閑話1

勇者と魔王が邂逅しているのを男が一人眺めてながら口元は笑っている。

その空間は男以外には誰一人として存在していない。そんな男の楽しみはこうやってテレビ画面のように映し出され次々に映り変わっている映像を眺めることだ。


「まさかあの勇者と魔王が同時期にまた存在することになるとはねぇ」


あれは何時だったかと思案するがあれから膨大な時間を擁していたために考えるのをやめる。それでも大体1000年くらい前だったかとはぼんやりと思い出し懐かしいと感じる。


「ともあれ、何事も予定外のことが起こる方が楽しいのも事実。何やら企ててもいるようだしな」


画面では場面が映り変わりすっかりと別の映像を映している。

その画面にはさほど興味も惹かれなかったために先ほどの勇者と魔王のことを考える。

はて?勇者と魔王の名はなんだったか?名に関しては特に思い当たらずともあの勇者と魔王の顔はしっかりと刻み覚えている。



人の身でありながら神道に至る道を見つけた勇者を


魔の王でありながらも人に魅入られ、人の輝きを求め道を外し愛した魔王を


あの二人がこの時代に出会ったのは必然であろう。

ならばと、男は一人、祝詞を謡いあげる。それと同時に男は希う


未だ至高へと至らぬ勇者よ。己が求める神道を駆け上がれと


人を愛して止まぬ魔の王よ。いずれ来る時までどうか人を見捨てないでくれ。と


そして、存分にまた私を楽しませてくれ。と



柏手を一つ打ち男は再び映像を眺め始めるが、やはりあれ以上の面白さを感じられることはなく男は静かに目を閉じる。








ここからは勇者が召喚された時から大樹が魔王城に行っている間の出来事を少し話そう。


西の大陸の北部に中(あた)るガルディア帝国。この国は現在、領土拡大のための戦の準備が着実に進められている。

そして今日も月に一度の定例報告の場が開かれそこには、上座には燃え上がるように赤い髪に白銀に輝くプレートメイルを着込み年齢にしてみればまだ30代前半と言ったところの男が座っている。しかしその圧倒的な王の気質というべきだろうか?覇気を持ち例えるならば野生の獣を彷彿させるような鋭さも兼ね合わせている。

その男の名はディアス・フォン・ガルディア王。歴代きっての強者と言わしめるほどの才覚に努力を重ねる男である。

そんな男が座る円卓には左右に分かれて6人ほど人物が座っている。そしてそんな彼らの内の一人の男に問いかける


「して、モータルよ。軍備は整っているか?」


問いかけられ円卓に座る一人の老齢ながらも圧倒的な存在感を他の者に与える男が答える。


「軍備のほどは滞りなく。現在は兵の錬度を上げるために各自修練に励んでおります」


それを聞いたディアスは満足気にして首をうんうんと頷かせる。


「次、サイラス。国内の情勢はどうなっている?」


サイラスと呼ばれた男は先ほどのモータルとは対照的でスラっとした細身をしており文官という言葉が似合う男である。


「はっ!国内における畜産は前年より3割ほど上がっております。農耕におきましては前年とほぼ変わりない状態です。兵糧におきましても特に問題ないでしょう。

ただ、鍛冶に関してなのですが資源が不足気味で生産に関しては早急ではないものの対処が必要になってきております」


サイラスは報告が終わると椅子に座りなおす。それを聞いたディアスは少し思案し


「あい分かった。鉱山は俺たちの国にはないからどうしても輸入頼りになってしまうから考えものだ・・・ビルク!国庫で無理のないほどの資源をどれくらい買い付けができる?」


ビルクと呼ばれた男は荒い息を吐きながら立ち上がる


「ふぅ・・・ふぅ・・・そうですな・・・戦を始めるかもということでギルドが鉄や銅や鉱石なども値上げしておりますので兵士全体の武具の強化とはいきますまい。精々8割が妥当かと」


そう言ってビルクは座りなおしディアスはまたも思案するはめになる。兵糧に関しては大丈夫だが武器が難しい。今ある武器でも戦うことはできるだろうが今後を考えるならばここで消費するのは惜しいと考える。

致し方ないがここは宝物庫にある品を売りつけるしかないかと考えビルクに指示を出す。


「次は他国は今はどうなっている?」


すると諜報部の男が立ち上がる。


「はっ!東のメルディア聖王国は特に事を構えては居らぬようで信徒を増やすべく活動しております。南のジンバ国も同様に動きはあまり見られません。ただ、王国内部に何かを隠しているようでもしかしたら秘密裏に行っている可能性もあるので今一度調査をしたいとのことです。そして西のフェアデル王国ですが、どうやら勇者召喚の儀を執り行っているようです」


勇者召喚と聞いた瞬間、その場にいる何人もが騒然とする。それぞれが口々に「勇者だと!?」「出鱈目を言っているに違いない!」など大声で怒声を含んだ声でしゃべっている。

その場にいて騒いでいないのはモータルとディアスの2名のみ。そしてその内のディアスが自らの鞘に納めている剣の先で床を強く叩く。その時に生じた音で騒いでいた者たちが水を打ったかのように静まり返る。


「フェアデルが何かしているのはわかっていたことだろ。もう少し落ち着きを持て、それに今は報告中だ。騒いだ者は次はないと思え」


言い終えるとディアスは座りなおし報告を続けさせる。だが、勇者の情報以外には目新しいものもなかったため報告は終わる。


「では、ニグルよ」


ニグルと呼ばれた男は先程、報告をしていた諜報の男だ。その男がまっすぐに立ち王からの勅命を待つ。


「フェアデルに蛇を送る。お前と蛇で精細な情報を持ってこい。勇者が何人か。こちらに引き込めそうなのはいるかどうか。期待しているぞ?」


「はっ!喜んで拝命させて頂きます!」


さすがに全部が情報を持ってこれるとは思っていないがそれでも少しは取れるだろうとディアスが考える。そしてそのまま軍議は終わり解散となった。

ディアスは一人そのまま玉座へと進み無言のまま椅子に深々と座り目を閉じ考えを巡らせる。


(勇者・・・勇者か・・・ははは。魔王が現れた後に勇者。まるでこれでは巷にあるお伽話のようではないか!いいぞ・・・少しばかり退屈してた所だ。だが、これからは面白くなりそうだ)


その顔は、悪だくみをするような笑みを浮かべながら―

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