8話

次の日―

大樹は自分に宛がわれた部屋で目を覚ます。時刻はまだ日が出ていない2時である。だが、大樹はこの時間に起きることは自然であり、むしろこの時間に起きないと自分の体内時計が狂うとまで確信している。

そしてそんな大樹の朝の日課である精神を集中させるため瞑想をする。深く、深く精神を潜らせ自然に溶け込むように精神を集中させたなら一気に解放する。それを2度3度繰り返していると時間にして1時間は優に過ぎていた。

次に、大樹は空中庭園に行き庭の手入れをして次に神威の内包量を多くするための特訓をし剣と拳と咒法の鍛錬を行ったのだった。

すっかり空も明るくなり空には青空が広がっている。少しのめり込みすぎたかと思ったが時刻は7時前となっている。

だが、あまり遅くに起きるのも悪いだろうと思い大樹は元の部屋へと転移をする。


「さてさて、これを・・・報告はするとしてどうしたものか」


そう呟く大樹の手元には少量ではあるが無力化した転移結晶が転がっている。

大樹がこう考えるのにも理由がある。それは昨日の夜に遡る

食卓に座るのはクラス全員男女合わせて30人。男は左側、女は右側に座り、手を合わせてから食事をし始める。

そんな中で一人、クラスのまとめ役の佐山が立ち上がる


「皆、食べながらでいいから聞いてくれ。まず、俺たち冒険者組の12人は明日から斡旋所にあった依頼などを受けようと思う。ただ、パーティーを組めるのに制限があるから4人パーティーを3組作ってそれぞれ依頼を受けよう。組み合わせなんだが男女2人ずつで行こう。

言わないでもわかってることだと思うけど敢えて言う。ここは俺たちが住んでた平和だった場所じゃない。だから、最悪自分の身は自分で守るようにしないといけない。だけどそのリスクを極力避けるために固まって行動しようとは思うけど肝に銘じて置いてくれ。

次に、生活組は悪いけどそっちでも代表を後で決めて置いてくれ。出来ればリーダーを男女で一人ずつに補佐を3人くらい欲しい。以上だ 何か質問はあるなら受け付ける」


伝え終わったのか佐山は席につく。しかし、席に着いただけで食事はせずに質問があるようならすぐに答えられるように待機をしている。

クラスメイトたちはそれぞれ隣同士と話し合っている。だが、特に声を上げてまでの質問はこの場ではなかった。


「特にないみたいだな。ならば、行き当たりばったりになってしまうが何か問題が生じたら皆で相談する形にしよう。時間を取らせてすまなかった」


佐山は言い終えると食事をし始める姿を見て他のクラスメイトたちも食事を再開する。

夕食が終わりある者はリビングで雑談をある者は家庭菜園の環境調整をと言った具合に各々食後の時間を楽しんでいる。

そして大樹は自室に戻り一人窓へと視線を向ける。


「随分な登場の仕方ですね」


大樹が声を掛けると窓の外の景色が一瞬だけ歪む。するとその中から一人全身を黒色で身を包みまるで常闇を連想させるほどの背丈からして男だろう人物が立っていた。


「俺の術を見破れるとは恐れいった。本当に規格外の化け物だな貴様」


その言葉に大樹は軽く笑みを返す


「それはどーも。で?そんな話をしにわざわざ来たんですか?なんなら中で一杯御馳走しますよ?」


「いらん。それより我が主からの言伝を預かっている。静聴するがいい」


「はいはい。主とはモシュ?」「・・・さよう」


それだけ聞いて大樹は黙る。


「ここより東に歩で二時ほど歩いたところに森林がある。そこで何やら魔力の乱れがあるそうだ それを調査してほしいとの依頼だ」


「話は分かりました。が、なぜ俺に?斡旋所で依頼として出せばいいのでは?」


大樹も疑問は当然のものである。本来なら斡旋所で希望者を募り調査団として調査するのだが今回はそれをせずに大樹へと話しを振ってきた


「無論、本来ならそのようにするが今回は速さがより重要となる。我らは主の護衛に努めるのとは別に任がある。だから今回は貴様を信頼し依頼をしたと主は言っておられる」


(情報の収集よりも早期に対処する必要のある案件か。まぁ、モシュからの依頼だし断るという選択肢は特にないな)

