鮮烈な謎と推理の引力。技巧満点の本格クローズドサークルミステリに酔え!

あらすじにもある通り、ジャンル的にはいわゆる「クローズドサークル物」と呼ばれる種類の本格ミステリです。
同じ銀鏡怜尚さんの代表作『深緋の恵投』は、社会派的なテイストも織り交ぜた医療ミステリでしたが、今作では特にトリック面が大幅に強化されていて、推理要素の歯応え抜群の一作に仕上がっています。

特徴的な部分は、やはり登場人物に本名とネット上で名乗るハンドルネームが別々に設定されているところでしょう。
「仮想空間で知り合ったあの人は、現実世界の誰なのか」というパズルを軸に、殺人事件の謎解きが進行していきます。

また、エピソード構成も一捻りあって面白い。
1:「本編ストーリー」
2:「チャットのログ」
3:「登場人物の独白」
という、三種の異なる場面が、それぞれ別々の視点・人称で描かれていて、それが本格ミステリとしての謎解き要素を、いっそう興味深いものにしています。

それにしても、銀鏡さんのお書きになる文体(及び物語そのもの)は、決して安っぽくないのにスイスイ読めるし、大変魅力的ですね。
『深緋の恵投』も19万字があっという間に感じたのですが、今回の20万字に及ぶ連載でも、また同じような体験をさせてもらえるとは……。
これはやはり、文章自体の歯切れの良さとか、ストーリーの引力の強さなのでしょうか。

そんなわけで、とにかくグイグイ引き込まれる長編ミステリがお読みになりたい方は、是非ご一読を!

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