Arms complex

ゆーとん

act.1/決戦兵器は寝坊しました

scene.1/平和な世界と彷徨う戦鬼

プロローグ




 暗黒。濁流。淀んだ大気。そして感じる、五体の重さ。




『起動したか、アルマイダー03号……覇道結社ヴァ・デオン究極にして最強の戦士よ』


 最初に視界に入ってきたのは、周囲を囲うガラスの壁。そこに映る漆黒の影が己なのだと理解する。内部を満たす液体が排出される中、無機質な合成音声は語り続けた。


『我らが悲願、世界統一……その大望を阻む光覇神姫ルミナ・レギスの撃滅。それがお前の存在意義だ。そのための力が、かの者らと同等の力がお前には備わっている』


 ガラス壁が上昇し、微かな計器の光だけで照らされた研究所が眼前に広がる。そこへと進み出て、見詰めた己の掌を二度三度と握り締め、彼は自身の圧倒的な性能と課せられた使命――倒すべき存在を認識した。


『征け! 光覇神姫ルミナ・レギスを倒し……ヴァ・デオンに栄光をもたらすのだ!』



 言われるまでもない。



 地を蹴る。拳を振り上げ天井を突き破り、地層を貫き地上を越えて、天空をも突き抜け一瞬にして成層圏へ。夜空を背負って地表を睥睨し、手頃な街の灯目掛けて一気に降下!


 気圧差も低温も摩擦熱も、その進撃を阻むに足らず。戦うためだけに生まれ、戦う以外の愉悦を知らず、戦うことしかできない全き闇の超闘士が、今この世に降り立ったのだ。



 大地を揺るがす衝撃を両の足で受け止め、耳よりも骨で感じる轟音を受け流す。やがて粉塵晴れ渡り、抉れた地面の中から見れば、そこは都市部の交差点のようだった。


 人間や服を着た獣頭の怪人たちが、何事かとこちらを眺めている。引っ繰り返った車の中の者たちを、彼らはごく当たり前のように協力して助け出そうとしていた。



『本日ケープタウンにて、世界政府とヴァ・デオン残党軍の和平条約が締結されました』


 ビル壁に設置された巨大な街頭テレビの中で、アナウンサーがそう語る。


『唯一組織的抵抗を続けていたアフリカ方面の残党軍と和平が成立したことで、世界政府はヴァ・デオン大戦の最終的な終結を宣言。降伏に応じた獣人兵器たちの身柄は――』


 頭の後ろで手を組んで伏している怪人たちを、兵士たちが手際よく武装解除していく。次に画面に映ったのは、壮年の軍人と握手を交わす象型の怪人の姿だった。


『続きまして桜の開花情報です。鹿児島では早くも……』


 なんかあっという間に平和過ぎるニュースになる。彼は叫んだ。思わず叫んでいた。




「戦い、終わってるじゃねえか!?」




 ぶっちゃけ、それが彼の産声だった。

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