7話

大樹たちがミルドに来てから一ヵ月が過ぎた。

ひと月の間、クラスメイトたちはこの世界について学び鍛錬をして生活をしていたが、今日、ついに家が完成したということで大樹たちはひと月ではあるが慣れ親しんだ王城を後にすることになる。


「勇者様方々、誠に申し訳ありません・・・」


国王自らが謝辞を述べる。だが、クラスメイトたちはこの一ヵ月尽くしてくれた王たちを不満に思う者は一人もいなかった。それどころか率先して王たちの負担を減らしこの国を援助するためにはどうしたらいいのかと夜に話し合っている姿を見かけていたのは記憶に新しい。

そんな国王に委員長である佐山が声を掛ける。


「国王様、確かに初めは思うことも多かったです。ですが、王様や皆さんからの誠意はしかと頂戴しました。だから、ありがとうございます。俺たちもできる限りこの国に尽くしていきたいと思います!」


「ありがとうございます勇者殿」


佐山の顔はこれからの生活に対して目の前の男を恨むと言ったような感情ではなく本当に感謝をしこの国に対して恩返しがしたいといった顔だった。

それは佐山だけではなくクラスメイトの大半が同じような顔つきをしていた。残りのクラスメイトも思うところはあるが、それでもお世話をしてくれていた人たちへの感謝の念は持っているようであった。


「勇者様たちがお住まいになられます居住エリアまで騎士団が護衛兼案内をします。すでに家にはラグリード卿からご提供されました家具や武器、寝具に調理器具等の必要であろうモノが設置されているとのことです。あと、こちらを」


王が佐山の手に小切手を渡してくる。そこには当面の資金であろう金額が書かれている。


「王様!?こ、こんなに!?」


「これはラグリード卿私財と私たちの私財を合わせた資金です。ほとんどがラグリード卿がお出ししてくれてはいるのですが・・・」


そう言って王は面目なさそうに伝える。


「滅相もありません!王様たちには本当に良くしてもらっていました。それだけでも十分でしたのに!」


「いえいえ。私たちが身勝手にアナタ方を召喚してしまったのがそもそもの原因です。それに、最初に口約を交わしました条件でもありますから。」


王からの言葉に佐山は最初に言ったことを思い出す。確かに、あの時に生活費を頂戴するということを言ったのだ。それを今更ながらに思い出す。

あの時はその場の雰囲気と召喚直後というのもあって冷静に少し欠けてついつい色々と王に言ってしまったのだった。

だが、それでも王は例えあの場でのことだったとしても覚えていて、こうして自分たちに生活費として大金を包んでくれたのだ。

王の気遣いに佐山の瞳が少し濡れる。そして心の奥で佐山はこの世界で一番最初にあった人物がこの王で良かったと、そして自分はもし、元の世界に帰れるとしても帰らずにこの王に忠誠を尽くそうと密かにされど力強く誓うのであった。


「・・・ありがとうございます!では、これで本当に今までありがとうございました」


最後の言葉を告げ佐山は頭を下げる。そして残りのクラスメイトたちも頭を下げ騎士団と共に城を後にするのだった。


「お父様、良い方々でしたね」


「そう、だな。本当に我々は良い方たちに巡り会えた。だが、それだけに申し訳なくも思うのだ」


「そうですね・・・ですが、大丈夫です。なんといってもあの勇者様が居ますから。それに、あの方がこの戦争を止めてくれると豪語したのですから」


王は勇者の一団を見送り、やがて見えなくなってから娘であるクラリスと惜しみながらいた。そしてチラリとクラリスを見ると恋する少女のような瞳で語る娘がそこにはいた。


「あの方が、あぁ言ってくれたのだ。信じよう。それに、クラリスも惚れてるようだしな。さすがは伝説に名高い勇者殿であろう」


王の爆弾発言にクラリスは耳まで紅葉させる。自覚があるだけに肉親にもバレていることが恥ずかしくてたまらないと言った感じである。


「も、もう!お父様ったら意地悪ですわ!」


ぷいっと効果音が付きそうな感じに顔をクラリスは背ける。そんなことだからバレバレなのだと王は思うが決して口にはしない。言ってしまうと今度は1か月ほど口を聞いてくれなくなりそうだったからだ。

