄関のような入り口がある。扉はない。幅も高さも五メートルほどの洞穴の入り口らしい。
「ねぇ、ポポロム。『試練の谷』って、なにか試練があるわけ?」
ユメの問いに、洞窟への玄関口をくぐる前に足が止まってしまった。たしかにヤバそうなネーミングだな。
「陛下。どのみち進むしか道はありませんのでは?」
ああ、ポポロムの言うとおりだ。だが、そんなわけのわからないところへ、みんな連れて行っていいものだろうか?
オレの迷いを見透かしてか、その場を仕切ったのは羽田ミドリだった。
「マコトさん、行ってください。わたしたち四人はここで時間をかせぐわ」
「ちょ、ちょっと! 勝手に仕切っちゃうわけ?!」
須藤エリが突っかかる。
「あなただって・・・・・・この場所に来て、なにか思い出したでしょう?」
「え?」
須藤エリは羽田ミドリに言われて、その玄関を不安そうに見回した。
そして、なにかを思い出したようだった。
「・・・・・・ええ、そうね。この場所は見覚えがあるわ。わたしたち四人にとって大事な場所」
大事な場所? ほかのふたりも、同じように何か思い出したようで、顔を見合わせては頷きあっていた。
「そうよ。さっきユメさんが言ってたとおり、この夢が六千年前の話なんだったら。わたしたちには魂の記憶があるんだわ」
羽田ミドリはオレの方へ歩み寄ってきた。
「さあ。ふたりで行って。そしてあなたの使命を果たしてください」
彼女は、すっと顔を寄せて、オレの頬にキスをした。幸運を祈る別れのキスか? 速攻だったのでそのまま受けちゃったが・・・・・・やばい。
あの香りだ。
こんな場面で起きちゃっていいのか? 『試練の谷』の渡り方はどうなる?
カラクムル遺跡のピラミッドの横だった。
起きちまった。
もう、四人の侍女とのいちゃいちゃは済ませてしまった。彼女たちの香りがないと夢に入れないなら、そして、ひとりの侍女につき一回の夢なら、夢はあそこで終わりってことなんだろうか。神殿に入って栓を抜く場面は、夢では体験しないのかな? だとしたら、六千年前のことは、陛下と妹姫にまかせるしかないか。
ま、そのほうが成功率高そうだけどな。
オレと同じく一瞬の眠りから覚めたユメと羽田ミドリがそこに居た。羽田ミドリは、オレのシャツの肘から手を放して、二歩ほど下がって距離を取った。
「あの場所はね、あの時代のわたしたち四人の・・・・・・死に場所だったの」
「えっ?」
彼女の言葉に、オレとユメは思わず声を上げた。四人が思い出した記憶っていうのは・・・・・・そういうことだったのか。
「後から追ってきた神官は五十人くらいの男達を連れていたわ。問答をしたりして、四人で時間を稼いでいたんだけど、神官が命じて、わたしたちはあっさり殴り殺されちゃったの」
ちゃったの、って、軽めに言われても困る。
「幸い、追体験は免れたようね。あの時代のわたしたちが稼いだ時間が有効に使われたならうれしいわ」
彼女はユメのほうへ歩み寄った。
「あなたたちはまた、あそこへ行くのね。現実の世界でも、あとはあなたにまかせるわ。マコトさんと・・・・・・がんばってね」
そう言い残すと、羽田ミドリは撮影スタッフたちがいる方へ歩き出し、女優としての仕事に戻って行った。
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