ストロベリーやラズベリーといった、ベリーにちなんだハンドルネームを持つ男女が集まったSNSグループ『ミックスベリー』。
その内の12人のメンバーがペンションに集まり初のオフ会を開くことになったのだが、しかし、そこで幹事役であったストロベリーが何者かに殺されてしまう。
さらにペンションと外界をつなぐ橋が落とされて外部からの助けを呼ぶこともできなくなってしまい……。
つまり、本作はミステリーの有名な形式・クローズド・サークルを扱ったもの。
事件は12人の参加者の思惑がそれぞれ絡み合うことで思いもよらない形に事件が進んでいくのはまさに王道の展開だが、それに加えて、本作が面白いのはハンドルネームの扱い方。
この事件では犯人が特定のハンドルネームの持ち主をターゲットにしているため、参加者たちは皆自分のハンドルネームを隠すことになります。
この仕掛けによって「いったいこの中の誰が犯人なのか?」だけではなく、「この人物の本当のハンドルネームは何なのか?」という点を推理して楽しむことができるのがこの作品の大きな特徴。
また全ての解決後に、グループチャットのシーンなどを読み返すと、思わぬ伏線に気付かされるでしょう。
(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=柿崎 憲)
クローズドサークルでの連続殺人事件と、ミステリ好きなら一度は夢中になったであろう古典的な舞台設定の本格ミステリです。
ただ、舞台は古典的ですが、クローズドサークルに人々が集まる経緯や動機は非常に現代的です。
あるチャットグループのオフ会のメンバーが惨劇に見舞われる、ということで、ハンドルネームと本名が結びつかず、そこがまた一つの仕掛けになっていたりと奥深いです。
登場人物を整理するのにメモが必要というご意見もありますが、個人的には少しずつ毎日読み、メモなしでも楽しめました。
さすがに序盤は多少混ざりましたが(笑)、謎解き部分に至る頃には、自然と頭に入るくらいの丁寧な情報開示は作者さんがしてくれているので、未読の方は身構えず、本格ミステリの世界を覗いてみてはいかがでしょうか?
Web小説では珍しい、非常に完成度の高い本格派ミステリ。
様々なベリーのハンドルネームを持つチャットのメンバー12人が、オフ会のため集ったペンションで殺人が起き、帰る手段も絶たれてしまう。
急遽本名の公開を取り止めたメンバーだったが、現場に残されたベリーの見立て通りに、次々と事件が起こっていく。
作中ではメンバーのニックネーム(ハンドルネームに非ず)しか明かされず、誰がどのベリーなのか分からないまま話が進む、というのが本作の肝です。
読み手は誰が誰なのかに想像を巡らせつつ、立て続けに起こる事件に直面していくことになります。
一見何の繋がりも見えないメンバーたちを繋ぐミッシング・リンクが、少しずつ解かれていく様には鳥肌が立ちました。
そして、謎が明かされた際には、その背景の理不尽さに思わず涙が滾り落ちてしまいました。
また、日本社会への問題提起という側面もこの作品には込められていると感じます。
タイトルに織り込まれた作者さんの想い・祈り・願いに、誰しも自らを顧みずにはいられないでしょう。
ミステリ好きも必ず満足できる出来映えで、読後感もよく一押しの作品です。 とても面白かったです。
紙とペンを用意し、メモを取りながら読み進めるのがおすすめです。
本作はクローズドサークルでの見立て殺人を主題としたミステリーです。
ベリーにちなんだ名前を持つメンバーだけで構成されるチャットグループが二泊三日のオフ会を開催したところ、参加者が次々殺されて……という筋立てのド直球の本格ミステリーですね。
さて、本作の白眉はやはり「見立て殺人」でしょう。