王も人の親である。娘には甘いのだった。


「・・・勇者様は、一国に縛られてほしくはありませんから。告白をしてしまったら私に興味がなくとも少なくとも引け目は感じてしまう方です。

それほどまでに、あの方は優しくて強くて・・・」


「・・・・そうか」


クラリスの最後の方の言葉は風にさらわれそうなほどか弱く細く振り絞るような声だった。それだけに王はクラリスのために出来ることはないかと思案する。


「あー・・・決意をしてもらっている所悪いんだけど、クラリス様が良いなら俺は別に一緒に旅してもいいけど?」


その声に二人は驚愕しながら振り返る。と、そこには先ほど分かれたはずの大樹の姿がそこにありなんともバツが悪そうに後頭部を掻いているではないか。


「ゆ、勇者様!いつからそこに!?」


「えーっと、割と最初の方から」


それを聞いてクラリスは赤面する。耳までが赤くなっておりそこに水でも垂らせば一瞬で蒸発するのではという比喩が似合うぐらいと言えば想像がつくだろうか

人に話せぬ黒歴史の1ページを書き綴るかの如しの様な王とクラリスだったが直に収まり思考を回転させる。


「おほん!と、とりあえず勇者様。先ほどのお話は本当ですか!?」


「あぁ。本当ですよクラリス様。ただ、それには王のお許しを頂戴しなくてはならないことだけど」


今にも鼻息を荒くして押し倒してきそうなクラリスを大樹は笑顔でまるで愛でるかの如く慈愛の目で見ながら答える


「それなら話は別です!お父様!私、勇者様と旅をしとうございます!お許しを頂けませんか?」


娘からの懇願に王は頭を悩ませる。一人の娘として親としては恋路を邪魔立てするのは本意ではないが、娘を危険な場所へも行かせたくはないとも思う。そして、王族としての立ち観点からは王族がおいそれと自らの身を晒してここに王族がございと喧伝するのはいかんともしがたいとも考える。

煮え切らない王にクラリスはもやもやするがこればかりは親の許しをもらうしかなくじっと耐え忍んで返事を待つ。そんな二人を大樹は眺めていたが少しばかり後押しをしようと考え自分の所持しているものの中からアイテムを2つほど取り出す


「王様、こちらを」


「勇者様、これは?」


王の手に渡された物はひとつは淡い翡翠の色をした小さなペンダントと薄く透き通るような琥珀の色をした腕輪の2つがあった。

どちらも一見するとあまり高価そうなものには見えずこの程度ならば城下にある雑貨屋や魔法店にいけば腐るほどの在庫がありそうな程度である。だが、そんな物を大樹が渡すはずがないと王は知っている。


「ペンダントの方は俺の咒法を編みこんだペンダントです。効果としては所持者と身近な者への絶対的防壁。まぁ、守りに特化しすぎて対象範囲が狭くまったく動けなくなることになりますが

腕輪の方は帰還できるものですね。ただ帰還座標が空中庭園固定なのがネックでしょうか」


さらりと大樹の口から語られる衝撃の事実に二人はもはや口を挟むことすら出来ずに呆然としていた


「ん?どうしました?何か不都合がありました?」


当の大樹はこれである。大樹としては特におかしいと思わないのだがどうにも目の前の二人にしてみればそうではなかった。



「勇者様、よろしいですか」


その声は二人からではなく傍に控えていたクラリスの侍女のシャーリからのものであった


「空中庭園とはもしかしてあの御伽噺に出てくる神の島と呼ばれる場所のことでしょうか?」


「神の島?」


シャーリから告げられた言葉に大樹は疑問に思う。


「はい。何者にも犯されず神聖なる絶対領域。そこに辿り着けるものは神なる者のみであるという御伽噺があるんです」


「あぁ、なるほど。そういうこと」


シャーリから語られたものに大樹は得心がいった。語られたことを考えるなら確かに二人が呆然とするのも納得である。


「確かにそれを聞いたら驚くか。咒法で周りに絶対干渉させないように守護結界をしてたの思い出したよ今」


そう言えばと言った感じに大樹は答える。アレを見つけた経緯はどうあれあの庭園にはなぜか水もあり草木も育っていて心地よかったので拠点にしようとあの時思ったのだ。


「そう言った理由でして、あそこは未踏の地というかこの世界においてあの地に足を踏み入れることが出来るのは一つのステータスでもあるのです。あそこの他にもいくつか同様に西の大陸だけでも未踏の地があると言われていますが一番有名なのはやはり神の島です」


