センスの足りない読み手には理解すら許さない作品

かく言う僕にも、控えめに言ってわけがわかりませんでした。
僕にはまだまだ読者力が足りないようです。
......感想、これで合ってますか?(笑)

真面目な話、このわけのわからなさこそが作品の醍醐味なのだと僕は解釈致しました(もちろん褒め言葉です)。
過去、これほどまでに主人公と感覚を共有できる作品はあったでしょうか。
自身の置かれている状況が飲み込めない主人公。作品の内容がなかなか理解出来ない読者。そして、最後まで個としての正体の明かされない二人称(あなた)。
もはや無粋かもしれませんが、小説の文面を越えて現実の「あなた」に作用する混乱、これこそが、この作品の意図するところなのではないでしょうか。
もはや「主人公」という概念そのものも危うくなります。
僕は当初、この作品は斬新なショートショートラッシュなのだと錯覚致しましたが、こちらの方がしっくり来ます。無論、ショートショート的な世界観も作品における大きな魅力であることは言うまでもありません。

「あなたは月面に倒れている」
この一言を今ここでもう一度目にして、あなたが頭に思い浮かべたものは何でしょうか。
僕は、あの月面で「過ごした」ひとときを思い出しました。
......ん? これは果たして本当に僕の思い出だっただろうか......。
きっと、そういうことです。

しかし、この作品をある特定のジャンルにカテゴライズすることは不可能ではないでしょうか。或いは、既にそのようなジャンルが存在しているのかもしれませんが、どちらにせよまったく独立したジャンルであることには間違いありません。
そのジャンル名を尋ねられたら、僕は「カンガルー」と答えることでしょう。
果たして、僕の解釈はどこまで正解なのでしょうか......。
混乱は、まだまだ続くようです。

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