犯人はオフ会の参加者たちを殺害するとともに、二種類のベリーを残していきます。
ひとつは被害者の見立てとおぼしき潰されたベリー。もうひとつは、次の被害者の見立てとおぼしき他のベリー。
もちろんこれらは犯人がある目的のために残していったものなのですが、この見立てによって本名と紐付いたハンドルネームを知られるのは危険だという認識が早々に共有され、生存者たちが互いにハンドルネームと本名の一部を隠すようになるというのがまず面白い。
小出しにされるベリーたちの独白もあって「誰が何ベリーなのか」は本作においてかかすことのできない魅力的な謎であったように思います。
また、生存者たちがハンドルネームと本名の一部を隠し合うことによってより孤立感が深まっている点もうまいなと思いました(よく推理小説の登場人物が「こんなところで犯人と一緒に夜を明かすなんてごめんだ! 俺は部屋に戻る!」と言い出すことについて冗談のネタにされることがありますが、本作で初日に各々が自分の部屋で寝るのはさほど不自然な行動ではないでしょう)。
そして先ほどさらりと流してしまいましたが、犯人がベリーの見立てをした理由も良い。わたしはたまたま近いパターンのトリックを知っていたためそれで犯人を特定できたのですが、既存のトリックをうまく組み合わせて魅力的でユニークなトリックにまで磨き上げているように思います。
これだけでもおなか一杯ですが、まだあります。とある人物が、ベリーの見立てを利用し、一種の逆トリックを仕掛けるという展開があるのです。見立て殺人という素材をここまで掘り下げることができるとは、と感服することしきりでした。
警察関係の記述と、第二の事件について若干気になったこともありますが、ネタバレになるのでここでは触れないこととします(あ、でもひとつだけ。第二の事件のトリックそれ自体には驚愕しました。すごいです)。
まず間違いなく傑作と言って良いと思います。
骨太の本格ミステリーが読みたい方は是非どうぞ。
外部と連絡の絶たれた陸の孤島。
お互いが初対面のなか起きる殺人事件。
殺人に際して見立てが使われる。
これらのキーワードにピンときたそこのあなた、良い小説ありますよ!
それがこの「ミックスベリー殺人事件」です。
主人公たちは果実のベリー類の名前をハンドルネームを使うチャットのメンバー。そんな彼ら・彼女らがはじめてオフ会を行うことになる。奇しくも、これもまたベリー農園を併設するペンション・カシスで……。そして彼らは実物のベリーを予告のように置かれることで次の犠牲者を知るのです。
古き良きクローズドサークルものと言ってしまえばもはや説明はいらないでしょう。
興奮はここまでにしておいて、中身のほうに入らせていただきます。筋書きもさることながら、ストーリーのなかに一人ひとりの思惑がきちんと組みこまれている点が素晴らしい。心理状況などもちゃんと配慮されているのもかなりの好印象。
十人を超える登場人物は完全にバラバラな個性の持ち主で、それほど混乱することもありません。さらに挿入される独白は、「このHNは誰なのか」と読者に想像・推理させることもできています。また、最後の種明かしに関しても、無理のないところから少しずつ読者を説得し、納得させていく手法もちゃんとできているのがすごい。
まさに「クローズドサークル物の王道」ともいえる本作。
とはいえ、読む人にとっては王道である分物足りなさを感じるかもしれません。ある程度予測がつくことも……しかし、それがどうした! はじめてクローズドサークル物を読んだあの懐かしい空気がここにはあります。
いやむしろ、はじめてミステリーを読むという方には、ここからその道へと転がり落ちてくることを期待しています。
ミステリーとはこんなに面白いのだ!
