勇者と魔王と。

蒼天りく

第1話 プロローグ

昔々、ある所に人の希望を託された者がおりました。

その者は、魔王を倒すべく1人で戦いに挑んだそうな。


昔々、ある所に人間に憧れる魔王がおったそうな。

魔王は来るべき時のために待ち続けました。


そしてついに二人は出会い戦いました。来る日も来る日も戦い続けました。

大地は裂け、森は燃え、山は削られ、それはもう大層な戦いだったそうな。

そして二人はついに決着を迎えることになります。果たしてその結果は―

ミルド暦2031年


「皇女様!召喚の儀の準備が整いました!」


扉の前から声を張り上げる青色の神官服に身を包んだ男がいた。幾ばくかの時間の後、静かに開かれた扉から侍女と思わしき女性と金色の髪を少し靡かせやや釣り上がった目をしてはいるものの10人に10人が振り向くであろう整った顔をし煌びやかな衣類に身を包みんだ女性が出てきた。

そして、その姿を確認し男は再度言葉を紡いだ


「皇女様、召喚の儀の準備が整っております。後は、皇女様と陛下の到着を待つばかりとなっております。」

「わかりました。お父様には私からお伝えします。貴方は戻っていなさい」


言い終わると一礼をし男はどこかへと足早に去っていった。

そして、皇女と呼ばれていた女性は自らが父と言った者の部屋へと向かう。


日の光が自らの通る道へと差込み少し暑さを感じる回廊を進んで行く。しばらく歩くと装飾の施された絢爛豪華な扉の前へと辿り着き自らの目先よりも少し下を軽く叩く


「お父様、神官より準備が整ったとのことです。」


扉越しにそう伝えると中からしわがれた声の男の声が聞こえてくる


「陛下よりご伝言です。先にクラリス様はお向かい下さい。陛下も準備が整いましたら向かうそうです」

「畏まりました。お父様になるべく早くにくるようにお伝えください」

「ご随意に」


父と一緒に行きたかったのかクラリスと呼ばれた女性は少し残念そうな顔をして侍女へと向きなおした。

そんな心中を察するように侍女は柔らかく笑みだけをして皇女の後ろを付いていく。何も言わず付いてくる侍女をありがたく思いながらクラリスは召喚の間へと歩みを進める。

回廊を進んで行くと段々と喧騒が聞こえてくるようになってくる。そして「召喚の間」と書かれたプレートの前に辿り着く頃には怒声やら慌ただしくしているであろう声などが中から聞こえてくる。

いよいよだ。

逸る気持ちを抑えつつクラリスは召喚の間の扉を開ける。


「皇女様!お待ちしておりました」


先ほどクラリスの部屋の前にいた神官がクラリスに気が付き近づいてくる。その顔は先ほど出会ったばかりとは思えないほどに疲弊していた。

ならばこういう時は皇女としての勤めというものがある。


「ご苦労さまです。アンデス神官。お父様も直に来られるとのことですのでそれまで頑張って下さい」


アンデスと呼ばれた男はそのまま頭を下げ最後の仕上げに取り掛かると残し去って行く。そして入れ替わりに今まで口を閉じていた侍女が口を開く


「お嬢様いよいよですね」

「えぇ・・・魔王が現れて早5年最近は魔物の活性化によって魔王の城がある近郊の国の被害も大きくなってきていると聞き及んでいます。それに協定を結んでいたはずの国同士の戦争も懸念されています。我が国はその中でも軍事力が些か分が悪い状況ですからね」

「だからこそ文献に残っていた異世界の勇者を呼ぶ儀式に賭けたというわけだ」

「お父様!」「陛下!」


話の間に割って入るように老齢の男が入ってくる。この男こそがフェアデル・ラ・ジル三世国王である。

そして国王はそのまま神官のところへ足を運び二、三言葉を交わしてクラリスを呼び寄せる。

ついに始まるのだと感じ取り侍女を連れて国王の下へと移動する。


「皆のもの!これより勇者召喚の儀を執り行う!これから召喚するのは我らの剣となってもらう方だ!万が一にでも礼を欠くようなことをするならばその首はないものと思え!良いな!」

「我がフェアデル王国直属メイバス教神官アンデス及び以下三十四名天上神メイバス様の名と誓いに賭けてお守り致します!」

「「名と誓いに賭けて!」」


ここに今、召喚の儀が開始される。それは人類の希望であり人類の剣である。万感の想いを込めた召喚の陣は光り輝いていた。

その光景を見ながらクラリスは願う。どうか我らの剣よ。魔王を討ちこの世界を泰平へと導いて下さいと

夕日が沈みかける世界に一人身を晒す人物がその情景を見ながらひとりごちる


「復活して7年。魔王であると名乗り出て早5年か。今では人の文化は確かに躍進している。だが・・・同時に脆くもなってしまった」


あの男がいるならば昔の思い出に華を咲かせること出来たかもしれない。と男は呟く


「ヴェルクス様。こちらでしたか」


ヴェルクスと呼ばれた男は振り返る。そこには自らの家臣である羽をつけ頭には角をつけた男が一人立っていた。

ヴェルクスは家臣の男に何か大事でもあったのかと問いかける。しかし、今の世界で自らが大事と判断することなどは早々にない。どうせつまらないだろうと当たりをつける


「遥か西の大陸で勇者召喚が行われているとの連絡を受けました。如何なさいますか?」


勇者か・・・自分が復活したのだからアヤツももしかして、等と思うが自分のように復活でもしない限りは無理だろうとも同時に理解している。

だが、しかしあの男は最高の男だった。自分にとってもヤツにとっても強敵であったのは間違いがない。願わくばあんな男ともう一度巡り会いたいと思う。


「構うことはないと伝えろ」

「よろしいのですか?」


家臣の男は何か言いたそうにしている。いや、多分に言いたいことは理解しているつもりだ。自分たちにとって脅威となりえる者かもしれないのに放置してもいいのかと言いたいのだろう。


「構わぬ。勇者が成長すれば私の願いにも近づけるからな」


そうだ。自分の願いを成就させるには勇者という存在は必須。だが、弱いのでは意味がないのだ。だから、成長してもらわなければならない。


「・・・・畏まりました」

「不服そうだな?」

「確かに不服ではあります」


ヴェルクスは素直な奴だと感心すら覚える。


「そうだな・・・なら召喚された際に一つ見に行くとするか」


絶対的な存在が自ら動く。その事実に家臣の瞳孔が大きく開く。真意は分からないが主が動くのならば何かしらの影響は出る。それが凶と出るか吉と出るか


「心折れてそのまま潰れるかそれとも・・・」


その結果によっては楽しいことになるかも知れないと呟いた声は風の音と共に掻き消える。

そしてもう一度。今度は沈みきって見えなくなった太陽の方向に向いて


「さぁ、勇者よ。どうする?私は復活を果たしたぞ。この魔王ヴェルクスはな」


今は亡き男へと向かって これから召喚されるであろう勇者に向かって

男は一人深く笑みを浮かべるのであった。

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