シャーリは言い終えるとそのまま後ろに一歩下がり待機する。


「理解しました。ですがまぁ、あそこは昔、居心地良かったから俺が居着いて手入れしてるし入れるのはクラリス様に渡す予定の腕輪か俺かヴェスか龍のアレしか入れないんで問題ないでしょう。

あぁ、一応安全面と食料と生活スペースに関してでしたら1000人くらいが向こう先100年くらい過ごすことできますよ。どうしますか?」


大樹はそう言い切る。そしてまた王とクラリス、そしてシャーリまでもが驚愕する。目の前の男は本当に、本当にどこまで人を超越した存在なのだろうと。この一月で少しは目の前の男、一宮大樹を分かった気になっていた。

だが、彼のことを全然わかっていなかったのだと分からされるのであった。


「・・・勇者様、この腕輪を娘のクラリスと侍女のシャーリの分だけお譲りしてもらえませんか」


少し間が空いての王からの願い。そこには親としてだけではない決意が溢れているのが分かる。だからこそ


「お父様?お父様はどうするのですか?」


「私は、この国の王だ。もしも、戦争でこの国が責められる時に、王が民を置いて逃げるわけにはいかない。王としての責務というものがあるのだよ。だがら、クラリスよ覚えて置きなさい。

民をなくして国は起こらぬと 民があってこその王があるのだと」


「お父様・・・」


「ま、今の所、勇者様がいるので私としては民が平穏に暮らせる地盤をしっかりと盤石にするために力を注ぐことにしているがな。」


先程までの空気はどこへやら

しかして、王としての責務を示しながらも空気を明るくする王に大樹は少し可笑しくて笑ってしまう。この人に会えたことはきっと大樹にとっても王にとっても良縁だろう。


「・・・・勇者様」


「・・・・」


「私も覚悟を決めましょう。一人の親としてのお願いです。娘をどうかよろしくお願いします。」


「えぇ、クラリス様の安全は俺が保証します。決して傷つけさせぬと。この名と剣に誓います」


剣を大地に立て大樹は誓う。幾何度とこの身、この者たちを脅かそうとするものが現れてもすべての火の粉は払い除けようと。


「あ、孫出来たらその時はちゃんと報告してくださいね。王族としてもですけど孫は見たいですから」


「お、おおおおおお父様!」


「ははっその時はちゃんと報告しますよ」


「もう!もう!勇者様まで何を言っているんですか!」


「じゃぁ、私がクラリス様の代わりに勇者様の子種を」


「何がじゃあ、です!そんな羨ましいことダメです!第一夫人は私なんですー!」


3人寄ればかしましいとは言ったものだが4人になるとさらに賑わうものなのだと大樹は笑いながらに考える。

そして、この世界に帰ってきて本当に良かったとも思うのであった。

結局の所、最後には旅にクラリス、シャーリが同行し協定のための使者としての役目をしてもらうというところに落ち着いた。

そして、出発は三月後ということになる。





一段落した後、大樹はクラスメイト達の所に戻り一緒になって城下町を歩いている。

どうやら、大樹がいない間に今日の予定は決まったらしく冒険者として日銭を稼ぐ組は登録に行きその他は人数分の食事を作ったり買い出しに行ったりとする予定のようだった。

そのことを前を歩くクラスメイトの一人から聞き大樹も冒険者登録をするメンバーについていくことにする。


しばらく歩いて閑静ではあるが周りの建物のグレードが上がり上質な家が立ち並ぶ場所へとやってきた。

まさに住む場所が違うといった様相にクラスメイトたちは静かにざわめく。しかし、先導する騎士は止まることなくそして、彼ら勇者たちはこのランクの住むのが当然だと思っている。

