第10話

7月下旬、日本列島は梅雨が明け、毎日うだるような暑さが続いていた。

そんな中、ゆいかはたけひこと軽井沢に来ていた。

ゆ「あー、やっぱり涼しいわね軽井沢は」

た「ああ、もう東京に帰りたくないよ。茨城も暑いでしょ?」

ゆ「うん、東京より少し涼しいくらいかな?」

気温28°C、軽井沢にしては高いが湿度が低いおかげもあって、非常に過ごしやすい。



夜8時、日が暮れてひんやりとした空気が別荘街を包む。

ゆいかとたけひこは、その一角にあるコテージを借り、5日間を過ごす。

ゆ「たけちゃん、今日作ってくれたマカロニグラタン、めっちゃ美味しかったわ」

た「ありがとう」

ゆ「やっぱり料理が上手ね、あなた」

た「最近レパートリー増やそうと、料理教室に通ってるんだ」

ゆ「え、そうなの⁉︎ 知らなかったあ〜」

た「ゆいかにはまだ言ってなかったからね」

ゆ「料理教室ってチェーンのところ?」

た「うん、ABCクッキングスタジオ。おれの最寄り駅の松戸にあるからさ、そこに通ってるんだ」

ゆ「雰囲気はどんな感じ?」

た「生徒さんは、本当に老若男女たくさんいて、面白いよ。10代の女子高生から70過ぎのおばあちゃんまで」

ゆ「そんな若い子もいるのね〜

……私、たけちゃんのこと信じてるけど…大丈夫よね?」

た「まさかあ〜」

ゆ「フフ、なら良かった」



気がついたら時間は夜10時になっていた。

たけひこは麦茶を飲みながら、雑誌をパラパラとめくっていた。

一方ゆいかはワインを1本飲み干し、バルコニーにある木製の動く椅子で、寝息を立てながらまどろんでいる。

ス〜ス〜う〜ん…

た「ゆいか…こんなところで寝たら風邪ひくぞ」

たけひこはタンクトップ・半ズボン姿のゆいかに毛布をかける。





翌朝5時半、夏の陽は早く別荘街を明るく照らし始める。

ゆいかは左手にキャリーバッグを持ち、コテージ前の通りに一人立つ。

まもなくタクシーがやってきて、ゆいかの前に止まる。

ゆ「軽井沢駅まで」

運転手「はい」

20分後、タクシーは軽井沢駅北口へ到着した。



6時34分、始発の東京行新幹線。

ゆいかは左手窓側の席に座る。

真夏の朝、輝く朝日に照らされ浅間山が映える。

ゆっくりと列車は発車し、山影が視界から徐々に消えてゆく。

家を出てから終始無口・無表情だったゆいかだが、目に涙が溢れてくる。

ゆ「たけちゃん…ごめんなさい……許して…」

ゆいかの涙は頬を伝い、膝へと落ち、スカートの生地を薄く濡らす。







朝9時すぎ

たけひこは目を覚まし、リビングに向かう。

テーブルに目を遣ると、一枚の便箋が。



たけちゃんへ



結婚のこと、すごく悩み考えました。

結論ですが…ごめんなさい。私あなたとは結婚することができません。

今、私は仕事が大好きで、結婚をし、子供を産むという未来が想像できないの。そして、一緒にいてあなたを幸せにする自信もありません。

そんな中途半端な状態で交際を続けても、お互いに不幸になってしまうだけだと思うの。

だから、お別れしましょう。

こんな形であなたのもとを去ってしまって、本当にごめんなさい。でも、私が精一杯考え抜いた上での決断なの。それだけはわかって下さい。

今まで私を愛してくれてありがとう。そして、お幸せに。

最後に…私を探さないで下さい。



大澤ゆいか



たけひこは体を震わせ…

「ゆ、ゆ、ゆいかぁぁぁぁ〜〜〜‼︎」

一人コテージに残されたたけひこは、しばし慟哭することしかできなかった。





3日後、神戸にて

ゆ「あきらさんごめんなさい、出張先まで来ちゃって」

あ「いや、いいんだよ。こうやって茨城以外で会うのは初めてだから新鮮だな」

ゆ「フフ、そうね」

あきらは今日明日と仕事で神戸に来ている。夏休み中のゆいかは、あきらを追いかけ、わざわざ茨城からこちらまでやってきた。

二人は三宮駅前にあるホテル・ルグランのレストランで食事をとっている。

ゆ「あのね、あきらさん」

あ「なんだい」

ゆ「私…たけちゃんと別れたの…結婚する決心が付かなくて……」

あ「えっ!…そうなのかあ…」

ゆ「あきらさん…私、やっぱりあなたしか考えられない…あなたと結婚したい…」

あ「………ゆいか…おれの部屋で話さないか?」

ゆ「うん…」





ルグランの18階

あきらが泊まる部屋の窓は南を向いており、神戸の街並み・港が一望できる。



あ「ゆいか…気持ちは嬉しいよ、すごくすごく、嬉しい。天にも昇りたい気持ちだよ」

ゆ(ニコッと微笑む)

