これは花を送り――魂を葬る物語!

まず、設定が非常にユニークであり秀逸である。

人間国宝の部門に『御伽術師』があり、御伽噺にちなんだ能力を使える人間が連綿と受け継がれているという世界観。リアリティを保ったまま、それいてファンタジーを描くマジックリアリズム的手法が上手く使われていると思う。

御伽術師たちの能力も非常に限定的であり、かつ強大すぎないことが、さらにリアリティに寄与している。

主人公の灰慈は灰を花に変える能力、もう一人の雀使いはスズメと会話できる能力と、地味と言えば地味な能力が作中でしっかりと機能する。

物語は、おそらく読み進めてしばらくすれば、直ぐに「ああ、なるほどこうなるな」と予想できるものだが、しっかりと描写された世界観、一人称による心理描写、そして丁寧にかかれたストーリーが相まって、ぐいぐいと読ませる。むしろ、予想した結末に向って進んでほしいとさえ思ってしまう。

花を送り、魂を葬る――花葬りのシーンは、まさに必見の一言。灰が花へと変わる瞬間がありありと目に浮かんだ。

最後まで読めば間違いなく感動し、この三万文字という短さの物語に込められた優しさや切なさ、思春期の少年少女の苦悩やいじらしさを堪能できるだろう。

できることなら、夕日みたいに真っ赤に染まった耳だけでなく――もっと色々な色に染まっていくだろうヒロイン・水川雪乃を見たいなあ!

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