そして騎士が立ち止まり目的地への到着を意味する先には、自分たちの住んでいた世界でいうならばTVで豪邸も豪邸といったくらいの家を紹介されたのである。ここが自分たちの住む家と認識しようにもここに来てもまだどこかにどっきりが隠されているのではと疑いたくなってくるようで口々に「ドッキリなら早く出てきてくれ」「うっわ・・・王城での生活でも緊張しっぱなしだったのにこんな所に住むの?」と口走っていた。


「はっはっは、まだまだ驚かれるのは早いですよ勇者様方。どうぞどうぞ!中は居住魔法でさらに広くしておりますので」


それを聞いてクラスメイトたちはもうどうにでもなれという半ば観念したような顔になりながら案内をされる。

そして、騎士の言う通り中は広々となっており改めて魔法という存在がいかにすごいのかということに驚かされるのであった。


(部屋の割り振りとか掃除とか大変そうだな・・・)


ただ一人大樹を除いて、ではあるが。

時間にしてみれば大よそ3時間くらい過ぎた頃だろうか。中心にそびえる時計塔が時刻を3時と告げている。

あれから冒険者組は冒険者登録を行い、適正職に着き講習を受けている。

そんな中、大樹はと言うと以前、ブルモンシュと戦った時に終わった後に背中を叩いてきた職員にこっそり呼ばれて今は一室で紅茶を飲んでいた。


「いやーすまなかったなボウズ!一人だけここまで来させちまってよ」


大樹が通された部屋の前には所長と書いていた。そして、目の前の人物はその部屋の主だと証明するように座りなれているであろう椅子に腰かけて大樹と同じく紅茶を飲んでいる。


「改めて自己紹介するぜ。俺はこの斡旋所の所長エリックだ。よろしく頼むぜ」


「初めまして。俺はダイキ・イチミヤと申します」


「あらま、お前さん貴族だったのか?」


「いいえ違いますよ。俺らの所だと貴族なんて習わしがなくて皆同じように名前と苗字を持っているんです」


「ほーそれはまた珍しいな。まぁいいや それよかお前さんに質問があったんだよ」


「・・・大体なんのことかわかりますが何でしょうか」


「へぇ・・・んじゃ、単刀直入に聞かせてもらうぜ。お前さん何者だ?あの日、お前さん登録しに来たんだってな。んで、その時見えたステータスは全部1だった。

こんなこと出来る奴なんて俺が知ってる中でも魔王かそれと同格くらいしかいねぇ。だからお前さんに聞く。何者だ?」


言い終えるとエリックは遠慮なしに室内に威圧を広げる。そして鋭く威圧と大樹に向かって突き付ける。言うならば実体を持つ剣を鼻先に突き付けているような状況であるのだが、当の大樹は素知らぬ顔をしまるで柳の如く受け流しながら紅茶を飲む。


「ちっ、ちったぁ慌てたり眉の一つでも動かすと思ったんだがなぁ」


「いえいえ、あんな威圧を掛けられて単に身動き一つできなかっただけですよ」


「はっ!そいつはどうも!全く・・・・まぁいいや、大体の予想はついてる。お前さん召喚されたっていう勇者なんだろ?」


「そうですね。合ってます」


「素直にゲロるのかよ。可愛げがねぇな」


「可愛げがあるのは女性だけで十分ですからね。」


「はっはっは!ちげぇねぇ!」


大笑いをしながらエリックは大樹の前に書類を差し出してくる。

大樹は断りを入れ書類に目を通すとそこには斡旋所から大樹への個人的討伐が依頼された場合の金銭の取り交わしの取り分や今後、大樹への全面的な協力などが書かれている。


「これは?」


「いやな、被害レベルが甚大になりそうな魔物の討伐をボウズに倒してほしいってのとその時の報酬の取り決め。あとはブルモンシュの坊ちゃんから俺個人も協力してほしいって言ってきてな。

まぁ俺としてもボウズは面白そうな奴だったから協力しようと思っただけさ。んで、一応は紙面の取り交わしも必要と思ったからこうやって書いたってわけだ」


悪びれずにエリックは言い放つ。大樹は改めて紙面を見る。そして特に不都合もなさそうなのを確認すると了承の意として忍ばせておいた短刀で親指の皮を少し斬る。

属に言う血判である。


「これでいいですか?」


「ん?どれどれ・・・あぁ、構わねえよ。で?これからお前さんはどうするつもりなんだ?」


「取りあえず三か月はここに居ますので後人の育成・・・あぁ、俺と一緒に居た人たちなんですがあの人たち今日から冒険者するんですけど何分右も左もわかりませんからそれとなくフォローしつつ様子見って所ですかね」