そう思い大樹は了承をする。


「報告だが終われば主の館まで来られたし」


伝え終わった影はもうここには用はないと言わんばかりに常闇へと消える。それを確認し大樹は2、3度肩をほぐす。

次に膝を何度か曲げ準備運動をする。そして誰も侵入してくることはないとは思うが念のために防護結界を敷地内に展開して街の外へと転移する。


森林の場所は漠然とした場所しかわからないのでとりあえず行きは飛んでいくことにする。

調査ということだが念には念を入れようと思い十六夜を大樹は腰に据えている。


そのまま飛ぶこと30分で依頼された森林にたどり着く。そして上空から魔力探知を展開し魔力の乱れを探す。

すると、森林の中にある泉の傍だけが黒くまるで吹き溜まりのような魔力が散見できる。

原因を発見した大樹はその発生源に降り立ち土に触れる。


(これは・・・養分が枯渇している?というよりは地にある魔力が吸い上げられているのか?)


すぐさま大樹は触れた土を戻し土の中を魔力探知する。すると原因はすぐに判明する。

大樹が立っている丁度真下で深さにしては20センチもないところに吸収しているであろう原因の魔石が埋められているのが分かった。

大樹はその魔石を園芸用のスコップで掘るとそこには魔石以外に見つける。


(転移結晶?)


大樹が目にしたそれは転移結晶と呼ばれる魔法石であった。


(幸いまだ転移できるほどの魔力は溜まっていないようだけど一応無力化したほうが良さそうだな)


そのあと何個か同じく転移結晶を見つけ念入りに森林を探知する。それでようやく全ての結晶を取り終えた大樹は袋に終い最後に泉に近づいて水を正常化させる。

最後の浄化作業を終えたため大樹はそのまま空中庭園へと転移する。そのまま風呂を沸かし、沸かしている間に菜園の水やりを少しばかりする。そして風呂から上がり終わって見れば早いものでふと、大樹の持っている魔力時計で時間を見ると3時間も経っていなかった。

このままここで寝ても良いのだが万が一にまた来客があるかどうか分からないため大樹は部屋へと転移し、そこで瞼を閉じて睡眠をする

「で、この現状だなぁ・・・とりあえずモシュに押し付けもとい、原因は探ってもらうか?うーん・・・使い捨ての転移結晶っぽいし見る限り座標固定で一方通行になってるから特定のしようがないんだよなぁ」


大樹は結晶のすべてを調べてみるがそのすべてが使い捨ての結晶ということがわかったが、それだけしか分からなかった。


(技術発展には目覚しいものがあるけど同時に使い方が違うと危険なものだなぁ。それでもやはり技術は素晴らしいがな!)


一歩間違えればこの国に戦火が降りかかったかもしれないということは大樹の中でなかったことになった。

なかったと言えば語弊が生じるが技術面の向上を素直に喜んでいるのであった。




       みなさーん!ごはん出来ましたよー!



食事の担当が大声で1階から叫ぶ声が耳に届く。そこで大樹は思考を一度置き食事をするために1階へと降りることにした。


(食事時に考えは無粋だしな。さて、今日はどんな料理が出てくるのやら)


朝食として出てきたのはオムレツにハムトースト、それからトマトスープという献立だった。すべて のような が後ろにつくが


       それでは、いただきます!


手を合わせみんなで声をそろえる。そして時には食事に集中し時には隣同士で喋ったりしながら朝食をとっていく。

テーブルの中央にはポットや瓶がいくつかありその中には紅茶が入っている。大樹も食事が終わり冷やされた瓶をとりカップに紅茶をいれ一息つく。

余談ではあるがカップはそれぞれみんなマイカップとして支給されたもので各自部屋で管理している。割れてもいいようにいくつか予備は用意されているが予備は購入することになるためみんな割らないように気をつけている。


紅茶の味を楽しんでいると佐山が立ち上がり冒険者チームを集めだしていた


「じゃぁ、冒険者のみんなは集まってくれ。チーム分けをしようと思う」


そういって佐山は懐からそれぞれ2枚の大きい紙を用意していた。


「男女に分けたくじを作った。男女丁度半々だったから助かったよ。で、結果は俺があとで合わせるからみんな好きな所に自分の名前を書いてくれ」


自分は最後でいいと付け加えてみながどんどんとくじに名前を書いていく。大樹としてはどこでも良かったために最後に名前を書いた


「よし、じゃぁABCでチーム分けてるから名前を呼ばれたらそれぞれの紙を持ってもので固まってくれ」


そう言って佐山は次々に名前を呼んでいく。そして最後に名前を書いた大樹が呼ばれくじは終了となった。

くじの結果、大樹はBと書かれていた。


「一宮と同じチームか。よろしくな」


声をかけてきたのは最初の修練でのやり取りのあった橋本だった。そしてなんとも都合が良いのか悪いのか女子2人は橋本のファンなのか取り巻きなのか良くわからない女性二人だった。