それにしても、これを一つ書き終えるのにどれほどのものを調べ上げたんでしょうか……。それぞれの登場人物にあてはめられたベリーの知識ひとつとっても、上等な伏線のような気すらしてしまいます。
読了後、「美しい」という言葉が浮かぶ。そんな、謎の絡み合いもそこに込められたメッセージもこの上なく秀逸な、磨き抜かれたミステリーです。
SNSで知り合った、実名も顔も知らないメンバーが初めて会うオフ会で起こる殺人事件。メンバーたちの心の動きと、それぞれの行動。登場人物たちの動きがもつれることなく、読む者の頭にすっきりと流れが入り込んでくる文章運びは見事です。
そして、この事件の裏側に隠された、残酷な現実。それが明らかになる時、社会の深い闇をも見せつけられる思いがします。
細部まで行き届いた緻密な設定は見事としか言いようがありません。そして、登場人物達の心の変化など情緒的な部分についても深い味わいを楽しめる点も、この作品の大きな魅力です。
読んだ後、様々な思いと大きな満足感が心に残る。多くの方にぜひ楽しんでいただきたい作品です。
とにかく最初に思ったのが、この人数の実名とハンドル名が入り乱れるのか……という気持ち。これはハードルが高そうだぞ、と思ってしまった。いくらクローズドサークルの話と言っても、やはりWeb小説で十人以上が一度に出てくるのは多いだろう、と。
しかしこれが読みすすむうちに次々に起きる事件と過去の出来事、真相への謎ときにつながっていき、全く飽きない。個性のあるキャラクターや様々なベリーに関するTIPSを取り入れる遊び心がありつつ、メインのストーリーは要所要所で「これは!」と思える展開が待ち受けていて、ラストまで楽しむことができた。
この大作を論理的な整合性を意識しつつエンターテイメント性や社会派的メッセージも存分に取り入れた作者の意欲には感服するしかない。
見事なミステリです。
私には書けない。
オフ会メンバーがペンションに集うとき、惨劇の幕が切って落とされる――。
タイトルとあらすじを見て、ミステリー好きの血がざわざわと騒ぎました。と同時に本作は、私の期待に応えることの出来るミステリーだと半ば確信して読み始めたのですが……。
まず思ったのは、これだけ文字の圧力があるにも関わらず、読ませてしまう技量がすごいということでしょうか。会話ではなくほぼ地の文で物語を進めていくところも、本格ミステリーたらしめる魅力に溢れていて、私のドストライクでもありました。
しかし、殺戮の舞台がいいですねっ。背後には樹海があり、閑散とした中にあるペンション。しかも吊り橋は切断っ、陸の孤島っ! これで殺人事件がおきないわけがないっ――というのは言い過ぎですが、舞台としては最高です。私の好きなゲーム『かまいたちの夜』もペンションですから(これは結構どうでもいい)。
そして集まるミックスベリーの十二人。最初の犠牲者は誰なのか――。
読みだしたらもうやめることはできない。最後まで読んでラストの真相に驚愕せよっ!
皆さまの本作を読んで有意義な時を過ごしてみませんか(⌒∇⌒)
サスペンスとか推理物って個人的にあまり読まない分野なのですが、とても有意義な時間を過ごすことができました。
登場人物が多いことで、読む前は「大丈夫かなぁ……」なんて思っていましたが、適宜適切な紹介がされていたことで、登場人物のイメージが浮かび、各キャラが頭の中で動いてくれました。
前半は今風のサスペンスとして楽しめ、最後はひと昔前の刑事ドラマのような渋さが感じられ、個人的には「新旧いいとこ取り」とか「一粒で二度美味しい」と言った感じでした(笑)
あえて言わせてもらえば、後日談はもう少しダイエットしても良かったかぁと思いました。あのパート(事件解決後の部分)は作者として語りたい部分であるのは重々承知していますが、同時に読者が余韻を楽しむ部分でもあります。そう考えると、マスターベーションに陥っている嫌いがあり少しくどかったかもしれません(5時間が経とうとしていたことでそう思っただけなのかもしれません(笑))
……と重箱の隅をつつくようなことを言いましたが、決してマイナス評価をするつもりはありません。ボクには書けないストーリーであることはもちろん、読むのが苦手なボクを5時間画面に向かわせた筆力は尋常ではありません(そこかよ)
書店に並んでいてもおかしくない力作――書籍化されてより多くの方の目に触れることを心より祈念するとともに、ボクの知的好奇心を満たしてくれたことに感謝いたします。