1 ヘルプミーだよお巡りさん
「ヴァ・デオン? ああ、そういえばいたねそんな連中。三年前に壊滅したけどね」
「……そーですか」
彼――アルマイダー03号の質問に、警官はあっけらかんとそう答えた。
謎の爆発事故(彼が着地した際の衝撃)の現場で発見されて保護されて、幸い特に怪我もしていなかったので最寄りの警察署に連行され、今は事情聴取の真っ最中である。
丸みを帯びた頭部。顔を覆う無貌の仮面。漆黒の鱗片と甲殻で鎧われた柔靭なる長身。全身が闇と暗黒に彩られた中、金色に輝く瞳が猛々しい意志を感じさせる。
と、まぁ、雄々しく決めポーズでも取っていればなかなか格好いいダークヒーロー的な外見なのだが、手渡された毛布で体を覆って暴行された乙女の如く力無く俯いてカタカタ震えているその姿には、威厳も迫力も風格も強そうなオーラも全然無かった。
「ど、どこかに残党とかは……」
「つい先日降伏したよ。和平が結ばれたってニュースやってただろ?」
「今日の日付は?」
「統歴三年三月十五日」
「何それ知らない。
「さぁ? そもそも人間だったかもよく分からんし」
彼は生粋の戦士である。戦闘に有用なあらゆる知識、技術、能力が生来備わっている。他者の言葉の真偽を測る洞察力もその一つであり、その優れた感覚が明言していた。
口調、汗、視線、仕草――この警官からは嘘を口にする者に特有の生理的反応が見られない。つまりそのなんだ、嘘を言っていないのだから、真実を語っている可能性が高い。
戦火は終息した。闘争は終結した。ヴァ・デオンの栄光は過去のものとなった。究極の怪人、超生体兵器アルマイダーの存在は、彼が目覚める前に無意味になっていた……?
「いやいや、待て待て、落ち着こう。嘘ではなくとも事実ではないかもしれない。きっとこの男は騙されていて、ヴァ・デオンは今も健在で、戦場が俺を待っているんだウフフ」
「お~い、ちょっと、君……大丈夫か?」
嗚呼、神よ読者よ照覧せよ! 顔を覆って虚ろに呟く最強戦士の哀れな姿を! まさに敗者って感じ! 涙流す機能があったら絶対泣いてた! 思わず警官も慰めるレベル!
「ううっ、人間に気遣われるなんて。それも最初に出てきてすぐ悪役にやられそうな立場のヤツに励まされるなんて。お巡りさんありがとう、俺がんばります。ぐすっ」
「元気が出たようで何よりだ。で、本題だが……君さ、人化処置受けてないだろう?」
詰問口調で尋ねられる。これまた知らない単語だ。なんのことやらと彼が視線を向けると、警官は大きく嘆息し咎めるような態度で言葉を続けた。
「とぼけたくらいで誤魔化せるもんか。爆発事故の現場にいて無傷なんて、処置を受けていないのが丸分かりじゃないか。我々だっていたずらに事を荒立てたくはないが、限界がある。未処置の怪人がBL4指定地域に入るなんて、何を考えているんだ!」
「そ、そんなこと急に言われても……」
BL4とはなんだ? この近辺一帯が該当するのか? 数字がついているということは段階があるのだろうか……ともあれ、相当にまずいことをやってしまっていたらしい。
(といって具体的に何をやらかしたのか良く分からんが……どうする? この程度の相手を制圧するのは簡単だが、状況認識が不十分なまま決定的な行動に出るのもうまくない)
戦士としての狡猾さが、彼に武力の行使を躊躇させた。何をするにしてももう少し情報を――と、そこで彼らのいるロビーに警察署の入り口の方から一人の女がやって来た。
屈強さと女らしさが同居した体躯。乱雑にポニーテールにまとめた髪。美人と呼べる顔立ちの主ながら刃さながら眼光鋭く、獰猛な雰囲気を総身に漂わせた二十歳ほどの女だ。
「
「身元引き受け? 軍人が? 頼んだ覚えは無いが……」
「軍には同輩も多いんでね。そのバカをSS法に準じて処分するのも面倒だろ?」
「同類相哀れむ、か……」
「そういうこった。BL2まできっちり護送する、アンタらに迷惑はかけない」
「……まぁ、取り立てて悪事を働いたわけでも無し、今回は目を瞑りましょう」
「話が早くて助かる。おう、そのバカとっとと運んじまうぞ」
さらに二人の怪人がロビーへ入ってきて、彼の左右の脇をそれぞれ抱えて持ち上げて、有無をも言わさず運び出す。警察署の前に、一台の装甲車が停まっていた。
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