「・・・よろしく」

「よろしくね」


(なんともテンプレな・・・)


大樹のことなどアウトオブ眼中と言わんばかりの対応をされ大樹は苦笑いを浮かべる。そんな様子に橋本も少しばかり気まずいのか咳をひとつして場の空気を少しでも良くしようとする。


「一宮よろしくな。で、早速で悪いんだけどさ。俺は今日、魔物の討伐依頼があったら受けてみたいんだけどいいか?」


女性二人もそのつもりらしく装備の点検をしている。大樹はそれを横目にしながら考える


(本来なら採取が基本なんだが・・・いきなり討伐って大丈夫か?修練では模造した幻影としかやっていないのに?いや、でもしかし・・・)


正直な話ならばNOと言いたいと大樹は考える。それもそのはずで今までの生活で他の命を刈り取る行為というのをやっていないのだ。

しかし、それでも大樹がNOと即座に答えられないのは遅かれ早かれ絶対に必要がある行為だからだ。

この先のことを考えるならばここは肯定するべきだと考えが傾く。


「わかった。それでいいよ。ただし、念入りに準備をするから1時間は欲しい」


「・・・・了解。でも、なるべく早く済ませてくれ」


そして俺は準備すると言って自室に戻った。色々と悩んだが転移結晶のことはモシュに判断は任せるという結論付ける。

そうと決まった大樹は転移結晶の入った袋を片手に認識阻害を使い自室の窓から飛び降り走った。大樹たちの住んでいる場所が一等地ということもありブルモンシュの屋敷は近くにある。


(何度か来たことあるけどやっぱでけぇな)


外にいた警備兵の人にブルモンシュに会いに来たことを伝え中から執事の人が出てきたのでそのまま屋敷の応接室で待つこと10分ほどするとこの屋敷の主が入ってきた。


「すまんなダイキ待たせたか?」


「いや、大丈夫だモシュ。ただ、今日は他の勇者たちの初めての実践でなあんまり悠長にしてられないんだ。だから大まかに調べた結果だけ伝えるぜ」


「そうか。いや、気にしないでくれ。こっちも唐突な依頼だったんだお相子さ」


ブルモンシュはそう言って笑顔で了承してくれる。


「ありがたいが・・・まぁ、良い。結論から言うぞ。転移結晶がいくつか見つかった。魔力の歪みは魔石で転移用の魔力を集めてたみたいだ。泉も瘴気で変質してたが魔石共々対処しておいた。

転移結晶に関しては中の転移呪の破壊もして無効化してある。これが証拠だ」


矢継ぎ早に言い大樹はテーブルの上に袋にまとめていた転移結晶を出す。

そしてそれを最初は驚きに満ちた目をしていたブルモンシュだったがすぐに冷静さを取り戻していた。


「助かる。しかし、随分とあるな。しかも森林にあったとなると帝国か?しかし、帝国の間者が入った様子は・・・」


そこまで思考をしていたブルモンシュだったが大樹の存在に気がつき謝罪をする


「おっと、すまない。ちょっとばかりこれは俺だけで問題が片付きそうにないから国王に判断を任せることになりそうだ。もしかしたらその際にまたダイキに依頼することになるかもしれんが」


「それは構わないさ。じゃぁ、後は任せるわ じゃぁ俺はちっとばかし新人育成してくる」


「わかった。依頼料は今日の昼までにカードに振り込んでおくぞ」


「了解」


ブルモンシュの依頼を終えた大樹はそのまま屋敷を後にして再び家へと戻ってきた。


(さて、1時間も掛からなかったか。ちゃっちゃと点検したら出発するか)


それから大樹は装備の手入れと回復薬、そして万が一のための時の蘇生石を懐に忍ばせてリビングで待っているチームメイトの元へと足を向けるのだった

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