第13話 エピローグ

 あの日から1週間が過ぎても綾野祐介は機能

していなかった。あの日、最後に問うた答えが

見つからなかったからだった。しかし、それは

誰にも不可能なことだし、旧支配者達の封印は

いずれにしても解かれるべきではないとしか考

えられなかった。たとえその行為がアザトース

の封印を解く結果となってしまっても。やっと

綾野がそう自分の中で結論づけたときだった。

綾野の研究室を訪ねる人が居た。琵琶湖大学医

学部助教授、恩田幸二郎だった。


「綾野先生、そろそろ落ち着かれたころだと思

って来てみたのですが。」


 綾野の心を見透かしたようなタイミングが気

に入らなかったが、綾野自身も恩田助教授に聞

きたいことがあったのでちょうどよかった。


「ええ、やっと考えが纏まったところです。た

だ、先生が星の智慧派の信者だったとは驚きで

した。」


 恩田助教授は最近入信したのだという。その

理由は言いたくない、とのことだった。恩田助

教授は実は生物学の新山教授の娘婿にあたるら

しい。新山教授もどうも何か知られたくないこ

とがあるらしいので、もしかしたらその辺りが

絡んでいるのかもしれない。いずれにしても綾

野にはそれ以上追求できなかった。


「多分先生は気にしておられることと思って今

日は先日の詳細のご報告に来ました。」


 そうなのだ。先日のDNAの比較検討結果は

あまりにも衝撃的なナイ神父の登場のおかげで

あれ以上なされなかったのだった。


「もう一度確認しておきますと橘教授は、ああ、

橘教授はすでに家に戻られていますよ、連絡が

入りませんでしたか?」


「いや、多分なかったとおもうが。」


 まったく機能していなかった綾野は自信がな

かった。


「そうですか、まあ無事に戻られたことは確か

です。もう拘束しておく意味もないと判断され

たようです。」


「データが欲しかっただけなのだろう。」


「そうなりますね、それで結果としては橘教授

はクトゥルーの遺伝子を受け継いでいると判断

されます。祖父である故橘軍平帝都大学教授も

当然そうなるでしょう。これは以前から予測さ

れていたことだったようです。その事実を告げ

られた橘軍平教授のその後はご存知ですよね。」


 橘良平城西大学教授の祖父であり綾野の恩師

でもある橘軍平は先日亡くなったばかりだ。そ

の死因は謎だったが実は自らの遺伝子に隠され

た秘密を知らされたショックからだったのだ。


「それで先生に関しても同じことが言えるので

すが。」


 想像できる結末だろう。橘と同じように旧支

配者の遺伝子を受け継いでいるのだ。そして、

それは。


「多分ご自身でも予測されていられるとは思い

ますが、ナ・・・。」


 綾野には恩田助教授の言葉はそれ以上耳に入

らなかった。


END

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ナイアルラトホテップの影(クトゥルーの復活第3章) 綾野祐介 @yusuke_ayano

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