あ「ただ……さよと別れることはできない。さよはおれのことを存分に愛してくれている。君と同じくらいだ。その気持ちを裏切ることはできない」

ゆ「……」

あ「君の想いに応えられなくて、申し訳ない…」

ゆ「あきらさん…大好き…本当に好き…」

ゆいかはあきらの胸元に顔をうずめ、すすり泣く。

あ「ゆいか…」

あきらはやさしく、ゆいかの背中をさする。

気がつくと、ゆいかはそのまま寝息を立てて、眠っていた。



しばらくして

あ「ゆいか…起きた?」

ゆ「……あ、私こんな格好で寝ちゃってたのね、ごめんなさい」

あ「いや、いいんだ。ゆいか、目が真っ赤だよ、ずっと泣いてたから…」

ゆ「あきらさん…」

あ「なに?」

ゆ「一回だけでいいの…あなたと繋がりたい」

あ「……」

ゆ「あなたとの本当の恋を確かめたい」

「………バサッ!」





出逢って3年、ゆいかとあきらは一線を越えない交際を続けてきたが、熱い欲情をもはや、抑えることはできなかった。

ゆいかの着ている紺のノースリーブニット、白いスカート、あきらは絡め取るように脱がせる。同時にゆいかも、あきらのカッターシャツ、スラックスをゆるりと脱がせる



ゆ「あ、あきらさん、そこ、そ……あん、ああ〜気持ち…うーん」

身長165cmのスレンダーで魅力的な肉体は、前戯だけでも強く感じ、右へ左へ緩やかに動く。

ゆ「ああっ…あっ、あーーーん」

ゆいかのその反応を目にし、あきらの力は、より入る。胸だけでなく、頭から顔、そしてつま先からあそこまで、あきらの感情を持った諸手が、ゆいかのグラマラスな体を侵す。

ゆ「あん、あ、あっ」

ゆいかの長い髪が揺れるたび、ほのかなコロンの香りが漂う。

1時間弱の長い前戯を終え、いよいよ、ゆいかとあきらが一つになる瞬間が来た。

あ「(嗚呼、こんなに激しく勃っているのは一体何年ぶりだろうか…?)」

ゆ「(あきらさん…なんて太くて勇壮なナニなの…もう、すべてを受け入れるわ、さあ、来て!)」

言葉にはしないが、思いだけで二人は通じ…

ゆ「あああ〜、あああ〜、気持ちいい〜ああん〜ん〜!」

ゆいかは狂おしいほどに感じ、額に汗を滲ませる。それを見てあきらは、覆い被せるように、ゆいかの唇を奪う。

ゆ「ん〜〜!、んうう〜! んんんん〜ん!」

言葉にならないゆいかのあえぎ声、あきらはますます興奮し、体を動かすペースが早まる。



そして、10分後


ゆあ「あっ!…」





港にはフェリーが一隻、濁り水に常夜灯が反射し夜景をより美しく魅せている。

ゆいかとあきらは眼下を見渡し、ゆっくりと語らう。



ゆ「あきらさん♪」

あ「なんだい、弾んだ声で」

ゆ「わたし、幸せ♪こんなに綺麗な夜景を、大好きなあなたと見ることができて」

あ「フフ、おれもだよ…

ゆいか…さっきは楽しかったよ、ありがとう」

ゆ「あきらさん、すごくうまくて、私あなたのペースに乗っかるだけだったわ」

あ「ンハハ、そう言ってもらえて嬉しいよ」

ゆ「ねえ、あきらさん」

あ「なに?」

ゆ「私たちの恋、本物だったのね」

あ「そりゃそうさ、遊びなわけないさ」

ゆ「エッチして、改めてそれがわかったの……本物だからこそ、あなたとは結婚できないことがつらい…(薄ら涙を浮かべる)」

あ(ゆいかの背中を、やさしくさする)



しばらくして、あきらが口を開いた。

あ「ゆいか…今のこの関係を続けないか?」

ゆ「……」

あ「さっきも言った通り、さよと別れることはできない。でも、今おれにとって君は必要だ。君はさよにはない美しさ・心の純粋さを持っている。たけひこくんと別れ、おれに結婚を申し込んでくれた君の気持ちを尊重したい。おれが今できる精一杯のことが、今の関係を続けることだ…」

ゆ「うん…」

あ「ゆいか…神戸まで来てくれてありがとう」

ゆ「ううん、今日会えて嬉しかった…

あ、もう夜中の1時、そろそろ私が泊まってるホテルに戻るね」

あ「ああ、気をつけてな」



二人は頬にキスを交わし、ゆいかはあきらの部屋を出た。



ゆいかからの求婚、そして初めての情事、この数時間で数年分のできごとが起こったかのようだ。

一線を越えてしまったゆいかとの交際、そして、たけひこと別れるほどの相当なゆいかの覚悟…

それを思うと、あきらの眼はますます冴え、まったく寝付くことができない。



午前2時、三宮の街は静かに寝静まっている。





つづく

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