例えば、あり得るかもしれない街談巷説

夜乃偽物

『世界最高のペット』


 とある研究施設。男はそこで、世界最高水準の心理学実験を行っていた。本日まとまった成果が出た為、スポンサアに連絡を取り、研究成果を伝える。


「酢本さん、できましたよ。世界最高のペットの完成です。」

『おお、できたかね。どれ、どんな調子が教えてくれないか。』


 男はショウウインドの中にいる完成品の様子を見ながら答える。


「良好ですよ。数枚の紙をぶら下げるだけで、どんな飼い主にだって従います。飼い主の命令とあらば、自分の糞でも食うほどです。」

『凄いな、驚異的な忠義心だ。他には?』


 男はマジマジとペットを眺めて、研究成果を思い出す。


「愛嬌も、普通のペットとは比べものにならないほど振り撒きます。かつ、時たま知的な面も見せることがあり、多くの層を取り込めるでしょう。あ、もちろん去勢済みですよ。」

『完璧だな、流石だ。君に研究を任せて良かったよ。こうなると、逆に欠点が知りたい。』

「欠点ですか……。」


 数秒考え、


「彼らは特別な印刷が施された紙を持った人間にしか、従属しません。もっとも、その紙は世界中で発行されているので収集は難しくありませんが。」

『そんなものは弱点とは言えん。もっと、知っておくべきことを教えてくれ。』


 溜息をついて、男はガラス越しに見えるペットを見下ろす。よちよちと四つ足で歩行する、ただの愛玩動物に成り下がった生き物を心底軽蔑した目付きで睨みつけながら、世界最高のペットの致命的な欠点を漏らす。


「この生物、世界で一番醜いんですよ。」

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