『素敵な奪い合い』

 捻くれた少女がいた。少女は生まれつき、他人を信じることを止め、世の中の理を競争社会と考え、人生は奪い合いだという主義を持っていた。


 ある日、少女の前に朗らかな少年が現れた。少年は少女に、他人を信じることの素晴らしさや、助け合いの精神の重要性を説いた。


 少女は青い考えの少年を笑い、人間社会がいかに各々の奪い合いで作り上げられているかを小馬鹿にした態度で諭した。少年は意外にもこれに納得し、


「確かにこの世は奪い合いだ。君の言うことは正しいよ。」


 と少女の考えに理解を示した。人生で初めての理解者を手に入れた少女は舞い上がり、少年とともに過ごすようになった。


 20年後、少女は綺麗な女になっていた。両腕には幼子、隣には自分を女にした男が、20年前と変わらぬ態度で立っている。男は女に、


「僕たち、素敵な奪い合いをしたね。」


 と囁いた。女は赤面した。

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