完成度の高い短編です。
深刻なテーマを、カラっとした性格の毒突き婆さんを主役に添える事で、ジメジメした雰囲気を一掃しています。
そして、随所に金言を散りばめています。作者はお幾つくらいの方なのでしょうか?人生なんて長く生きれば充実するというものでもないでしょう。もし、作者が若いならば、大変ご苦労をされた。でも、振り返ってみると、骨太の人生を歩んこられた方だとお見受けします。
先程、深海映さんの「ロボットに育てられた少女」に星3つを付けたばかりで、立て続けに、短編には星MAX2つの信条を反故にしてしまいました。
皆さん、上手いですね〜。短編の可能性というものを感じた1日でした。
人口爆発と食糧危機が心配されていた時代の『ソイレント・グリーン』や『定年食』よりはマシになりましたが、人的資源の劣化は如何ともし難い。
私が百才まで生きたとしても、ちょうどその頃人口の4割が高齢者となり、私のような虚弱者は一番有難がってもらえない(苦笑)。この作品そのままのようにはならずとも、自然・社会環境が悪化した場合には、助けきれずに犠牲となる恐れが増えてしまうでしょう。
この問題への対策も含め、①物的資源(資源枯渇・環境破壊)②人的資源(能力・資質低下)③経済・社会(急速な景気変動や格差拡大)の持続可能性を高めて、地球というひとつの空間的限界に到達した人類文明の、時間的な持続を図る技術と政策が求められます。
そうした技術はすでに生まれつつあります。①再生可能なエネルギー・材料資源の技術。②人的資質の経年・経代劣化を人道的な手段で防ぎ、補える先進医療・ICT技術。③より公正で効率的に、争い少なく利害を調整して、人間の社会的意思決定も助けることにより、資源の再分配と再投資を両立させ易くするビッグデータ処理技術。農業・工業・情報技術に続き、生体工学・生物工学や人工知能が生み出した、自然環境だけでなく体内環境や社会環境にも優しい『環境親和技術』、あるいは人工物と自然物、特に生体との垣根を取り払う『生体親和技術』です。
そのような技術を①適切に開発し、物的資源として普及させる技術政策や、②悪用・誤用せずに善用するための政策を考え、支え、受けて活かせる人材を育成・確保する教育・保健政策、そして③両資源を経済・社会の持続的発展のために再投資・再分配して活用し、宇宙開発などさらなる技術革新につなげる産業・社会政策が期待されます。
70年で人生の「定年」を迎える。
少子高齢社会となった日本において、これから本当に起こりうるかもしれないテーマを扱った名作短編です。
作中の幾子ばあちゃんの生き様や名言は人生の教訓になります。
それだけでも読む価値充分。
元気で闊達で、毒舌だが寛容でもある幾子ばあちゃん。
そして「定年」を迎えるときには、皆が惜しんでくれるくらいのお人柄。
こんなおばあちゃんが近くにいてくれたらなと思うとともに、そんな愛される人間が強制的に人生の終止符を迫られる世界(これは現実化するかもしれない)を風刺した作品で、最後は余韻を残してくれます。
おすすめです。★3つでは足りないくらいです。
藤子・F・不二雄先生のSF短編『定年退食』を思い出す傑作でした。
——「この世界はね、続けていれば必ず成功するようになっているの。けど問題は、間に合うかどうか、なのよね」
——「だけどね、人生は限られてるんだ。どっちにしろ、私の時間はいつか尽きる」
これはこの作品の中で印象に残った台詞です。しかし、私情を入れるとすれば、僕は病気のような事態にならない限り、制限時間なんて無いと思っています。人間には常に成長の余地がある。ならば、元気なうちは幾つになっても挑戦していたい。「お前ら、そんな人生で満足か? 俺は、嫌だね……」と。
それでも、病気に耐え、介護などのため、若い世代に負担をかけてまで生き続けるのはどうかと思う部分もあります。どちらにせよ、読んだ後に何を感じるのかはあなた次第です。肯定するにしても否定するにしても、考えさせられる作品で、「長く生きることに意味はあるのか」というのは死ぬまで答えは出ないテーマでありましょう。「終活」の生き様も人によって違いますからね。
すごすぎる…え、本気でこれすごくないですか?
高齢社会の問題点を逆手にとって、これほどまで命の価値について考えさせられるとは思いませんでした。
正直、僕も長生きしすぎる高齢社会に危機感を持っています。
すぐ死ねとは言いませんが、ほどほどのところで老人には往生してもらわないと、とてもお年寄り全員を養えないのが現実です。
そちらにばかりお金がかかってしまい、若い世代が苦しみ、子供を産めない世の中になっているのは純然たる事実です。このままでは国が立ち行かなくなる。すでにそうなりかけている。老害、という言葉がずいぶん身近になりました。
その中で、いかにやりくりするのか。
安楽死や尊厳死の問題とも直結する、非常に高尚なテーマです。
安楽死が正常に機能するのならば、作中のように、定年で命を絶つのも悪くないと思います。海外では実際に採用している国もあります。
そのとき、残された者はどうなるのか。
美莉奈ねえちゃんの存在も巧妙ですね。
キャラクターの配置からも、作者様の問題提起を感じました。
長く続く介護によって、親を想う故に現役世代が就労困難となる。
貯えが不足した老夫婦が心中同然に世を去る。
一方それでも老人は増え続け、トータルでの世代間格差は増大する。
現実世界で連日報道される話題です。
生きる権利を売るがごとくの老齢ビザがその解法になるのか?
否、ここで描かれる未来図は、ぼんやりとした不安で我々が隠しているものが老齢ビザと言う形になって明確にさらけ出された世界。
「お別れ式」CMとかすごいです。
国から「定年」の老人を迎えにくるのが「灰色のバン」であることが、この世界の本質を表していると受けとりました。
幾子ばあちゃん、サンディ、佐々山さん、「定年」組がみんな魅力的。