「こっちで人を雇うか?なんなら俺が口利きしてやってもいいが」


その返事に大樹は首を横に振る。


「いえ、まだ彼らが他の冒険者の人達とうまく立ち回れるかわかりませんのでとりあえずは俺が育てようかと思います」


「そうかい?ステータス的にはなんの文句もなかったんだろ?」


そこで大樹はふと考える。確かにステータス的には問題はない。だが、戦闘という自分の命を掛けることと仲間の命を守ることをするには些か不安が残るのだ。


「ステータス的には問題はないですよ。ただ、初陣ですし剣や魔法を使い始めたのはひと月前ですから」


そこまで言ってエリックは納得する。


「んじゃ、人手が必要になったら俺に言いな。この町でベテランのやつを紹介してやるからよ」


「ありがとうございます」


礼を言うとエリックは鼻の頭を掻きながら気にすんなと言って背を向けるのだった。


エリックとの対面も終わり再び自由になった大樹は一度講習場を覗くとまだまだ時間が掛かりそうだと感じ冒険者フロアで依頼を流し読みし椅子に座りケーキに似たやつを食べ時間をつぶす。

暇つぶしの甲斐あってかケーキを食べ終える頃になると、ぞろぞろとクラスメイトたちが戻ってくるのが見えた。

そして講習後にすぐ相談したのか佐山が先頭に立ちクラスメイトたちを先導していく。それに大樹は認識阻害を使い後ろをついて行くことにした。

佐山は手元にある地図を確認しながら目的地である場所を目指していく。が、不慣れなのと土地勘がないためにいつまで経っても着けずにいる。


(どこに行くつもりなんだ?)


そんな大樹の疑問に答えるかのように先頭の佐山に不満を漏らすかのような声が掛かる


「佐山ーほんとに武器屋の道あってんのかよー」


(なるほど、武器屋に用事があったのか。うん、道が全然違うな。武器屋は大通りにあるんだが・・・ってまずいな。この先は色町だぞ)


しかし佐山はそのまま突き進もうとする。さすがに女性を連れていくのはまずいと思い大樹は認識阻害を解いていかにも後ろから走ってきた様相を整える。


「佐山君、さすがにこの先はまずいよ」


「ん?なんだ一宮か。どうした?」


「この先、一瞬だけチラっとみて」


佐山に一瞬だけ見るように促し確認させる。すると佐山はこの先に何があるのかわかったのか慌てて地図を見直す


「佐山君、たぶんだけどその地図逆さに持ってないかな?」


「・・・・あっ」


大樹に言われた通り佐山は地図を逆さに持っていた。それに気が付き佐山は皆に謝るとすぐに方向を転換させ来た道を戻る。


「ありがとう一宮。お前が注意してくれなかったら色町の中を進んでいってる所だったわ」


「気にしないでいいよ。もし、さっきの場所に行きたいならあとでクラスメイトで興味ある人と一緒に行くか?」


大樹の提案に佐山は顔を赤くしながら否定してくる


「ば、バカ言ってんじゃねえよ!俺たちはこれから冒険者になるんだぞ!?その先にある魔王を倒して欠片も集めなきゃいけないんだ。そ、そそそそんな色に現を抜かすわけにはいかないんだよ!」


(あっ、こいつムッツリだわ)


顔を赤くしながらも必要に言い訳をしてくるその姿に大樹の他にも先頭の近くに居た男子生徒たちは同じことを思った。その時、クラスの女子が冷めた目で見ていたことを佐山たちは知らない。

そんなハプニングもあったが無事に武器屋に到着した一行はそこで自分たちの職にあったノービス武器を購入し、続いて防具屋、錬金アイテムなどを購入しているといつの間にか日が傾き空には黄昏が広がっていた。そんな黄昏が大樹は堪らなく好きなのである。

それはさておき、装備やアイテムを一頻りに購入したクラスメイトたちは後生大事そうに武器を眺め愛で抱きかかえてながら一路帰宅するのであった。

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