『世界地図は大きいな』

「凄いよなあ、この大陸。」

「ああ、きっと馬鹿でかい船が何隻も停まっている港があるんだ。」


 大海原の上で、航海士たちは世界地図を見ながら口々に呟く。彼方にある大陸を目指し、今日も今日とて船を漕ぐ。


「うわあ、なんだこの海は。」

「きっと黒いんだ、化け物がいるんだよ」


 見果てぬ海の先に、どんなものが待ち構えているか分からない。心して航海しなければ。


「あれ? ここの大陸、真っ白だぞ。」

「きっと雪が降り積もっているんだ。寒いぞ、凍えるぞ。」


 気候も大きく違ってくるだろう。幸い、出航の前に準備を念入りにしてきたので恐れることはないだろうが。


「なあ、後何日こうしてれば大陸に着くんだ?」

「きっともうすぐさ。ほら、向こうに何か見えないか?」


 出航してからもう一ヶ月は経っている。地図をしっかり読み込んで、大陸までのルートはバッチリのはずなのだが、未だに辿り着かない。きっと慣れない航海で少しだけズレがあるのだろう。


「もしかしてだけどさ、少し良いかな?」

「なんだよ、言ってみろよ。」


 船員の一人がちょっとした疑問をぶつける。


「みんなの中で、国を出たことがある奴はいるか?」

「いいや、みんな今回が初めてさ」


「みんなの中で、外国の光景をテレビや雑誌、文字以外の方法で見たことがある奴はいるか?」

「いいや、みんな初めての航海でワクワクしてる。カメラだって持ってきたさ」


 憧れの国外を間近にして、船員たちに再び勢いが戻った。その様子を見て質問した船員が言った。


「この中で誰一人外国を直に見た奴は居ない。国にあったこの地図を頼りに航海しても、まだ目当ての大陸の舳先すら見つかってない。


 ならさ、俺たちの目指してる大陸ってどこにあるんだ? 俺たちの知ってる『外国』は、本当にこの海の向こうが、確かに存在してる証拠はどこにある?」


 沸き立っていた船員たちの熱が、一気に冷えた。確かに、自分たちは地図やテレビでしか外国を知らない。小学生の頃から海の向こうには広い大地が広がっていると聞いていたし、そのことを誰もが疑いはしなかった。海の向こうには世界がある。それが当たり前だ。そう思えば思うほど、船員たちの心に晴れない疑念が渦巻く。


 遥か遠くに地が見える。それは、何故か懐かしい船出の港に似ていて……

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