収録不能な鎮魂歌

 本当に久しぶりに、文句なしの傑作SFだった。これぞSF。
 食べるという原点を安直な倫理……『ハンニバル(トマス・ハリス著 高見 浩訳 新潮社 敬称略)』のレクター博士風にいえば、『道義用排泄パンツ』で無理矢理覆った社会。ディストピアそのものだ。誇り高い一匹の猫はそれに抗い続け、遂に戦死した。多分あれは、主人公への仁義を貫きつつも己の志を通す唯一の手段だったのだろう。野蛮な精神を放逐したはずの社会が極めつけに野蛮という、救いようのない逆説。残された(遺された)人間どもは、あたかも江戸時代の大富豪達のように、ご禁制を密かに破る仲間意識くらいしか正気を保つ術はない。
 それにしても、ガン細胞のごとく無限に増殖する細胞をもって支えられた人類社会は、いつか木っ端微塵にしたくなる。残虐さと向き合うのを黙殺して我(ら)こそ清純でございという連中をこそ食糧にしたい。野蛮な社会を彼らが食い物にしたように。

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