5 そして始まる(波乱の)日常
「……はあっ」
どうやら謎の怪人を退けられたことを確認して、
(この程度で倒せる相手じゃない。あの人はまだ……)
生きている。確信がある。しかしいったい何者だ? 自分の姿を視認したということは
次に出会ったらまた戦いを挑まれるのか、あれほどの強敵をもう一度退けられるのか、そうなったらどうすれば……いや、あるいは彼こそが?
自分に向けられた周囲の視線に気づいて、彼女は立ち上がった。振り返れば、せっかく見付けたバイト先が無残に破壊され、好奇と興奮の眼差しで人々が自分を見詰めている。
その中には、友人たちの問うような咎めるような視線もあった。罪悪の念に身を竦ませながら、軽く地を蹴って空に身を踊らせる。適当な路地裏まで飛翔して変身を解除。
戦う方に力を向けなければ向けない分だけ
誰一人命を奪わず解決できたことに、
○ ○ ○
「……負けた」
青空を見上げて、頑真はぼやいた。
収束した滅却光波の奔流に飲み込まれ、気が付くとどことも知れぬ街中に倒れていた。身体機能に支障は無いが、さすがにダメージは浅くない。
戦士としての本能を発露させた上で敗北を喫して、しかし妙に清々しい気分だった。
「あれが
目覚めてざっと半月。失われた存在意義に絶望し、再起を胸に誓い、そして今――彼は己が生きるに足る、己の芯と成り得る目的を手に入れたのだ。
もう一度、
どうしてそんなことを望むのかと尋ねられれば、いろいろと理屈はつけられるが、要は単なるアームズ・コンプレックスという結論になってしまうのは歯痒いところだが。
「さてと」
そうと決まれば、こんなところで寝ている場合ではない。いつかの再戦に備えて、準備しなければならないことは山のようにある。仕事だって探さないと。
起き上がって歩き出す。心は弾み、足取りは実に軽やかだった。
「きゃああっ、全裸で歩き回ってる変態怪人がいるわ!?」
「えっ」
「はいそこの君ストップ。ここBL4なんだけど、人化処置は受けてるんだろうね?」
「ええっ?」
「増援を呼べ! 緊急確保ーっ!」
「えええええええっ!?」
嗚呼、前途多難。
○ ○ ○
事件現場に程近い雑居ビル。その屋上に、一人の女が身を潜めていた。
「ハチナナより本部へ。天使は舞い降りた、繰り返す、天使は舞い降りた」
軍服を着た、ポニーテールの美女――鬼丸覇奈軍曹である。現場の様子を観察しつつ、通信機に報告を続けている。もう一方の手では鋭く尖った細長い何かを弄んでいた。
「作戦通りだ。お友達を助けるため、立派に正体晒してくれた」
対怪人仕様の特殊徹甲弾である。サメ怪人が暴発させた流れ弾だ。
「しかし、どこに危険が潜んでるか分からんもんだな。あたしだったからいいけどよ」
徹甲弾を弄ぶ側の指抜きグローブは、何かすさまじい衝撃を受けたかの如く弾け飛んでいる。しかし、彼女の掌そのものはまったくの無傷だった。
「それと、追加の報告が一件。天魔が湧いて出た、繰り返す、天魔が湧いて出た」
徹甲弾を握り締める。戦車も怪人をも貫く硬く強堅な弾頭が、グニャリと形を変えた。
「これより撤収しそちらと合流、詳細は帰還次第報告する。オーバー」
パチンコ玉ほどまで圧縮させられた徹甲弾をポケットに入れて、覇奈は荷物をまとめて塔屋へ向かった。その途中、頑真が吹き飛ばされていった空を見上げて足を止める。
「対
口の端を歪める。猛々しく、禍々しく、力強く、不遜で傲慢で、魅力的な笑顔だった。
Arms complex ゆーとん @YAMAKUZIRA
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